6月7日、消費者庁がインセンティブを用いてGoogleの口コミを集めた医療法人に対し、景品表示法(ステルスマーケティング告示)違反に該当するとして措置命令を行ったことがわかりました。
インセンティブの内容は、Googleにおいて★5(最高評価)または★4(2番目に高い評価)の口コミを投稿することを条件に、インフルエンザワクチン接種費用の割引を行うというものです。
消費者庁がステマ規制について措置命令を行うのは初めてのことであり、また、その対象がGoogle口コミを用いたステマであったことから、Google口コミの対策を行う業界では波紋が広がっています。
そこで口コミラボでは、今回の措置命令の詳細について、2人の専門家に伺いました。
法律監修:
LM総合法律事務所 弁護士 白井 佑
株式会社ユニットティ代表取締役 永山卓也
(Googleビジネスプロフィール ダイアモンドプロダクトエキスパート / 口コミコム
テクニカルアドバイザー)
そもそも「ステマ規制」とは?
ステルスマーケティングとは、「広告であるにもかかわらず、広告であることを隠すこと」を指します。
2023年10月1日から、このステルスマーケティングが景品表示法違反の対象となり、「消費者の自主的かつ合理的な商品・サービスの選択を妨げる」広告を規制することが決定されました。これがいわゆる「ステマ規制」です。
例えば、
「★5の口コミを投稿してくれたら、お会計から100円引きします!」
こうした表示が「ステマ規制」の対象になるだろう、と以前から言われていました。
今回の措置命令により、「Googleで高評価口コミを投稿することを条件に割引を行う」行為が、明確に景品表示法違反であると周知されたことになります。
今回の措置命令の内容は?
措置命令の内容をもう少し詳しく見てみましょう。
今回違反とされたのは、インフルエンザワクチン接種のためにクリニックに来院した者に対し、Googleマップ内で「★★★★★(星5)」または「★★★★(星4)」の投稿をすることを条件に、インフルエンザワクチン接種費用から割り引くことを伝えたことで投稿された口コミを、プロフィールに表示していたことです。
この投稿経緯から、クリニックが口コミの内容の決定に関与しているとされ、この口コミの表示が「事業者の表示」と認定されています。その上で、一般消費者はこの口コミの表示を事業者の表示であると判別することが困難であるとして、ステマ規制に違反するとされています。
この違反に対する措置命令として、以下の4つの条件が提示されています。
- 割引によって集めた★5または★4の口コミ投稿の表示を速やかに取りやめること
- 今回違反とされた表示は、一般消費者に誤認されるおそれがあるものであり、景品表示法に違反するものである旨を一般消費者に周知徹底すること
- 再発防止策を講じて、クリニックの運営母体である医療法人の役員・従業員、クリニックの医療従事者・従業員に周知徹底すること
- 今後、同様の表示を行わないこと
1つ目の条件で取りやめるべきとされている口コミ投稿については、投稿が表示された期間とその具体的な投稿が列挙されています(ただし公開されたPDF上では、投稿を特定する内容は黒塗りとなっています)。
Googleの口コミに関するポリシー・ガイドラインではどう規定されている?
「ステマ規制」は、事業者が表示内容の決定に関与したか、一般消費者が表示内容を見てどのように捉えるかで判断しており、表示内容に着目した規制といえます。
一方で、Googleの口コミに関するポリシー・ガイドラインでは、
- 口コミの投稿をお願いする際に、インセンティブ(特典)の提供をすること
- 高評価な口コミを依頼すること
- 低評価な口コミを投稿しないよう依頼すること
- 評価を集めた上で、高評価な口コミだけを選んで表示すること(ゲーティング)
などが全て禁止事項となっています。評価の操作をしなくても、インセンティブの提供そのものが違反です。また、インセンティブを提供しなかったとしても、評価を操作すること自体も違反行為となります。
ガイドライン違反の口コミは、審査の結果GoogleマップやGoogle検索上に表示されなかったり、あまりにも悪質な場合はGoogleビジネスプロフィールやGoogleアカウントそのものが停止されて使えなくなるなどの重いペナルティもあったりしますので、全くおすすめはできません。また、法律以前に、社会的に「違反をするような会社」として認識されてしまうなど、ブランディングの観点からもリスクのある行為です。
詳細は以下の記事でも解説していますので、ご確認ください。
関連記事:「口コミ★5投稿で100円引き!」←それ、法律違反です。10/1施行の「ステマ規制(景品表示法)」を弁護士が解説
※追記:
なおクリニックにおいては、医療広告ガイドラインも参照して施策を行わなければなりません。医療広告ガイドラインでも景品表示法と同じく、患者の受診等を誘引する意図がある(誘因性)広告を禁止しており、謝礼を払っての口コミ誘導や、肯定的な口コミだけを集める行為は違反となります。
このように、口コミ施策を行う際には各業界で規定されているガイドラインも参照し、その内容に違反しない形で施策を行う必要があります。
専門家に聞いてみた!ステマ規制違反の措置命令に関するQ&A
今回の措置命令やそれにまつわる問題について、2人の専門家に詳しく伺いました。
今回の措置命令が出された背景は?
