ヨーロッパの街角では日常の光景となっているレストランやカフェのテラス席ですが、日本では道路条件の違いもあり、ほとんど見かけることはありません。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大のカギとなる3密(密閉空間・密集場所・密接場面)を避ける方法の一つとして、政府はテラス席拡充を積極的に推進する姿勢を見せ、道路占有許可基準の緩和を発表しました。
この記事では、この夏から本格化する飲食の路上販売に関する法律の変革と、テラス席を設置する際に店舗側がどのような点に気を付けて営業すべきかについて具体的に解説します。
国土交通省が3密回避支援策を発表
3密を回避し新型コロナウイルスの感染拡大を予防するため、そして感染拡大の影響を受けた飲食店を支援するための緊急措置として、国土交通省は2020年6月5日に国道の路上利用における道路占用許可基準の緩和を決定しました。
今回の措置により、道路の構造や交通に著しい支障を及ぼさない場所の路上利用において一定の条件を満たす場合に、占用料等が免除されます。
なお、「道路の構造や交通に著しい支障を及ぼさない場所」とは、具体的には歩道であれば交通量が多い場所で3.5メートル以上、少ない場所で2メートル以上の歩行空間を確保できる場所を指しています。
本措置によりテイクアウト販売やテラス席の導入が可能に
今回の道路占有基準緩和により、沿道で営業する飲食店は店舗の前の道路でテイクアウト用の商品を販売したり、テラス席を設置することができるようになりました。
通常であれば、路上へのテラス席の設置など交通以外の目的で道路を利用する場合には、道路法に基づいた道路管理者への占用許可申請の手続きが必要です。しかし今回の措置によると、対象主体である地元の協議会や地方公共団体が支援する民間団体などが一括で申請した場合には、占用料の支払いが免除されることになりました。
今回の緩和措置には、以下のような占用の条件が明示されています。
①新型コロナウイルス感染症対策のための暫定的な営業であること
②「3密」の回避や「新しい生活様式」の定着に対応すること
③テイクアウト、テラス営業等のための仮設施設の設置であること
④施設付近の清掃等(占用区域以外の除草、清掃、 植樹の剪定等)に協力すること
なお、本措置による路上の占有期間は、2020年11月30日までです。
佐賀県が独自にテラス席導入実験を実施
路上でのテラス席の設置やテイクアウト販売は日本ではあまりなじみがないため、実際に実施するとなると「本当にテラス席に座りたいお客さんがいるのか」と不安を感じる店舗も少なくありません。
そうした状況の中、今年の5月下旬から6月上旬までの間に佐賀県内で事業主が主体となり、「SAGAナイトテラスチャレンジ」という社会実験が実施されました。佐賀駅から佐賀県庁を結ぶ中央大通りを舞台に、地元の13の飲食店が店舗前や駐車場にテラス席を設置し、ユーザーに食事・サービスを提供するという内容です。
実際に「SAGAナイトテラスチャレンジ」期間中にテラス席を利用したユーザーにアンケート調査を実施したところ、143件の回答のうち、居心地が「良かった」「まあまあ良かった」と前向きな回答が93%を占める結果となりました。佐賀県民は個室を好む文化があることから、主催者側は市民にオープンなテラス席が受け入れられるかと懸念していたものの、アンケートでは開放的な雰囲気を好む声が多く寄せられたとしています。
佐賀県が独自に行った「SAGAナイトテラスチャレンジ」は、テラス席のもつ可能性を感じさせる結果となりました。
路上テイクアウト販売の注意点・ポイント
飲食店がテラス席を設置したりテイクアウトメニューを路上で販売したりする際には、屋内で食事や飲み物をサービスする時とは異なり、いくつか注意すべきことがあります。まずは、路上テイクアウト販売を実施する上でできる工夫や気をつけたいポイントを解説します。
1. ターゲット・時間帯を意識したメニューにする
店頭でのテイクアウト販売を利用したいと考えるユーザーは、店の前で販売しているメニューや店の雰囲気などに惹かれて商品を購入する可能性が高いと考えられます。そのため、路上でテイクアウト販売を実施する際は、多くの人に興味・関心を抱いてもらう工夫が求められます。
まずは店舗付近を行き交う人のタイプを知り、ターゲットを把握する必要があります。その上でメインターゲットとなるユーザーの行動・好みを分析し、ニーズが高いと考えられるメニューを開発します。
