近年、働き方改革が大きなテーマとなり、従来、年中無休が当たり前であったファミリーレストラン業界でも休業日を導入する企業が出てきています。結果、いかに売り上げを落とさずに休業日を設けるかについて、各社は様々な施策を講じています。
飲食店オーナーにとって、休業日を設けることは利益の損失につながるだけではなく、競合店に来店者が流れるといった機会損失にもなりかねないため、休業日導入には大きな決断を伴います。 そこで今回は、飲食店で休業日を導入することのメリットとデメリットを中心に、導入する場合の注意点などを詳しく紹介します。
休業日導入のメリットは?
休業日を導入する時には、売り上げ減少への不安などからどうしてもデメリットに目が向きがちです。しかし従業員のモチベーションアップにつながるなど、実はメリットも多くあります。ここではまず、休業日を導入するメリットについて解説します。
コストの削減
休業日を導入するメリットの1つは、コスト削減につながる可能性がある点です。都市部のビジネス街にある店舗などの場合、平日は近隣の会社員で賑わうものの、週末はあまり集客が見込めないといったケースがあります。
店を開けていればその分利益が上がるように思えますが、売り上げが人件費や光熱費を下回る場合には、店を開けていることが赤字の原因になりかねません。集客動向によっては、休業日を導入することがコストの削減につながる場合があるためです。
従業員の福利厚生の改善
近年飲食業界は、慢性的な人手不足に悩まされています。その一因となっているのが、飲食業界は他の業界と比較すると年間休日が少なく、拘束時間が長いという点です。
厚生労働省が発表した「平成30年就労条件総合調査」によると、週所定労働時間が最も長いのが「宿泊業・飲食サービス業」の39時間56分で、最も短い「金融業・保険業」の38時間21分と比較すると、1時間35分も長くなっています。
こうした状況の改善に直結するのが、休業日の導入です。シフトの休み以外に確実に休める日が設定されることで労働環境が改善され、従業員の定着率のアップも期待できます。
法律に則った店舗経営の実現
労働基準法の遵守は、飲食業界に限らず全ての事業経営者に最低限求められるものです。従業員の休日については、労働働基準法第35条により「法定休日」として、次のように定められています。
- 会社は毎週少なくとも1回従業員に休日を与える必要がある
- または4週間を通じ4日以上の休日を与える必要がある(変形休日制の場合)
このルールに違反すると、経営者には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられます。
容易なシフトの割り振り
上記の「法律に則った店舗経営の実現」にも関わることですが、休業日がないと、従業員各人に対して週に1日どこかの曜日で休日を設けることが必要になるほか、自分が休みの日には店を任せられる人材を必ず回さないといけないといった事情が重なることで、毎月のシフト組みが大変複雑になります。
しかし前述のように、たとえ週に1日でも休業日があれば、それだけで労働基準法に定められた法定休日の条件が満たされるため、シフト割が格段にしやすくなります。
店長の休みの確保
経営者が店長を兼ねている場合には、休業日を導入することは、経営者自身にとってもメリットがあります。労働基準法上、経営者には労働基準法が適用されないこともあり、シフトの穴を埋めるといった理由でどうしても経営者の労働時間が長くなりがちで、休日もまともに取れないといった事例は少なくありません。
さらに自分は休日であっても店を開けていると、何かと従業員から問い合わせの電話が入ったりもします。休業日を導入することで経営者自身休みがしっかり取れるようになれば、自己研鑽のためのスキルアップの時間も持てるようになり、結果として店に良い影響をもたらします。
飲食店の休業日・導入時のデメリット
ここまでは休業日を導入することのメリットについて紹介してきましたが、店を閉める以上はさまざまな面でデメリットが生じる可能性もあります。
そこで次に、休業日を導入するデメリットについて、詳しく解説します。
固定費は削減できない
飲食店を運営する上では、売上の変動にかかわらず発生する固定費がかかります。家賃、厨房機器などのリース料といった経費が、飲食店における代表的な固定費です。
この固定費に対し、売上の変動に合わせて金額が変わってくる費用が流用費です。この流動費には仕入れの原価、人件費、水道光熱費(固定料金部分を除く)などが含まれます。例えば人件費の場合、休業日には基本的に発生しませんが、固定費である家賃などは、休業日でも営業日と同様にコストがかかります。そのため休業日を導入すると、会計の中に占める固定費の負担が増すことになります。
近隣店舗との競争で不利になる可能性も
