エシカル消費とは、環境負荷や、地域経済の持続可能性、生産者への配慮を念頭に商品を購入・消費することを指し、社会問題を解決する意識や行動を指す言葉としても使われています。
SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)を推進する取り組みの1つとして位置づけられており、日本のみならず世界各国で広がっている概念です。
エシカル消費が広まっていることで多くの消費者の消費行動の傾向が変化しつつあり、企業もこれに対応した製品や商品開発と販売する必要に迫られています。本記事ではエシカル消費の概要から注目されている理由、企業がエシカル消費にコミットすることで得られるメリット、取り組み例について解説します。
エシカル消費とは
消費者庁の公式ウェブサイトではエシカル消費を以下のように定義しています。
エシカル消費とは、地域の活性化や雇用などを含む、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動のことです。
エシカル消費は特に2015年9月にのサミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の17のゴールのうち、ゴール12の「つくる責任・つかう責任」に関連する取組とされています。
エシカル消費には配慮すべき対象として3つのカテゴリが設定されており、本項では3つの観点から、エシカル消費により何が解決できるのかを解説します。
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エシカル消費の意味
そもそも「エシカル」とは英単語の「ethical」から来ており、倫理的・道徳的を意味しています。
法律などで明確に定まっていないが、大多数の人が「良心的に考えて導き出される結論」ととらえることのできる社会規範を指しています。
エシカル消費ではこの社会規範に則って消費行動に移ることが求められ、現代社会の原料調達から製造、流通ルートにおいてどのような問題があるのかを理解したうえで、より良い製品やサービスを選択して購入することが推奨されています。
以下では「人・社会」「地域」「環境」の3つの視点から「倫理的、道徳的に良い」とはどのようなことを示すのかを解説します・
エシカル消費1「人・社会」
エシカル消費により配慮すべき対象の一つが「人」「社会」です。現代社会の生産システムでは、原材料の生産地となりやすい発展途上国の人々が低賃金では労働を強いられ、安価な原材料が生産されているという現実があります。
また加工段階では、発展途上国の人々や先進国でも移民などの社会的弱者である人々が、劣悪な条件で労働しているという実態もあります。
原材料を正当な価格で購入するフェアトレードや、製造工程で適切な労働環境が確保されている製品を購入することは、労働環境や社会を健全に保つことにつながるエシカル消費です。
エシカル消費2「地域」
エシカル消費により守られるものには「地域」もあります。この場合の地域は地域での経済活動を指します。人口減少の続く地域や災害等で復興段階にある地域では特に、産業や経済の振興が必要です。
地場産業の商品を消費することは寄付とは異なり、その地域が自らの力で回復し、経済的自立を手に入れることにつながります。また地域で生産し消費することは商品の輸送コストやエネルギーの削減になります。
地元のお店で地元の物を買うことだけでなく、ECサイトを通じて各地域の特産品や伝統工芸品を買うことも地域経済を支援する行動であり、エシカル消費の一つの形態といえるでしょう。
エシカル消費3「環境」
エシカル消費により守るべきとされる対象の3つ目は「環境」です。生産の過程で環境負荷の少ない製品を選んで買うことも「エシカル消費」です。先進国での大量生産・大量消費という社会構造や、畜産などにおける飼料の消費が生態系の破壊を招いてるという指摘があります。
一つの製品が消費者の手元に届くまでのエネルギー資源や原材料、また生産過程における産業廃棄物を理解し、それらがなるべく発生しないものを選択することも大切です。こうした消費により、将来にわたって継続可能な産業社会を構築できます。
原材料の生産や加工段階で環境に配慮されている商品やリユースやリサイクルされて原料を用いた製品を選ぶためには、FSCやMSC認証などのエコマークのついた製品を選ぶと良いとされています。
環境を保護するためのエシカル消費には、エコバッグを持参し、食品に関しては食品ロスを避けるように期限切れが近いものや売れ残りの商品から買う、などの行動が含まれます。
エシカル消費4「動物福祉(アニマルウェルフェア)」