ーー(口コミラボ編集部)ステマ規制に関する措置命令が出されましたが、やはりこういった行為がこれまでも問題視されてきた背景があるのでしょうか。
白井:そうですね。そもそも問題視されていた背景があり、昨年10月よりステマ規制がスタートしました。その後、消費者庁が調査して違反が認められたため、今回の措置命令に至っています。
措置命令は行政処分であり、これに従わなかった場合は刑事罰もありえます。
ーー消費者庁は「名指し」つまり法人名を公表していましたが、これは今回の違反行為が大きなものだったから公表されたのか、あるいは他の事業者に改善を促すための、警告的な意味合いもあるのでしょうか。
白井:そういった意味合いもゼロではないかもしれませんが、少なくとも消費者に対する情報提供の意味合いが大きいと思います。もっとも、有利誤認等の他の景品表示法違反行為に対する措置命令も、同じように公表されていますので、今回だけの特殊な措置というわけではないです。
今後も措置命令があれば公表されるので、注意した方がいいというのは確かです。
永山:現状、違反と判断されるであろう施策を行っているお店はかなりあると思うので、これだけ大ごとになったことで、自分たちの施策のやり方を改めて見直すきっかけにしてほしいですね。
措置命令の条件の一つ「口コミの表示を速やかに取りやめる」について
ーー口コミなど利用者側が投稿したものをお店側で削除する機能は、GoogleビジネスプロフィールをはじめとしたGoogleのサービスでは提供されていません。
今回の措置命令では、口コミ投稿の表示を「速やかに取りやめる」よう命令が出されていますが、クリニック側はどのように対処することになるのでしょうか。
永山:正確に言えば、Googleに口コミを報告して削除してもらう機能はありますが、口コミ内容が違反かどうかを様々な情報から機械的に判断しているため、Googleの判定精度次第なところがあります。
元々課題とされていたところではありますが、さらにこういった是正命令を受けた際のケースも想定されていないと思われるため、クリニック側でコントロールするにしても、非常に難しいところです。
白井:まずは口コミを消すように努力する、ということになると思います。永山さんがおっしゃったような報告機能の使用はもちろん、クリニック側にデータがあれば、口コミを投稿した患者の方へ連絡し、削除していただくなどの手段が考えられます。
永山:あるいは、Googleが用意している「法的な理由でコンテンツを報告する」のページがあるので、ここから法律に違反しているコンテンツを報告することもできるんですよね。
本来はお店側が自分で報告するというよりは、被害を被っている方や問題視する側が報告することを想定しているページではありますが。
白井:そういったページがあるなら、それも手段の一つとしてありえます。
永山:そうすると、方法としては以下の3つのパターンがあることになりますね。
- 口コミを投稿した本人に連絡し、削除してもらう
- 口コミ欄から口コミを報告する
- 「法的な理由でコンテンツを報告する」ページから報告する
1は投稿者次第ですし、2と3もGoogle側の対応に左右されますが、組み合わせて実施することで、削除される割合は上げられるかもしれません。
白井:改めて考えると、今回のようなケースでは是正が非常に大変ですね。どの手法も、100%削除できるわけではないんですよね。
また、クリニックなら来院データなどがあるので、連絡して削除してもらうこともできなくはないと思いますが、特に飲食店などの業種では連絡先を持っておらず、どうしようもない場合も出てきそうです。
永山:仮に違反とされた口コミを削除できなかった場合、どうなるんでしょうか。
白井:措置命令に違反した、ということになります。
法律上、措置命令に違反した場合は刑事罰もありえますが、どうしても削除できなかったという場合にどうなるのかは、現状わかりません。
永山:クリニック目線からすると、作業量も社会的影響もかなり大きいですし、削除を依頼して実際に削除されるまで待つ間の心理的な負担もあるかもしれないですよね。ちゃんとステマ規制を守らないとまずいことになる、というのは伝えていかないといけないですね。
