7月は緊急事態宣言発令された一方で、オリンピック開幕や夏休み期間突入など人流増加が見込まれていましたが、飲食業界全体では引き続き苦しい状況が続いています。しかし、テイクアウトやデリバリーといった自宅での「中食」に応えるサービスを始め、郊外での店舗開拓や冷凍食品として小売販売するなどコロナを逆手に取った戦略で好調な店舗もあり、業績は二極化しています。
本記事では7月の飲食業界関連ニュースや動向を紹介します。(一部8月初頭の出来事を含みます。)
7月の飲食業界主要ニュース
通算4度目となる緊急事態宣言が発令された2021年7月は、オリンピック開催期間にもかかわらず飲食業界の売上げは伸び悩んでいます。ここでは、7月の飲食業界の状況について、報道やデータを基に解説します。
緊急事態宣言・まん延防止等重点措置が日本の各地に
政府は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の取扱いについて7月7日に検討することを発表し、7月9日に施行しました。
この時点で沖縄はすでに宣言下で、まん延防止等重点措置の最中であった東京が追加となり期間は7月12日から8月22日までされました。8月2日には埼玉、千葉、神奈川、大阪に対象エリアを拡大し、8月31日までに延長されています。
こうした状況を受け、茨城県では県独自の宣言を発令する意向を示し、同時に政府へも緊急事態宣言を要請しました。国からの宣言により、飲食店休業に対しても効力を見込んでいます。
※8月5日には福島、茨城、栃木、群馬、静岡、愛知、滋賀、熊本の8県も追加される方針が正式決定しました。
<参照>五輪開催で効果薄く 「緊急事態宣言と矛盾」と識者:時事ドットコム
東京都の感染拡大防止協力金
緊急事態宣言発令に伴い、東京都では「営業時間短縮等に係る感染拡大防止協力金(7月12日~8月22日実施分)」を新たに支給します。
中小事業者は、過去の売上高により1店舗あたり168万円から840万円まで受給でき、大企業は1日の売上高減少額により1店舗あたり上限840万円で受給可能です。
なおこの協力金は都の要請に全面的に協力した事業者が対象となります。酒類やカラオケ設備の提供を中止した店舗や、酒類持ち込みを禁止した店舗、休業した店舗のみ受給資格があります。
それ以外の飲食店においては、営業時間を朝5時から夜20時の間に変更する要請に応じた店舗が対象です。なお、一部協力金は「先払い」が可能となっており、7月19日から申請受付を開始しています。
「酒類の提供停止などに応じない飲食店」金融機関へのはたらき呼びかけは取りやめ
7月8日の記者会見での西村康稔経済再生担当相による、金融機関から飲食店へのはたらきかけについての呼びかけが波紋を呼びました。
酒類の提供停止などに応じない飲食店を対象とした方針とされましたが、金融機関への責任転嫁になるのではという危惧する声や反発が多く、翌日撤回する事態となりました。
飲食大手の各社動向
大手飲食店ではファミリーレストラン5社の6月期既存店舗売上げが軒並みマイナスとなっています。ジョイフル17.0%減、セブン&アイ・フードシステムズ10.6%減、すかいらーく7.6%減、サイゼリヤ1.1%減、ロイヤルホスト0.3%減という結果でした。
同じくファストフードの既存店舗における6月期売上げは、マクドナルド14.7%増、モスバーガー11.0%増、丸亀製麺9.1%増、ケンタッキー8.2%増と前年同月よりも増加しており、ファミリーレストランとは異なる傾向で好調です。
<参照>ファミリーレストラン/6月既存店5社そろって減 | 流通ニュース
サイゼリヤ
サイゼリヤは、7/14に発表した第3四半期決算で、8億5,200万円の営業損失を公開しました。同社では顧客や従業員の安心安全を考慮し、パーティションの設置や客席数の間隔確保、深夜営業の自粛、店内作業時間の短縮など継続運営のための工夫を継続しています。
国内売上げが落ち込む一方で、アジア事業は好調です。
<参照><東証>サイゼリヤが3年ぶり高値 アジア好調で決算評価: 日本経済新聞
ロイヤルホスト/家庭用フローズンミールのロイヤルデリ
ロイヤルホストや天丼てんやなど外食事業を傘下に抱えるロイヤルホールディングスは、店内で提供する豊富なメニューを自宅で楽しめる冷凍食品「ロイヤルデリ」を2019年12月より販売開始し、大きな反響を呼んでいます。
当初は店頭販売のみの扱いでしたがネットでの販売を開始し、事業拡大に勢力を挙げています。
マクドナルド/7月20日で日本上陸50周年
