外食需要を喚起する政府の施策「Go To Eat(イート)キャンペーン」では、鳥貴族で1品だけを注文して支払額以上のポイントを獲得する、いわゆる「トリキ錬金術」が話題となるなど、制度の粗さや複雑さが問題となっています。
また、来店人数を実際よりも多く申請することで、不正にポイントを得る新たな「錬金術」の可能性も浮き上がりました。
しかし、そんな中でも「費用対効果があった」「やってよかった」と語る飲食店オーナーもいます。
今回口コミラボ編集部では、世田谷区に位置する、ある飲食店のオーナーにお話を伺いました。
個人経営の飲食店オーナーが語る「Go Toイート」
世田谷区の住宅街で、10人程度が入れる小規模なバルを営んでいるAさん。
既存顧客にはファミリー層も多く、新型コロナウイルス流行が収束に向かっている今でも、客足が完全に戻ったとはいえないといいます。
Aさん「営業時間の短縮は今も継続しています。流行前は月に500人くらい来ていたのが、今はだいたい3割減ですね…」
そんな中で、Go To Eatキャンペーンについては「やってよかった」と話してくれました。
Go Toイート「やってよかった」その理由
Aさんは、Go To Eatキャンペーンを「やってよかった」と思う理由として、新型コロナウイルス流行以前の常連客が再来してくれたという点を挙げています。
Aさん「件数としては、2日に1回はキャンペーン対象の予約が入っています。
新規顧客の開拓という意味もあると思いますが、以前来ていた人を呼び戻す効果もありました。
費用対効果があったというか、やってよかったと思います」
世間では賛否両論のGo To Eatキャンペーンですが、Aさんはキャンペーンについて肯定的だといいます。
Aさん「特にコロナになってからは、これまで来てくれていた方への還元をしたいという思いが強くて。
常連客さんも、予約がめんどうな面はありますが利用してくれていて、うちも集客になるしWin-Winなのかなと」
「やったもん勝ち」Go To対応で他店との差別化も
また個人経営の小規模な飲食店などは、競合がキャンペーンをやっていない場合も多く、恩恵を得やすいのではないかという考えも語ってくれました。
Aさん「特に個店は、Go Toをやっていると他より際立つと思います。
『駅名+飲食店』で検索したとき、うちよりも上に出てきた店がキャンペーンをやっていなければ勝てるわけですから。
『やったもん勝ち』みたいなところはありますね」
新たな「錬金術」の懸念も…飲食店オーナーが考える「Go Toイート」3つの課題
キャンペーン自体には肯定的なAさんですが、手続きや管理などの面で問題も感じているようです。
Aさんの話から、Go To Eatキャンペーンの"3つの課題"が見えてきました。
1. 問い合わせがつながらない
Aさんのお店では、比較的早くからキャンペーン加盟の準備を始めたといいます。
Aさん「うちは元々PayPayの加盟店で、PayPayから勧誘のメールが来てそこから加盟店に登録し、審査の電話を受けて掲載という手順を踏みました。
申し込みの手続きは、比較的簡単だったと思います」
キャンペーンが本格化する前に手続きを行ったことで、申し込み自体はスムーズに進みました。
しかし、今はキャンペーンに関する不明点があっても、予約サイトへの問い合わせがなかなかつながらず、困っているそうです。
Aさん「私が予約サイトに問い合わせても、メールも電話もつながらなくて、待ってほしいという自動返信メールが来た感じでした。
今から申し込むという人は、時間がかかってしまうかもしれませんね…」
2. ITリテラシーがない人には難しい
予約サイトへの問い合わせがつながらないというのもあり、管理方法などは全て自力で調べながらやっているというのが現状のようです。
Aさん「私の場合一般的な操作はできますが、その辺のハウツーが元々ない人は大変だと思います…。
知り合いの飲食店の方の中には、手続きや管理が煩雑なせいで、手を出すのが怖い人という人もいます」
また、利用者側にもまだまだキャンペーンの利用方法が浸透していないといいます。
Aさん「お客様は『やり方はわからないけどとりあえずやってみた』と言って来てくれることが多いですね。
制度が難しくて、わかっていない人が多いんじゃないかと」
そもそもキャンペーン利用の際、オンライン予約サイトを通さなければならないのはなぜなのかという疑問も拭えません。
Aさん「年配の人など、Webを使えない人との格差が広がってしまっている気がします。
あとは格差という点でいうと、世田谷区もそうですが、まだ食事券が発行されていない地域の人は不利になってしまいますし。
イギリスのように、シンプルに半額ペイバックみたいな感じだったらよかったんでしょうけど(※1)」
今回のキャンペーンを誰でも使えるわけではない、というところにも問題があると感じているようです。
※1:英国では8月、レストランなどで飲食した際の代金のうち、最大で半額を政府が補助する「Eat Out to Help Out(外食して支援しよう)」を実施していました。
3. 新たな「錬金術」の懸念:来店人数をごまかす手法
Go To Eatキャンペーンでは、人数変更などの予約管理は基本的に飲食店側が対応することになっています。
