新型コロナウイルスの感染拡大の防止と社会経済活動を両立するため、日本旅館協会などの宿泊施設関連団体は「宿泊施設における新型コロナウイルス対応ガイドライン(第1版)」を発表しました。
緊急事態宣言が解除となり徐々に社会経済活動が本格化する中、同時に事業者には衛生管理の徹底や新型コロナウィルスの感染予防対策が求められています。
本記事では感染防止策を実施しながら旅館が経済活動をつづけるために、ガイドラインの内容に触れた上で、自宅で楽しめる食のサービス、独自のプランで活路を見出す旅館の事例やアフターコロナに向けて利用できる補助金、キャンペーンの情報を紹介します。
新型コロナ感染予防のための対策
2020年5月14日に全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会、日本旅館協会、全日本シティホテル連盟の宿泊施設関連団体が「宿泊施設における新型コロナウイルス対応ガイドライン(第1版)」発表しました。
以下では基本原則、遵守事項や宿泊客への対応策について解説します。
宿泊業のガイドライン基本原則
同ガイドラインは、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議により、「今後の感染拡大の予防と社会経済活動の両立を図っていくには、業界団体などが主体となり、事業者において提供するサービスごとに具体的な感染予防策を検討し、実践することが必要となる」という提言を受け作成されました。
具体的な感染防止対策は、新型コロナウイルスの予防に係る専門家の知見、宿泊客の要望、事業者側の受入環境などを基に、検討されました。
基本原則としては、いわゆるソーシャルディスタンスと呼ばれる、スタッフと宿泊客や宿泊客同士間の対人距離を確保すること、チェックイン・アウト時に密を回避するため宿泊客の受け入れ環境を整えることをあげています。
また、特にフロント、ロビー、大浴場、レストランなど人が集まるところの感染防止のため、換気の徹底や宿泊客のマスク着用の周知をあげています。
さらに、消毒や手洗いなど衛生設備の充実、客室や施設内の定期的な清掃、スタッフのマスク着用と体温測定などによる健康管理を提示しています。
各エリア・場面ごとの共通事項
各エリア・場面ごとの共通事項としては、ドアノブやスイッチなど人の手が多く触れる箇所の重点的な消毒、特にコップやはしといった口に触れるようなものは使い捨てへの代替が提示されています。
また、人と人が接触するような場所では飛沫感染を防止するために、一定の距離を確保できる環境調整やアクリル板、透明ビニールを活用した非接触の工夫があげられています。
さらに、ユニフォームや衣服をこまめに洗濯する、アルコール液などの消毒剤を客室、風呂、共用トイレなどいたるところに設置するなど、宿泊客、スタッフの中に無症状感染者がいる可能性を考慮して、防止策に取り組むこととしています。
その他ロビー、客室などのエリアごと、チェックイン、食事、清掃など場面ごとの留意点も示されています。
宿泊客の感染疑いの際の対応
ガイドラインには、コロナウイルスの感染者と疑われる宿泊客がいる場合の対応策も記されています。
万が一に備え、事前に感染の疑いがある宿泊客を待機する部屋を決めておき、発熱や呼吸困難、けん怠感などの症状が発生している場合、マスク着用の上、客室内で待機させ、他の宿泊客を接触させないようにすることとしています。
さらに、該当の宿泊客と接触するスタッフを限定し、対応時にはマスクを着用することと示しています。
また、宿泊者名簿を確認した上で、保健所の「帰国者・接触者相談センター」に連絡し、感染の疑いのある宿泊客の状況や症状を伝え、適宜、情報提供など保健所からの指示に従うように提示されています。
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ウィズコロナ時代の新サービス事例
次に、上記ガイドラインに提示されているような新型コロナウイルスの感染防止策に取り組みつつ、自宅で楽しめるサービスや独自のプランにより集客に励む宿泊施設の事例を紹介します。
宅配・持ち帰りサービス
新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛が続く中、ホテルや旅館の味を自宅で楽しんでもらえるようデリバリーやテイクアウトによってお弁当、スイーツ、パンを提供する宿泊施設もあります。
埼玉県では、県内商工団体を通じて県内の宿泊・飲食業者が集まり、宅配や持ち帰りで楽しめる食事の情報を、埼玉県公式観光サイト「ちょこたび埼玉」の特設ページ内にて発信しています。