マクドナルドでは、2021年上半期の全店売上高が前年比で10ポイント増加し、経常利益も前年対比で24%程上回る好調ぶりです。座席間隔に考慮した店内営業を継続し、同時にテイクアウトやデリバリーサービスも効率良く運営するためにクルー育成にも尽力しており、売上げに反映されています。
また、日本第1号店のオープンから丸50年が経過した記念として特設サイトの公開や新CMを打ち出し、話題をさらいました。
モスバーガー/店内滞在も想定しカフェ事業を推進
モスバーガーは、テイクアウトやモバイルオーダーの強化により好調な足取りですが、持ち帰りだけでなく「店内滞在」をみすえたカフェ事業「&カフェ」を展開し続けています。コロナ禍、またコロナ後の店内利用の需要に応じることを目指しているといいます。
同社は2006年にカフェ事業を開始し、当初2020年までに100店舗へ拡大することを視野に入れていましたが、既存の商品イメージが強い消費者には趣向の異なる本格カフェが受け入られず一旦縮小していました。
今回、コロナをきっかけにコンセプトを見直し、カフェの雰囲気の中でハンバーガーやスイーツ、カフェドリンクを楽しめる場として再スタートしています。
<参照>絶好調のモス、コロナ後見据え「カフェ事業リベンジ」: 日本経済新聞
カフェチェーン
カフェチェーンも例外ではなく全体として厳しい状況ですが、従来都心に密集していた人が郊外に散在したことにより、郊外店舗を持つブランドで好調な売れ行きにつなげているチェーンもあります。
ドトールコーヒーショップ
ドトールコーヒーショップを展開するドトール・日レスホールディングスは、昨年のコロナ禍における休業を盛り返す勢いでサービスを拡充しています。グループ全体で24店舗を新たに出店し、既存事業では新商品やテイクアウトメニューを展開、卸売り事業も拡張するなど活発な傾向です。
7月に発表した第1四半期決算では、売上高が前年同期比で40.4%増となっています。
<参照>ドトール・日レスHD/3~5月、コロナ禍の休業などで営業損失3億円 | 流通ニュース
珈琲所コメダ珈琲店
喫茶店チェーン・珈琲所コメダ珈琲店などを展開するコメダホールディングスよると、前年に比べ客足は回復傾向で、2021年3~5月期の連結決算では純利益が前年同期の2.2倍に達し、2019年の売上高と引けを取らない実績です。
営業時間を短縮し、協力金を受給していたことも利益を押し上げた理由となったようです。
<参照>コメダHD、純利益2.2倍 3~5月既存店売上高19年並み: 日本経済新聞
回転寿司
回転寿司業界では、コロナの逆風の中でも消費につながる様々な取り組みが際立っています。これまで大型店舗が主流だったところを都市型の小規模店舗を開拓する戦略も展開されています。
また店内営業においては従前からのタッチパネルでの入店待ちや注文といった接客対応が構築されており、コロナ禍における非接触でのサービス展開もスムーズであったと考えられます。
スシロー/東京駅にハイブリッド店舗を展開
スシローは30番目の都市型店舗として「八重洲地下街店」を7月29日にオープンしました。店内飲食はもちろんテイクアウトも可能なハイブリッド店舗となっており、東京駅構内を行き交う人々が都合に合わせ利用しやすい形態です。
店内でイートインとテイクアウトの人が混乱しないよう、持ち帰り専用の「自動土産ロッカー」を店舗入り口と別に配置するなど導線にも考慮しています。
<参照>7月29日(木)『スシロー八重洲地下街店』オープン!スシロー初、お客様同士の接触を軽減した店舗設計|株式会社FOOD & LIFE COMPANIESのプレスリリース
くら寿司/サステナビリティへの取り組み「低利用魚」
くら寿司ではこれまで寿司ネタとして馴染みの無かった低利用魚を採用し、寿司に形を変えて提供することで、多種多様な魚の魅力を広めています。
また「一船買い」で船の定置網にかかった魚すべてを買取り、漁業の安定収入をサポートしたり、魚の部位をフル活用してフードロスを無くすなど、業界では先駆けてサステナビリティへの取り組みを打ち出しています。
その他注目の企業動向
その他、各飲食チェーン店における注目すべき動向を追っていきます。
幸楽苑ホールディングス/テイクアウト向け麺を開発
テイクアウトやデリバリーには不向きだと思われがちなラーメンですが、幸楽苑ホールディングスは、外出自粛中もお店の味を楽しめるよう工夫を進め、時間が経過しても伸びにくい麺を開発しました。
従来に比べ約9%も弾力がアップしたコシの強い麺で、思うようにラーメン屋へ通えない顧客の満足度を満たしています。