今ステマ規制違反をしてしまっているお店はどうすべきなのか
ーー法的に問題があるという意識がなく、こういった施策をやってしまっていたお店もあるかもしれません。仮に今ステマ規制違反をしてしまっているお店は、どうすべきなのでしょうか。
白井:そうした違反行為を「今すぐやめる」というのが、措置命令を受けるリスクを低減する一番現実的な方法かと思います。
永山:例えば、措置命令を受けていない段階から、事前に是正するようなパターンもありうるのでしょうか。口コミ投稿者に対して「こういった事例が出たため、今後は行わないようにします」「投稿いただいたものは、削除をお願いします」などの依頼をしたり、Googleへ向けた削除リクエストや報告をしたりといったやり方があると思います。これを先んじて公開して是正していくのは、良くも悪くも強く影響しそうでもあるので、見解を伺いたいです。
白井:ありうるとは思います。ただ、先ほどGoogleへの削除リクエストが通るか通らないかはGoogle次第という話がありましたが、「措置命令が出たから」といった明確な法的根拠がないと、Google側も採用しづらいかもしれません。
投稿者に対しての連絡も、やる分には構わないですが、これも消すかどうかは投稿者次第ですし、連絡することによる来店への影響も無視できないでしょう。
ですので繰り返しになりますが、違反行為をすることで一時的に得をしたとしても、こうした対応がいつかは必要になってしまうとなるとリスクが大きすぎますから、今違反行為をしてしまっている方は今すぐやめて、できるだけ影響範囲を小さくするのが賢明かと思います。
口コミの投稿を依頼するのは問題ない
ーーよく聞かれるのが「口コミの依頼自体は問題ないのか」という点ですが、これについてはいかがでしょうか。
白井:結論からいえば、単に口コミを依頼するだけなら問題ありません。
永山:Googleを含めたほとんどのプラットフォームでも、口コミの依頼自体は推奨されていますね。
口コミ依頼の際の文言ですが、例えば「感想を書いてください」「口コミをしてくれると嬉しいです」といった表現はOKですか?
白井:問題ないと思います。
永山:「食べた料理の感想を書いてください」といった表現はどうでしょうか。
白井:それくらいなら大丈夫です。
お客様に口コミを投稿してもらうという場面では、事業者とお客様の間において、事業者が口コミの内容を決定できるような関係性の有無が重要です。典型例は何かしら対価を提供する場合で、対価を提供することで口コミの内容の決定に関与しやすい状況となります。
対価の提供が直ちにダメということではありませんが、対価の提供がある場合はリスクが高くなっているので、口コミの依頼方法や依頼文言についてより注意した方がいいです。
支援会社側の責任は
ーー口コミ対策を支援する会社は日本国内にも多く存在します。そうした会社が違反行為を推奨している場合、責任はないのでしょうか。
白井:景品表示法は表示を行う事業者のみを対象としています。そのため、支援会社が景品表示法上の責任を問われることはないと思われます。
しかし、支援会社が違反行為を推奨したことにより事業者が措置命令を受けた場合、事業者が支援会社に対して損害賠償請求を行い、裁判に発展するといったことは起こりうると思います。
永山:例えば、あらかじめ契約で「責任は負わない」といった免責規定を定めることもあります。この場合はどうなるんでしょうか。
白井:支援会社としては、免責規定の存在を主張して損害賠償責任を否定すると思います。しかし、法令違反となる行為を支援会社が推奨したという事情やその他の事情によっては、最終的に裁判所の判断となりますが、免責規定が無効になる可能性もあります。
免責規定は絶対的なものではないので、支援会社側も法令遵守やコンプライアンスといった側面に対しアンテナを高くし、しっかりと考えていかなければならないといえます。
口コミ投稿者側の責任は
ーーGoogleマップに口コミを投稿したユーザー側にも、責任はあるのでしょうか。
白井:口コミを投稿したユーザーには、景品表示法上の責任はありません。
永山:一方、Googleでは投稿コンテンツの違反行為が規定されています。今回のような投稿は、場合によっては「虚偽のエンゲージメント」として定められている項目の