また、デリバリー、テイクアウト事業を促す方法としてはウェブサイトだけでなく、SNSを活用した「#〇〇エール飯」(〇〇には各自治体名が入る)というハッシュタグをつけての情報拡散をしている自治体もあります。
卒業おめでとうプラン
新型コロナウイルスによる旅行の自粛により、多くの宿泊施設が休業を余儀なくされている中、一棟貸しの特別プランを提供することで、リスクを抑えつつ集客をする宿泊施設があります。
例えば京町家コテージkariganeでは、コロナの影響で卒業式や卒業旅行がなくなった学生向けに、卒業生にあたる宿泊客の料金を5,000円値引きする特別プランを売り出しました。
一日一組限定の一棟貸しのため、他の宿泊客同士の感染拡大のリスクも抑えられるとしています。
疎開宿泊プラン
長野県蕨(わらび)温泉の旅館「旅館わらび野」では、「疎開宿泊」として新型コロナウイルスによる在宅勤務の人向け、学校が休校した家族向けに、連泊や長期滞在を想定し価格を抑えた宿泊プランを打ち、活路を見出しています。
館内では様々な感染症対策が実施されており、館内の消毒、清掃、換気の他、朝食は客室で食べられるよう弁当としたり、事前に布団を敷いておくことでスタッフの入室を減らしたりなどの工夫が施されています。
外出を控えているが在宅勤務や休校によるストレスを、人混みを避けた自然環境豊かな地で解消したいというニーズに答えるべく考案されたプランといえるでしょう。
アフターコロナに向けた支援
最後に、独自の取り組みで苦難を乗り越えようとする宿泊施設がある一方で、アフターコロナに向け、補助金や助成金が必要な旅館、ホテル、観光事業者が受けられる国や自治体の支援策を紹介します。
活用できる助成金・補助金
代表的なものとして、厚生労働省管轄の雇用調整助成金が挙げられます。
新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主を対象に、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用調整を実施することによって、雇用者を解雇せずに維持した場合、給付される助成金です。
小規模事業者持続化補助金というものもあります。商工会議所の管轄地域で事業を営んでいる、従業員20人以下の宿泊業社などの小規模事業者に向けに、持続的な経営に向けた経営計画に基づく、販路開拓や業務効率化を支援するための補助金です。
かかった経費の2/3を補助率とし、原則50万円を上限に給付されます。
Go To キャンペーン
Go To キャンペーンとは、アフターコロナに向け、観光・運輸業、飲食業、イベントなど利用用途にわけて支援し、国内の人の流れや街のにぎわいを創出することで、地域活性化を図る官民一体のキャンペーンです。
「Go To Travelキャンペーン」では、旅行業者等経由で、期間中の旅行商品を購入した人に対し、一人あたり2万円/1泊を上限とし、代金の1/2相当分のクーポン等(宿泊割引・クーポン等に加え、地域産品・飲食・施設などの利用クーポン等を含む)を付与するとしています。
また「Go To Eatキャンペーン」では、オンライン飲食予約サイト経由で飲食店を予約・来店した人、チケット会社経由で、期間中のイベントのチケットを購入した人に対しては、ポイントや割引、金券を付与すると提示しています。
安全・安心をアピールした営業を
日本国内での新型コロナウイルスの感染拡大は一時的に抑止が成功しているようですが、社会経済活動が活発化することで人の移動や接触が増え、東京では徐々に新規感染者が増えるなど、余談を許さない状況です。
そのため、当面の間は新規感染者の状況をみながらの外出や旅行を余儀なくされると予想されます。
こうした状況の中で宿泊施設は、日本旅館協会等の宿泊施設関連団体が発表した新型コロナウイルス対応ガイドラインを基に、感染拡大を防ぐ万全な対策をし、その情報を積極的に発信することで宿泊客に安心感を与えることが大切です。
自社で行っている対策を徹底するとともに、自社の公式サイトやSNSでの発信を積極的にすることも大切です。
本記事で紹介したように、さまざまなアイデアや工夫で経営を継続させようとしている事業者もいます。
また、アフターコロナに向けた国や自治体の助成金、Go To キャンペーンなどを活用し、今回紹介したような独自のコンテンツでの集客が必要となるでしょう。
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