日本フードサービス協会はこのほど、2020年9月の外食産業市場動向調査を発表しました。
本年9月は4連休の効果もあり、飲食業における売上げは一部では前年並みの水準まで回復しました。
特に洋風ファストフードの売上げは前年超えを達成したほか、ファミリーレストランの売上げも大幅に回復しています。
本記事では9月の外食産業市場動向調査の結果から、外食産業の動向と回復が始まった3つの理由、そして今後のさらなる回復に向けて押さえたい3つのポイントについて解説します。
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日本フードサービス協会が外食産業市場動向調査を発表
日本フードサービス協会は10月26日、2020年9月度外食産業市場動向調査の結果を発表しました。
同調査では、業態別の売上高や店舗数、客数、客単価から飲食業界の動向を伝えています。
ここでは、調査結果からみえてきた飲食業界の回復動向や業態別の売上げの変化について解説します。
飲食業全体で売上げが回復しつつある
飲食業全体の2020年9月の売上げは、前年同月比86.0%となっています。
特に売上げが落ちていた2020年4月には前年同月比60.4%まで減少しました。
しかし、5月は前年同月比67.8%、6月は前年同月比78.1%、7月は前年同月比85.0%と、3か月で約12ポイント上昇しており、現在に至るまで大きな回復が続いています。
8月は新型コロナウイルス第2波の影響もあり、前年同月比84.0%と若干落ち込みましたが、9月は前年同月比86.0%まで回復しました。
洋風ファストフードは売上げ前年超え、特に回復傾向が目立つ
2020年9月の洋風ファストフードの売上げは、前年同月比103.3%となり、前年を上回る回復をみせました。
ほかにも、持ち帰り米飯と回転寿司の売上げは前年同月比94.0%、和風ファストフードの売上げは前年同月比92.8%と、いずれも90%を上回っており、ファストフード全体の売上げは前年同月比95.5%まで回復しています。
特に売上げが落ちていた2020年4月は、前年同月比84.4%のみの売上げに留まっていたため、9月は大きく回復したといえます。
ファストフードの売上げが回復した要因としては、デリバリーやテイクアウトの普及などが考えられます。
ファミリーレストランは連休に大幅回復
2020年9月のファミリーレストランの売上げは、前年同月比80.3%となりました。
特に売上げが落ちていた、2020年4月の前年同月比40.9%からは約2倍の数値となり、着実に回復しています。
特に中華ファミリーレストランの売上げは、前年同月比91.3%、焼肉ファミリーレストランの売上げは前年同月比91.7%と、いずれも90%を上回りました。
洋風、和風、焼肉系ファミリーレストランは、9月19日から22日の4連休で前年並みの売上げまで回復した店舗も見受けられました。
9月には各自治体の緊急事態宣言や営業自粛要請の多くが解除され、連休に外出しファミリーレストランで食事をとる家族などが増えたことが、売上げの大幅回復に繋がったと考えられます。
飲食業界の回復が始まった3つの理由
9月の飲食業界の売上げは前年同月比で86.0%となるなど、新型コロナウイルスが流行してから最も売上げが落ち込んだ4月から着実に回復への道を歩んでいます。
ここでは、飲食業界の回復の鍵となった3つの理由について解説します。
1. デリバリー、テイクアウトの普及
新しい生活様式により、大人数での外食や密閉空間での食事は避けられるようになりました。
しかし、これらに代わりデリバリーやテイクアウトが普及したことで、飲食需要の回復へと繋がったと考えられます。
アプリ分析プラットフォーム「App Ape」のデータによると、大手デリバリー、テイクアウトアプリの月間アクティブユーザー数(MAU)は、2020年1月から8月にかけて183%増加しています。
このような数値からも、デリバリーやテイクアウトの普及が急速に進んでいることがわかります。
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2. 緊急事態宣言や営業時間短縮要請の解除
政府によって全国に発令された緊急事態宣言は5月25日で解除されたほか、各都道府県が発令した独自の緊急事態宣言や営業時間短縮要請も徐々に解除が進みました。
東京都23区の営業時間短縮要請は9月15日、大阪府ミナミ地区の休業要請は8月21日でそれぞれ解除されています。
緊急事態宣言や営業時間短縮要請の解除を受け、時短営業や休業を余儀なくされていた飲食店も通常営業ができるようになったため、売上の回復に繋がったと考えられます。
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3. 一部自治体で飲食キャンペーンが始まった
一部の自治体では、独自の飲食キャンペーンを開始し、飲食業の支援に取り組んでいます。
大阪府大阪市では9月18日から、5,000円以上の料理を注文すると最大4,000円がポイント還元される「『少人数利用』飲食店応援キャンペーン」を実施しています。
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対象店舗は、大阪コロナ追跡システムに登録し、大阪府が発行する感染防止宣言ステッカーを設置している店舗としています。
ポイント還元の要件は、15時以降に4人以下の少人数で予約することを設けるなど、新しい生活様式を定着させつつ飲食業界を支援する取り組みといえます。
また、北海道旭川市では9月14日から市内に宿泊する観光客に、市内の飲食店で使えるクーポンを1人2,000円分提供する「旭川飲食おもてなしクーポン」を実施中です。
Go To Travelキャンペーンとの併用も可能で、観光客に積極的に市内の飲食店を利用するよう促す効果が期待されます。
このように、10月から開始されたGo To Eatキャンペーンに先駆け、独自のキャンペーンを打ち出す自治体が増加したことから、飲食業界の回復が進んでいると考えられます。
4. Go To Travelキャンペーンが始まった