エシカル消費には動物福祉(アニマルウェルフェア)を含める場合もあります。家畜を快適な環境下で飼養することで家畜のストレスや疾病を減らすことを良しとする考え方です。結果として生産性の向上や安全な畜産物の生産にもつながるとされており、動物福祉にも配慮した消費行動を考えることも必要でしょう。
エシカル消費が注目される背景
資源の枯渇や環境破壊などの環境問題と共に貧富の格差や人権侵害などの社会問題が世界各地で顕在化しています。
このような問題提起を前提に、これらの問題を解決しようという機運が世界規模で盛り上がりつつあり、その手段として消費行動を変化させるエシカル消費に注目が集まっています。
同時に、2020年11月に電通が実施した調査によると「エシカル消費」という言葉を認知している人は性別・年代でばらつきがあることが明らかになりました。「エシカル消費」の名称認知率は24.0%で、「意味まで知っている」は5.7%、「聞いたことがある」は18.3%となりました。
男女ともにミレニアル・Z世代で比較的高く、男性では16~24歳、女性では25~39歳女性が高くなっています。性年代別では40~59歳男性の認知率が最も低く、20.8%となりました。
エシカル消費が注目されるようになった2つの要因について解説します。
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環境問題や人権問題の深刻化
工場の稼働や発電など、産業活動のために環境保全がおろそかにされ、その結果、温暖化や異常気象が引き起こされています。
また一部の国や地域では毎日廃棄するほどの食料が市場に供給されている一方で、貧困問題が解決されない地域も存在しますます。
この他にも、安全な飲料水や生活用水の確保が難しい地域や、教育機会が得られずに児童期を過ごすばかりか、低賃金で危険な仕事に従事する地域が地球上には存在します。
これらの問題は年々深刻さを増しており、国際社会が向き合うべき問題として捉えられてきました。エシカル消費はこうした構造的問題を解決する一つと捉えられています。
SDGsの採択
2015年に開催された持続可能な開発サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択されました。17の目標を掲げているSGDGsですが、12番目の目標である「つくる責任・つかう責任」はエシカル消費に深く関連する項目の一つです。
SDGsそのものへの注目度の高まりは、消費者のエシカル消費への認知や理解の深まりにも影響していると考えられます。
2019年9月の国連の地球温暖化サミットでスウェーデンの環境活動家であるグレタさんがスピーチしたことも、関連した取り組みへの注目を集めることにつながったといえるでしょう。
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世界や未来をよくしたいという意識の高まり
消費者が手にとる商品は、原材料の確保、加工、そして売り場に並べられるまで数々の人の手を渡ってきています。価格競争力を高めるため、生産の行程で働き手にとって不当な条件が課されていることもあります。
こうした現状は消費者にとっては認識しづらいものではありましたが、様々な報道を通じて近年徐々に明らかになってきました。消費者は自分の手元に届く商品が、世の中の不公平や不平等に加担するものでないかどうかを気にするようになっています。
エシカル消費を支持する消費者心理には、消費するものを主体的に選択することで、このような世の中の構造を改善できるはずという期待があります。
企業がエシカル消費に応えるメリット
企業の姿勢は消費者の消費意欲や行動にも関係しています。先に述べた電通の調査によると、エシカル消費に対応した商品やサービスについて、消費者の購入経験が多い産業は食品、日用品、衣料品業、購入意向が高いのは食品、日用品、家電業界でした。
また「購入経験」と「購入意向」とのポイントに開きがあるもの、つなり今後「エシカル消費」であることを理由に購入が期待できる産業には家具(21.2ポイント)、家電(19.6ポイント)、旅行(18.4ポイント)などがあります。
企業がエシカル消費のトレンドに沿った商品を提供することのメリットについて紹介します。
メリット1. イメージアップ、CSRの実現
一番に挙げられるメリットとして企業イメージの向上があります。
電通の調査によると、調査に回答した54.0%が「エシカルな商品・サービスの提供は企業のイメージアップにつながる」と回答しています。
エシカル消費を意識した製品やサービスの販売は、自社が社会問題や環境問題の解決注目していることを消費者にアピールすることにつながっており、CSR(企業の社会的責任)の推進にもなります。