たとえばオフィス街で営業している店舗であれば、平日のランチ時に店内が混み合うことから入店を渋るユーザーに対し、お弁当のような気軽にランチを楽しめるメニューをテイクアウト販売します。路上でのテイクアウト販売は店内が混雑していても商品を提供できるため、店舗の売り上げを増加させたり、店舗に興味を持つユーザーをキャッチできたりといったメリットが生まれます。
2. 外装やPOPでアピールする
ユーザー店舗への興味・関心を抱かせるためには、店外POPや立て看板が有効な手段になります。POPや立て看板は離れた所からでも内容を確認できるデザインにすることを心がけましょう。
購買意欲は湧きにくくなります。そのため、看板にはおすすめメニューの写真やこだわりポイントを載せるなど、「この店でテイクアウトを利用したい」とユーザーが感じられるような工夫を施しましょう。
3. 食の安全には細心の注意を
屋外での飲食物の販売により食中毒の可能性が高まるということを知っておく必要があります。食中毒を引き起こす細菌の多くは室温約20度〜25度で活発に増殖しはじめ、人間の体温である37度前後で増殖がもっとも速くなるとされています。そして、細菌の多くは湿気を好むため、高温多湿となる梅雨時は食中毒の危険も高まります。
特にテイクアウトを利用するユーザーへの注意喚起や、テイクアウトで販売する食べ物に保冷剤を付けるなど 、店側の対応が必要になるでしょう。
また、屋外で飲食物を提供する際には、食べ物に昆虫などの異物が混入するといった事故も発生しやすくなります。万が一、そのような事故が起きてしまった場合の対応を、店側が従業員に徹底しておく必要があります。
テラス席導入の注意点・ポイント
常に外気にさらされた状態で飲食をするテラス席は、開放感がある一方で、ユーザーが快適に過ごすためにさまざまな対策を行う必要があります。
1. 天候・気温対策
これから夏になると、気温が上がります。特に昼食時間帯の前後は1日のうちで最も気温が高くなる時間帯です。加えて、コンクリートで舗装されている道路の輻射熱により長時間のテラス席での滞在は、より暑さが強く感じられます。そのため、大きな日傘を設置したり、暑さ対策として体感温度を下げるミスト発生装置などを付ける必要があるでしょう。
冬にはパティオヒーター(屋外用業務用ガスストーブ)などの暖房システムを取り入れると、夏と同じように屋外にテラス席を設置することができます。
2. 周辺環境への配慮
近隣住民が、店舗にとって大切な顧客となる可能性もあります。そのため、テラス席を設置する際には店舗周辺に住む人の環境にも配慮することができるかどうかが、集客成功の要因になります。
特に、排煙や臭気そして騒音などは近隣住民からのクレームに繋がりかねません。そのために、居住エリアに隣接した店などは特に注意する必要があります。夜にテラス席から漏れる話し声などは想像以上に響くため、深夜にテラス席を開放するのは避けたほうが良いでしょう。
路上販売・テラス席の導入など、3密を回避した営業を
屋外での飲食の提供は屋内のみでの営業に加えさらに注意するべきポイントが増えるため、飲食店にとっては、新しい環境に慣れるまでに少し時間がかかるかもしれません。しかし、この状況をチャンスと捉え、新しいビジネスチャンスを生み出すことが、これからの「新しい生活様式」の中で生きていく私たちにとって、必要不可欠といえるでしょう。
今回の道路占有基準の緩和を機に、テラス席を新たに設置するテイクアウト販売をするといった新たな取り組みを開始する際には、ユーザーニーズを掴みながら新しい営業スタイルの周知を広げていくことが、収益の増加にも繋がると考えられます。
<参照>
・日経BP総合研究所:店舗の路上利用に伴う道路占用基準を緩和、国交省が新型コロナ対策で・日経BP総合研究所:<詳報>佐賀県がコロナ対策で歩道にテラス席、発案から半月でスピード実施
・日本経済新聞:テラス営業の3密回避支援 国交省、道路占用基準緩和
・国土交通省:テイクアウトやテラス営業などのための道路占用の許可基準を緩和します
・おみせラボ:店頭販売のコツは? 効果の出るポイントや注意点を紹介
・朝日新聞:急増テイクアウト、何がNG? 食中毒防ぐ店と客の知恵
・STOP食中毒:FAQ.「お弁当を冷蔵保存?保冷管理?」温度帯と食中毒
・店舗デザイン.COM:飲食店の「テラス席」設置は事前の届け出が必要! 設置のルールとポイント
・内装ハック:テラス席は届出が必要です!テラス席付きの飲食店を開業するなら必ず見ておきたいポイント
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