マーケティングとは、言い換えれば消費者に購買意欲を喚起させるための仕掛けです。
なるべく効果的に、より多くの消費者の購買意欲を喚起するために販売者サイドが気になるポイントの1つに「消費者はどんな瞬間に購買を決定するのか」という点があります。
その購買を決定する瞬間のことを、マーケティング用語では「FMOT(エフモット)」と呼びます。FMOTの概念は2000年代に入ってから提唱され始めたものですが、マーケティング戦略に取り込んで成果をあげた企業があります。
本記事では、FMOTにについて詳しく紹介すると共に、実際のマーケティング戦略の中での活用方法、そして最近FMOTに替わる新たな概念として注目を集めている「ZMOT」(ジーモット)について、詳しく解説します。
FMOT(エフモット)とは
FMOTという概念はどのように誕生し、マーケティングでどのように活用されているのか、FMOTの起源まで遡って検証すると共に、FMOTとの概念の中身について詳しく解説します。
消費者の購買判断の瞬間
FMOTは「First Moment of Truth」の頭文字をとったもので、消費者が店頭でその商品を買うかどうかを判断する瞬間のことを指すマーケティング用語です。
消費者の商品に対する印象が形成または変更されることにより購買という行動が生まれると解釈するマーケティング的観点から、購入の判断を「マーケティングにおける真実の瞬間」ととらえるこの語が生まれました。
FMOTという概念が初めて提唱されたのは2004年のことで、提唱したのはアメリカ合衆国オハイオ州に本拠がある世界最大の一般消費財メーカーであるプロクター・アンド・ギャンブル(The Procter & Gamble Company:以下P&G)でした。
同社は消費行動調査を行い、その結果を2004年に発表しました。
それによると消費者は店頭の商品棚を見て商品を購入するかどうか判断する場合が多いとし、その決定は商品を見てから最初の3秒から7秒で下していると結論付けました。
この3~7秒間がFMOT(First Moment of Truth)です。
FMOTとSMOT:2つの真実の瞬間(Moment of Truth)
P&GがFMOTを提唱した当時のCEO・アラン・ラフリーは、消費者が購買を決定する時には2つの瞬間があるとし、これを「真実の瞬間(Moment of Truth)」と呼びました。
この2つの瞬間のうち、消費者が店頭に陳列されている商品を見て購買を決定する瞬間がまさにFMOTで、さらに購入後に実際に商品を使用する瞬間をSMOT(Second Moment of Truth)と呼びました。
そのためFMOTは、別名「真実の瞬間」と呼ばれることがあります。
ZMOT(Zero Moment of Truth)
2011年に、今度はGoogleにより、新たな購買意思決定に関するマーケティングモデルとして、「ZMOT(ジーモット)」という考え方が提唱されました。
ZMOTはZero Moment of Truth(ゼロモーメントオブトゥルース)の頭文字です。
ZMOTは、FMOTより前の段階のインターネットなどを活用して購入を検討している商品について下調べをすることです。
購入現場の最初の決断と使用の瞬間をそれぞれファースト、セカンドと定義するマーケティングモデルに対して、購入前の消費者の行動シーンを「ゼロ」と定義しています。
インターネットでの情報収集が広く行われるようになったことにより、この考え方が生まれました。
FMOTの考え方
FMOTは、その提唱者であるP&Gにおいて実際にマーケティング戦略として取り入れられ、同社の売り上げを伸ばすことに貢献しました。
P&Gの取り組み事例を中心に、FMOTの概念をどのようにマーケティングの中に取り込んでいくのかを紹介します。
店内の競合を意識
P&GがFMOTの概念を発表した2004年当時、同社のマーケティング戦略の中心はテレビCMなどの大規模広告が中心で、高額なコストを投入していたにもかかわらず、売り上げが伸び悩んでいる状態でした。
そこで消費者の購入行動を詳しく調査したところ「消費者が購買を決断するのは商品を買う直前」というFMOT理論にたどり着きました。
FMOTではマスの広告に力を入れるよりも、店舗内で同じ棚に並べられた他社商品と差別化をはかることで、消費者が棚の前に立った瞬間に自社の商品を選択してもらえるようにすることが大切だということなります。
そのため同社はマーケティング戦略において、店頭における商品の陳列と品揃えの構成を科学的、統計的に検討して収益の最大化を図るインストアマーチャンダイジングが最も重要であるという結論を導き出しました。
勝ち抜くための具体的方策
FMOTの具体的な戦略としては次のような例が挙げられます。
- 商品パッケージのデザインを消費者の目をひくものに変更
- 目立つPOPの製作
- 消費者を引き付けるディスプレイの徹底
- 販売スタッフに教育を実施してトークスキルを習得させる
- 店頭でプロモーション映像を流す
商品を買いに来た消費者が思わず購入したくなるようなレイアウトをインストアマーチャンダイジングを通じて徹底することがFMOTの戦略となります。
FMOTが通用しなくなった現代