7月22日からは、新型コロナウイルスの打撃を受けた観光関連事業を支援する目的で、Go To Travelキャンペーンが開始されました。
当初は感染動向をふまえて、東京都民と東京を目的地とした旅行は対象外となっていましたが、10月1日からは東京都も対象として追加されています。
国が「外出」「旅行」という行為にお墨付きを与えた形になったため、夏休みや9月の4連休を中心に観光客の客足が大きく回復した地域も増加しました。
観光庁が公表したGo To Travelキャンペーンの利用実績によると、7月22日から10月15日までの割引支援額は約1,397億円に上っています。
ほとんどの場合、旅行中は現地の飲食店に足を運ぶため、飲食業界も同時に良い影響を受けたと考えられます。
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新型コロナウイルスの感染拡大による観光や飲食、
飲食業界回復の波に乗るために欠かせない3つのポイント
着実に新型コロナウイルスの打撃からの回復をみせている飲食業界ですが、今後さらなる回復の波に乗るためには、いくつかのポイントを押さえることが大切です。
ここでは、飲食業界回復の波に乗るために欠かせない3つのポイントについて解説します。
1. デリバリー、テイクアウトサービスに登録する
人との接触を減らし感染リスクを軽減する新しい生活様式の浸透により、デリバリーやテイクアウトの利用が好まれるようになりました。
各飲食店では、デリバリーやテイクアウトを提供することでこれらの需要を獲得できます。
Uber Eatsやmenuなどの一部デリバリー、テイクアウトサービスは、初期費用をかけずに導入できます。
予算によっては最初は初期費用なしのサービスから利用をはじめ、運用を軌道に乗せていくことも可能です。
導入前には、提供している料理がデリバリーでも品質を保てるかを事前に調査し、改善できる箇所があれば改善することも必要になります。
たとえば、冷めてもおいしい料理を提供したり、汁物などの溢れやすい料理は避けるなどの工夫をするとよいでしょう。
デリバリー導入のポイントまとめ|メリット・デメリット、アプリ・サービス紹介
新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、多くの飲食店がデリバリーやテイクアウトサービスの導入を始めています。日本フードサービス協会によると、2020年2月に発令された大型イベントの自粛要請や同年3月に東京都から発令された週末の外出自粛要請なども客足を落とした要因と指摘されています。本記事では、デリバリーサービスに対する消費者・店舗側の見解や、デリバリーサービスを開始するために必要な許可、運営方法に関するポイントを紹介します。目次デリバリーを始める飲食店が増加消費者・店舗側のデリバリーや...
2. Go To Eatキャンペーンなどの支援策に積極的に参加する
前述のように、いくつかの自治体では9月時点ですでに独自の飲食キャンペーンが始まっていましたが、10月1日からはGo To Eatキャンペーンが始まったことで、飲食業界全体の回復がさらに後押しされています。
各種飲食キャンペーンの対象店舗として登録することで、キャンペーンを利用する消費者に、利用店舗の選択肢として知ってもらえるきっかけとなります。
一方、Go To Travelキャンペーンの際には、キャンペーンに参加さえすれば何もしなくても利用者が増えると思っていた宿泊施設が、適切な追加プロモーションを実施しなかったことで思うように業績を伸ばせなかった例がありました。
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旅行・観光需要を喚起する施策として、7月22日から始まった「Go To Travel(トラベル)」キャンペーンですが、全ての宿泊施設がその恩恵を受けられているわけではないようです。観光庁が9月30日に発表した最新の宿泊旅行統計(8月分データ)では、Go To Travelキャンペーンの効果はリゾートホテルで顕著で、ビジネスホテルなどでは未だ客室稼働率が回復していないというデータが出ています。旅行代金から割引されるキャンペーンであるため、旅行者は「せっかくだから良いホテルに泊まろう」という考...
Go To Eatキャンペーンにおいても、参加することが目標ではなく、来店客を増やすことが目標であるならば、SNSや予約サイトを利用するなどして追加プロモーションを怠らないことが大切です。
3. SNSなどを活用したプロモーションを実施する
飲食店のプロモーションにおいては、SNSを活用し店舗の料理を宣伝することで来店を促す施策が効果的です。
最近では「エール飯」と称し、テイクアウトした料理をSNSに投稿することで、各地方の飲食業界を元気づける運動が実施されています。
これは大分県の別府市で始まったキャンペーンですが、飲食店と利用客のそれぞれが「#別府エール飯」というハッシュタグと一緒に、料理写真をSNSに投稿するだけの手軽さから、次第に全国へと浸透していきました。
見映えの良い料理写真は、SNSに投稿することで一目で目にとまりユーザーの興味を引けるため、飲食店自らSNSアカウントを作成し、自店の料理をプロモーションすることも効果的でしょう。
テイクアウトやデリバリーに対応しており、新型コロナウイルスの流行前と変わらず営業していることを発信すると、投稿を見たSNSユーザーに来店してもらえる可能性が高まります。
飲食業界は今後も更に回復、各種サービスやキャンペーンを上手く活用しよう
10月にはGo To Eatキャンペーンが開始されたこともあり、今後は飲食業界のさらなる回復が見込まれます。
その波に乗るためには、デリバリーやテイクアウトサービスへの登録はもちろん、Go To Eatキャンペーンや各自治体が実施している独自のキャンペーンにも参加するほか、SNSなどを通じたプロモーションも積極に行うことで、新しい生活様式によって浸透した需要を取り込むことが大切です。
<参照>
日本フードサービス協会:外食産業市場動向調査2020(令和2)年9月度結果報告