社会問題の改善に取り組む企業として認知されれば、消費者が企業に抱くイメージが良くなり、自社商品を選んでもらえるチャンスが増えることになり、売り上げの向上につながるなどの効果が見込めます。
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メリット2. 企業価値の向上
エシカル消費に配慮した製品やサービスを販売することで、ESG投資を重視する投資家の注目を集められます。ESGは環境(Environment)・社会(Social)・企業ガバナンス(Governance)の3つの頭文字を取った言葉です。投資の分野では、投資先を選ぶ基準にこれら3項目を設け企業を分析する投資家が増えつつあります。
エシカル消費に取り組むことで、ESGを重視する投資家からの投資を得られる可能性があり、企業の発展にとって欠かせない要素になりつつあります。
またエシカル消費に配慮することで、結果的に他社との差別化が進み、企業価値の向上と新たなビジネスチャンスを生み出せる可能性があります。
「エシカルウォッシュ」も登場
かつて、環境保護ブームに便乗して、実際には環境配慮していないにもかかわらずエコな商品やサービスに見せかけて、販売する手法を揶揄して「グリーンウォッシュ」と呼ばれていました。この言葉から派生して、エシカル消費やSDGsに配慮しているように見せかけて販売するビジネスを「エシカルウォッシュ」や「SDGsウォッシュ」と呼ぶようになりました。
偽物が出てくる背景には、それだけ「エシカル消費」が消費者に浸透し、商品選択の基準として重要な役割を果たすようになってきたことあります。
エシカル消費に向けた企業の取り組み事例
エシカル消費に向けて各企業、産業による取り組みが進められていますが、電通の調査を見ると、消費者からエシカル消費に向けた施策の実施度と期待度がおおむね一致している業界がある一方で、この2つの数値が乖離している業界があります。本項ではエシカル消費に配慮した業界ごとの取り組み例について紹介します。
【小売業界】サプライチェーンの透明化
小売業の場合、サプライチェーンの各段階においてそれぞれエシカル消費に配慮できているかを消費者に示すことが重要です。
原材料の調達から製造、流通、販売までの一連の流れは消費者には見えにくい部分です。
これらのサプライチェーンを透明化し健全な過程を経て販売されていることを公開することが重要です。
具体的には生産地で正当な報酬で原材料を購入し、製造工程でも労働者の人権侵害がないように監督するなどの責任を果たし、フェアトレードであることを消費者に明示することが重要で
【飲食業界】地産地消の推進
飲食店であればメニューに地元食材を使用する、スーパーや小売店であれば地元食材や工芸品を販売するなどの施策を採用し、地産地消を推進する姿勢を示すことが重要です。飲食業の場合、食材について消費者は選ぶ余地がありませんが、飲食店側で地産地消に沿った食材を使ったメニューを選択肢として提示することで消費者の支持を得られやすくなると考えられます。
なによりも地元生産者を売り上げや需要によって支援でき、消費者に対して地産地消を啓発できるという効果も見込めます。
【宿泊業界】環境に配慮した商品の起用・販売
宿泊業でもエシカル消費に配慮した施策は多く存在します。例えばホテルで一般的なアメニティー類に環境保護に配慮した製品を採用することや施設で再生エネルギーを使用する、プラスチック製品の提供中止や有料化、ベッドシーツなどの交換は顧客からの要求があったときだけにするなどなどの施策が考えられます。
環境保護への配慮だけでなく生態系の保全にも協力できるため、宿泊業でもエシカル消費に配慮することによる集客は大いに見込めるでしょう。
【自治体】啓蒙運動
エシカル消費は民間企業だけで行う施策ではなく、官公庁なども積極的に取り組んでいます。持続可能な社会の実現は、住民の生活を支えることにもつながります。たとえば京都府では、エシカル消費を推進する「京都エシカル消費推進ネットワーク」を設立したり、ワークショップやクイズラリーイベントの開催したりといった活動に取り組んでいます。
エシカル消費がこれからの購買行動を変える
エシカル消費は、社会構造や環境負荷に配慮した消費行動です。日本でも認知が広まっており、消費者の決断に影響を与えるようになってきています。ESGを重視する投資家もエシカル消費への取り組みに注視しています。企業はエシカル消費に配慮した製品やサービスの販売により、市場でのイメージアップや企業価値向上のメリットが得られるでしょう。
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