提唱者であるP&Gのビジネスを成功へと導いたFMOTですが、近年マーケティングの世界では「FMOTの考え方はもはや通用しない」という意見も出ています。
消費者行動が変化していることで店頭での商品の差別化をするだけでは購入に結びつかないとされています。
以下ではその原因とこれからのマーケティングに必要な考え方を紹介します。
意思決定モデルが変化/インターネットサービスの普及
FMOTの概念がもはや過去のものになりつつあると指摘される要因となっているのが、消費者行動の変化です。
P&GがFMOTを提唱する以前は、消費者はマス広告などに影響を受けてすでに購入する商品を決めてから店に足を運ぶため、インストアマーチャンダイジングは効果がないとされていました。
ところが実際には、P&Gはインストアマーチャンダイジングを徹底して売り上げを伸ばしました。
その成功の要因の1つとして考えられるのは、15秒、30秒と言った短いテレビCMなどで得られる商品情報には限りがあり、実際に店頭で教育された販売員のセールストークやPOPなどに触れるとそのインパクトが強く、消費者は店頭で直前に購買の有無を決めていたという点が挙げられます。
ところが現在ではインターネットやWebメディアが急速に発展し、インターネット上で商品にかんする口コミを調べたり、ネットショッピングを通じて店舗に足を運ばずとも商品を購入することが当たり前になりつつあります。
この意思決定モデルの変化が、FMOTを過去のものとする論拠となっています。
ZMOTが消費に大きく影響/消費者は来店前、商品を手に取る前にすでに購入を決めている
意思決定モデルの変化により、消費者が店頭に行く前に購入する商品を決めている状態を、上述の通りZMOT(ジーモット)といいます。
これはZero Moment of Truthの頭文字をとったもので、P&Gが提唱した「真実の瞬間」の以前、つまり店頭に足を運ぶ前にすでに消費者の商品購入の意思決定は済んでいることを表す言葉です。
ZMOTの提唱者であるGoogleは、その論拠として次のような数字を示しています。
- アメリカ人の70%が商品購入前にオンラインレビューをチェックしている
- 実際の購入に限らず、情報ツールとしての使用も含めて消費者の79%が買い物の際にスマートフォンを活用している
- 母親の83%がテレビCMで興味を持った商品について、その後オンラインで調べている
ZMOTにはたらきかけるマーケティング施策
FMOTが提唱された時代には、インストアマーチャンダイジングがマーケティング戦略の鍵を握っていたのに対し、ZMOT時代には、消費者が情報を収集するインターネットの中でどのようにマーケティングを展開するかがより重要になります。
消費者は商品の購入をする前の情報収集としてインターネットを活用する場合、その商品を購入することで得られるメリットや商品を購入したユーザーのレビュー、同種の製品の中でどのメーカーの商品が最も優れているのかをチェックする傾向があります。
つまり消費者は、インターネットからその商品の性能についてだけではなく、他社製品との比較、そして他のユーザーの声を拾おうとしていることがわかります。
こうした消費者の動向を踏まえ、販売者側が行うべき2つの対策があります。
口コミサイトやSNSで商品をアピール
現在、多くの人がユーザーのレビュー情報を収集するために活用しているのが、口コミサイトやInstagram、Facebook、TwitterといったSNSです。
多くの企業はSNSを活用して商品やサービスの認知度を高める、顧客との接点を作る活動に力を入れており、すでに「SNSマーケティング」としてマーケティング戦略の定石の1つなっています。
SEOの徹底
例えば消費者がテレビを買う前にインターネットで情報を収集をする際、「どんな商品があるのか」と調べる段階であれば「テレビ・売れ筋」「テレビ・評判」といったキーワードを検索エンジンに打ち込んで調べます。
その時に自社サイトが検索エンジンの上位に表示されなければ、消費者に情報を届けることすらできません。そのためZMOT時代には、SEOの徹底がマーケティング戦略上極めて重要になります。
SEOとはSearch Engine Optimization(検索エンジン最適化)の頭文字をとったもので、検索エンジンの検索結果の上位に自社サイトが表示されるように最適化を図ることを指します。
これらの対策について以下の記事でより詳しく紹介しています。
SNSマーケティングのポイントとは|UGCを促しユーザーと接点をもつコツ・事例
Facebook(フェイスブック)、
Webマーケティングがより重要な時代に
ZMOTが提唱される以前はFMOTが自社商品を購入してもらうために力を入れるべきポイントであり、店頭でいかに自社商品を選んでもらえるかが重要視されていました。
しかし顧客が来店前にすでに購入商品を決定しているというZMOTの時代を迎えた現在、どの企業でもしっかりとWebマーケティングの対策をする必要があり、時代のニーズに合わせマーケティング戦略を変えていくことが求められています。
ZMOTのマーケティングで行うべきSNSマーケティングやSEO対策に力を入れマーケティングを成功へと導くことが大切です。