しかし仮に、「利用者が予約時に申告した人数よりも少ない人数で来店し、そのことに飲食店側も気づかなかった」場合、利用者に余分にポイントが支払われてしまうことになります。
たとえば、予約サイトから4人で予約した場合、最大で4,000円分のポイントが付与されます。
その後来店したのが2人だった場合、本来2,000円分のポイントしかもらえませんが、人数が変更されなければ4,000円分のポイントがもらえるため、利用者は「差し引き2,000円分のポイントを"儲け"てしまう」ことになります。
またこの場合、2人分の送客手数料が余計に発生してしまい、飲食店側の負担が増えてしまうことになります。
これについて編集部が農林水産省に問い合わせたところ、「飲食店が来店人数の確認と報告を行うので、ポイントが余分に付与されることはありません」という回答が得られました。
一方Aさんは、特に中・大規模の飲食店では、人数変更を見逃してしまう問題が起きてもおかしくないと話します。
Aさん「うちは1日のお客様が4、5件とかなので人数変更の把握はそこまで難しくないのですが、
いわゆる"中箱"、"大箱"のお店では難しくなりそうですね…。店舗側は管理が大変なんじゃないかと思います」
また、話題となっている「トリキ錬金術」のようにキャンペーンが悪用され、「来店人数をごまかしてポイントを多く得る」という手法が広まってしまうのではないかと懸念していました。
Aさん「このやり方だと店と客が結託して、店側が人数多いまま承認してしまえば、ポイントが付与されてしまいますよね…。1人1万とか簡単にもらえてしまうと思います」
1回の食事で10人までポイント付与の対象となるため、店側と協力して10人来店したことにすれば、1人が最大10,000ポイントもらうということも可能になってしまうわけです。
この問題が発生した場合の対応についても農林水産省に問い合わせたところ、以下のような回答がありました。
「そのような不正受給が発覚した場合、利用者へ給付金返還等を求める可能性がございます。また、不正利用が行われたIDは利用ができなくなります。さらに、飲食店が不正に関与していた場合、事業者名を公表するなどの措置をとる場合があります」
以上のように、不正にポイントを得るような問題が発生した場合は、利用者や事業者に対する一定の措置が検討されているようです。
店にも負担はあるが「捉え方の問題」
これだけ問題を感じているにもかかわらず、Aさんがキャンペーンに対して肯定的なのは、なぜなのでしょうか。
たとえばGo To Eatキャンペーンには、利用者が還元されたポイントを使用する場合、その割引分は「予約サイトから返金されるまで、飲食店側が立て替えなければならない」という問題(※2)もあります。
しかしこれについては、Go To Eatキャンペーン以前から存在していた問題であるため、そこまで気にならないといいます。
Aさん「ポイント割引分の立て替えについては、捉え方の問題なんじゃないかと思います。
飲食店だったら、出たお金が入ってくるまでにタイムラグが発生するのは当たり前なんですよね。キャッシュフローの管理っていうのは、飲食店やってればみんな経験してるはずなので。
予約サイトのポイント利用はキャンペーン前からそういう条件でしたし、Go To Eatキャンペーンのせいというわけではないと思います。
キャンペーンに対して元からネガティブな人は、負担がかかると『なんで』ってなるかもしれませんが…」
むしろキャンペーン期間中は「予約サイトの掲載料が無料」となっており、また一部のサイトでは「送客手数料も無料」になっているため、店側の負担は減っているともいえます。
※2:ポイントや食事券の利用があった場合、予約サイトや都道府県から返金されるまで、飲食店が一時的に割引分を負担する必要があります。
いつ返金されるのかは予約サイトや都道府県ごとに異なりますが、「利用された月の翌月15日もしくは翌月末に、指定口座へ入金される」という形が一般的となっているようです。
予約サイトからの入金頻度など詳しい条件は、農林水産省のGo To Eatキャンペーン特設サイト内「オンライン飲食予約事業者へ登録希望の店舗の皆さまへ」から確認できます。
Go Toイートで、外食に対するネガティブなイメージの払拭へ
また、Aさんがキャンペーンを肯定的に捉えている理由として、外食に対するネガティブなイメージが変わってほしいという思いもあるようです。
Aさん「報道とかSNSだと、どうしてもネガティブな意見が蔓延してしまうのは、仕方ないことなんでしょうか…。
もっとポジティブな情報が流れるようになれば、この状況も変わっていくんじゃないかと思います」
新型コロナウイルスの影響を受けた外食業界を救うべく、急ピッチで進められたGo To Eatキャンペーン。
制度の粗さや複雑さに問題がありつつも、新規顧客の獲得や元常連客の再来のきっかけとなり、飲食店の支援になっているのは事実のようです。
今後も感染防止策を実施しつつ、外食に対するネガティブなイメージをできるだけ払拭し、Go To Eatキャンペーンなどで外食需要を喚起していくことが、業界の復活には必要不可欠だといえるでしょう。
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