経営者にとって、近隣の競合店に客足を奪われることは、出来るだけ避けたい事態です。しかし自店の休業日に近隣競合店が営業していた場合、客足が競合店に流れ、それがきっかけで初めてのお客様だけではなく、常連客まで奪われてしまうリスクがあります。そのため休業日の導入は、近隣の競合店との関係において不利な要素になることは否定できません。
さらに、月曜・火曜が定休日の傾向が強い理美容業界のように、業界単位で定休日がある程度固定されている業界で働いている場合、勤務先の休業日と、利用したい店舗の休業日が被ってしまうケースが生じます。このような場合、当然ながら店舗を利用することは難しくなるため、同様の事情を抱える顧客の来店を逃してしまう要因となる場合があります。
飲食店の休業日・導入時の注意点
このように飲食店が休業日を導入することには、メリット、デメリットの両面がありますが、働き方改革が叫ばれる現代では、休業日の導入は経営効率を上げる意味でも重要度を増してきています。そこで次に、実際に休業日を導入する場合の注意点について、詳しく解説します。
顧客の視点での定休日の設定を
新規オープン時から定休日を設定している場合には、顧客もその店の営業時間を理解した上で利用しているので大きなトラブルの発生リスクは低いと考えられますが、営業開始から一定期間が経過した後、定休日を設ける場合には、顧客の視点に立って注意深く導入する必要があります。
定休日導入当初は、顧客に周知徹底させるまでにある程度時間がかかります。そのためせっかく来店してくれたユーザーを空振りさせてしまう場面も出てくることが予測されます。そのため定休日を導入するにあたっては、店頭でのポスティング 、Web媒体を活用した告知など、事前に徹底して告知することが大切です。その上で万が一定休日に客が来店してしまった場合に備え、次回来店時に使用できる割引クーポンなどを置いておくと、客足を次につなげると同時に、満足感のアップ向上にもつながります。
定休日は基本的に閑散日に
定休日を何曜日にするかの決定要因となるのは、やはり店の売り上げです。長らく営業している店の場合には売上日報から、夏休みや年末年始といった特定の月を除く最低2か月分の売上を曜日ごとに集計して、売り上げの悪い曜日を定休日にするのが一般的です。
また新規オープンの店であれば、周辺の人の流れや近隣の競合店への流れを把握する必要性も生じるため、オープンから数か月程度は定休日を設けず、ある程度売り上げの動向が固まった段階で定休日を決めるといった方法もあります。
飲食店の業態、立地など環境にあわせた定休日の設定
一般的に飲食店の定休日で多いのは火曜日で、次いで水曜日となります。飲食店の場合、どうしても土日に客足が集中する傾向があるため、週末を定休日に設定することは避け、多忙な週末を終えた「週始め」を、休業日と設定する傾向が見られます。 以前は同様の理由で月曜日を定休日にする店も多かったのですが、最近はハッピーマンデー施行の影響で月曜日が祝日となることが多くなったため、定休日を月曜日とするのを避け、火曜日に設定する傾向が強くなっています。
ただしこれはあくまで一般論であり、例えばビジネス街であれば、会社が休みになる週末の方が客足が少なく、観光地や住宅街にある店では、やはり客足が週末に集中しがちであるなど、業態や立地などにより定休日設定の条件は異なるため、環境に合わせて売り上げが少ない曜日に設定するなどの配慮が必要であるといえます。
飲食店の食材事情にあわせた定休日の設定
そしてもう一つ、飲食店が定休日を決める上で重要な要素となるのが、食材の仕入れとの関連です。例えば東京都中央卸売市場では、水産物・青果物・花き市場の場合、日曜日や祝日以外にも原則第2・第4水曜日が臨時休業日となっています。そこでここで仕入れを行なっている場合には、水曜を定休日とすると仕入れに影響が少ないことがわかります。
さらに週に2日定休日を設ける場合には、火・水曜日のように連続した曜日を定休日にすると、どうしても食材が傷みやすくなり、食材ロスが増えてしまいます。そのため定休日を週に2日設ける場合でも、可能であれば連続した曜日は避けるといった工夫も必要です。
店舗や周囲の環境にあわせた定休日の設定を
飲食店が定休日を決める場合には、ターゲット層や立地による曜日毎の人の流れを確認することが重要なポイントになります。その上で食材の仕入れの都合、近隣の競合店、商店街全体の状況などとの兼ね合いにも考慮する必要があります。
定休日を何曜日に設定するかは、飲食店にとって売り上げや顧客をつかむために重要な点であるだけに、慎重な姿勢が求められます。事前に十分なリサーチを重ねても、実際に店をオープンしてからでなければ見えてこない事情も多くあるため、最初は定休日を決めずにオープンし、数ヶ月立って曜日別の売り上げデータなどが固まった段階で定休日を決める方法や、あらかじめ定休日を決めていた場合でも、数ヶ月後に一度見直しをするといった方法も検討の余地があるでしょう。
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