大戸屋/惣菜販売開始、無添加メニューを展開
大戸屋では、7月より惣菜を小売で販売する業態を開始し好評を博しています。
緊急事態宣言中の7月中旬から8月末までの期間でアトレ川崎店に出店し、一般家庭の食卓に取り入れられる無添加メニューを多数販売しています。
<参照>デパ地下のお惣菜「大戸屋 おかず処 」大好評につき続々出店拡大中!7月15日(木)よりアトレ川崎店に期間限定オープン!|株式会社大戸屋のプレスリリース
グローバルダイニング/前年同期9割増
多くの報道でも取り挙げられている通り、グローバルダイニングは政府や都の要請を受け入れずに通常営業を継続しています。競合や周囲の店舗休業などで集中的な来客につながり、2021年1~6月期決算では前年同期比の9割増しとなりました。
同社が見込んでいた売上予測を超える伸びで推移しているとのことです。
<参照>「要請」応じず売上高9割増 グローバルダイニング:朝日新聞デジタル
7月に発表された飲食業関連のデータ紹介
7月に発表された、飲食業界の動向を各種データについて要点を解説します。
外食産業市場動向調査(日本フードサービス協会)
「日本フードサービス協会」は、農林水産省の許可を受け設立された、外食産業をサポートする日本最大規模の社団法人です。800社以上が加盟し、外食企業各社のサポートや食育、環境問題といった社会貢献活動を実施しています。
毎月、加盟企業を対象とした営業状況を調査し、全体サマリーや業態別で、前年同月との比較や時系列推移を公開していますが、6月期は、全体売上げが前年とほぼ変わらず、2019年比では8割弱に留まっています。
業態別ではパブや居酒屋が破滅的打撃が長期間続いている状況でした。
<参照>外食産業市場動向調査2021(令和3)年6月度結果報告
外食市場調査2021年6月度(リクルート)
リクルートが首都圏、関西圏、東海圏を対象に2021年6月度に調査した結果、外食市場は前年同月比に比べ3割減という結果でした。2019年比では6割減となります。
主要16業態のうち、ファストフードやレストラン、食堂、ダイニング、小食店以外の14業態が前年比で縮小しており、飲酒主体業態全体は2019年比で8割減、中でも居酒屋はマイナス幅が大きい結果となっています。
同調査では性年代別の外食実施率も取り扱っており、過半数を超える性別、年代は、20〜40代の男性、20代女性とわかりました。
関連記事
6月外食市場 5月より回復、前年比では528億円マイナスに…アルコール提供店に打撃(リクルート調べ)
TableCheck×POS+共同データ調査リリース2021 (テーブルチェック)
株式会社TableCheck(以下、テーブルチェック)とポスタス株式会社は共同で、2020年2月以降の外食市場の動向をレポートにまとめ発表しました。
テーブルチェックの調査によると、緊急事態宣言の発令と売上げには相関関係があり、発令から1か月間は売上げが低迷するが、その後回復傾向にあると分析しています。4回目の発令以降の動きも同様となるのか、注目しつつ需要に応じられるように備えるべきでしょう。
ウィズコロナ以降、従来に比べテイクアウトやデリバリーサービスでの売上げは1店舗あたり2倍となっており、客単価アップや販路拡大のチャンスとして期待できます。
予約経路も電話からネットへシフトしており、グルメサイト以外にもGoogleマップやInstagramの予約機能リリースにより、今後も利用者が拡大していくと考えられるでしょう。
<参照>コロナ禍の外食行動変化ランチ、テイクアウト、ネット予約市場が拡大|株式会社TableCheckのプレスリリース
※テーブルチェック/ポスタス調べ
博報堂生活総研 [来月の消費予報・8月](消費意欲指数)
博報堂生活総合研究所が8月の消費意欲を調査した結果、スコアは48.8点で、前年比マイナス0.7点となり低下していることがわかりました。
本来であれば夏休みやお盆、帰省などで消費意欲が高まる月ですが、コロナ禍で消費にネガティブな声が多く、8月では過去5年間で最低値です。
ただし、カテゴリー別の消費意欲では、飲料と化粧品で前年比20人以上の上昇が見られました。旅行やレジャーも前月比で20名以上上昇しており、消費においては夏休みのイベントを楽しみたいという意欲があるようです。
<参照>博報堂生活総研 [来月の消費予報・8月](消費意欲指数)|株式会社博報堂のプレスリリース
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