- 肯定的なクチコミを顧客から募る行為
- 企業が割引、無料の商品やサービスと引き換えに投稿を促したコンテンツ
などに該当すると思います。
こうした「対価をもらい高評価の投稿」を行ったGoogleアカウントが問題視され、その投稿だけでなく今後の投稿が非表示になったり、削除されたり、アカウント自体が停止される可能性は普通にあります。Googleアカウントを日常的に使用している方は多いでしょうから、アカウントが停止されればそれなりに大きい打撃を受けることになるでしょう。
こういったことは知られていないため、店側も、支援会社も、投稿者も軽く考えている人が多いのですが、そもそも”バレたらお店の経営が傾きかねない”ような違反行為を気軽にやるというのは非常に怖いことですよね。個人的意見ではありますが、客側の立場としても「対価によるレビュー」はやめておいたほうがいいと思います。
プラットフォーム側(Google)の責任は
ーー「虚偽のエンゲージメント」に該当する口コミが話題に上がる際、必ずといっていいほどプラットフォーム側の責任を問う声が上がります。
永山:確かに今回の例も、極端にいえばGoogleが非常に精度の高い口コミ削除の対応をしていたら、口コミの表示が残らず、措置命令をする必要もなかったはずなんですよね(可能かどうかは別として)。
Googleがサービスを提供する国・地域は非常に多く、全世界でこうした問題があるので、完璧な対応というのは現実的でない部分も多いかもしれません。また、本社が米国であるという点で、日本語ローカライズの観点から難題も数多くあるでしょう。とはいえ今回の件で、Google側が何らかの是正を行うべきだとは思います。
例えばEU圏では、GDPR(一般データ保護規則)に合わせる形で特殊な対応を行っていたりします。今回のステマ規制に関わる措置命令を受け、日本国内の法的基準に合わせた対応が必要となったという点において、Googleには課題が突きつけられた状況といえるでしょう。
ーーとはいえ、Googleはこうした違反の有無をインターネット上で判断するしかなく、口コミを集める際の問題について、状況を把握するのは難しいのではないでしょうか。
永山:Googleがそうした状況把握に用いるのは、多くが利用者などからの情報提供です。ですが、実は現状こうした問題を専門で報告できるフォームがなく、かなり大きな問題だと思っています。
正確にいえば、「日本語で」「違反している事業者を」報告するためのフォームがないということですね。英語圏では一部存在します。今回日本の消費者庁が動くような事態になったわけですから、Google側でも不正な口コミを用いる事業者を摘発するための手段は用意すべきでしょう。
口コミ自体は悪ではない。正しい方法で活用しよう
ーーここまでさまざまな観点から、今回の措置命令について詳細に解説いただきました。
最後に口コミ対策を実施している事業者に向けて伝えたいことや、注意喚起などがあればお願いいたします。
白井:景品表示法違反の措置命令を受けることにより、消費者庁によって事業者名等が公表され、かつメディアでも報道されてしまいます。リスク、ダメージが非常に大きく、経営にも大きな影響を与えるものと思います。ぜひ注意して運用していただければと思います。
永山:ここまでかなり注意喚起に終始してきてしまいましたが、口コミ施策をためらうことになったり、口コミコンテンツ自体が悪だと思われたりするのが少し心配ですね。
「事業者にとって集客の助けになる」「それを見た利用者も参考になる」「プラットフォーム(Google)も情報が集まり利用者が増える」みんなが便利に使えるいいツールだと思っています。
口コミをお願いすること自体は悪ではないですし、先述のとおりプラットフォーム側も推奨していますので、事業者、利用者、プラットフォームそれぞれが課題、問題を認識し、正しく活用していければいいのではないかと思います。
<参照>
消費者庁:
口コミラボ 最新版MEOまとめ【24年9月・10月版 Googleマップ・MEOまとめ】
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