コロナ禍によって最も大きな打撃を受けた業種の一つに、百貨店業界があります。
インバウンド(訪日外国人観光客)はほぼ完全にストップし、国内消費も大きく影を落としたこの2年間。数百年続く伝統を持つ老舗、大丸・松坂屋はその中で確かな変革を遂げていました。
今回は大丸・松坂屋を抱えるJ.フロント リテイリンググループで「大丸松坂屋カード」を手がけるJFRカード株式会社代表取締役社長の二之部守氏にインタビューしました。
アメリカン・エキスプレスやVISAなど世界的なクレジットカード会社で要職を歴任した二之部氏は、コロナ後の百貨店のあり方をどう見ているのでしょうか。
コロナ禍で受けた打撃と、新たな活路
_コロナ禍となってから約2年が経ち、百貨店業界も厳しい状況に立たされています。
そうですね…インバウンドはもとより、国内の客足も大きく減少しました。もちろんこれは当社だけに限った話ではないですがね。
こうした状況を少しでも改善すべく、ECでの取り扱い商品の拡充や情報発信の強化に取り組みました。
それと新たに「オンライン接客」にも取り組みました。Zoom上でコミュニケーションをとることで、顧客にとっては馴染みのお店、馴染みの販売員とオンライン上でつながり、買い物ができるわけです。
また対インバウンド市場に対しては、現地で影響力のあるインフルエンサーを起用し、現地サイトでの情報発信を行っています。
_コロナ禍でこれまでやってきた営業ができない中で、次々に新しい打ち手を打ってこられたのですね。オンライン接客はコロナ禍になってから初めて取り組んだ施策だということですが、手応えはいかがでしょうか。
非常に良いですね。オンライン接客を導入したことで、いわば「時間」と「場所」の制約を超えられたことは大きいと感じています。
コロナ前までは直接顧客のご自宅まで商品をお持ちし、ご説明に上がっていました。そうした百貨店ならではのクローズドな関係構築を、オンラインでも実現できたというのは大きな収穫です。
特に高級品やアート(芸術品)をこうしたオンライン接客形式から購入いただけるというのは、コロナ禍がなければ発想すらしなかったかもしれません。
_コロナ禍だからこそ、得られたものもあったわけですね。
はい。ただ、オンラインがリアルの場を完全に代替できるかというと、そういうわけではないと考えています。店舗というリアルにしかない強みもあるなと。
「デジタルの強み」と「リアルの強み」をどう融合させるかというのが、今後挑戦していきたい領域です。
まだ構想段階ではありますが、百貨店の売り場で行われるお客様のさまざまな行動を、データとして活用できないかと考えています。
例えば店頭で何を手に取り、何を棚に戻したか。施設内ではどういうルートを移動しているのか、店員とどんな会話をしたか、など。こうしたデータを収集することは技術的には可能です。
こうした百貨店の売り場にある潜在的なデータを可視化し活用することで、新たなフェーズに進むことができると考えています。
大丸松坂屋カードの刷新、今後の挑戦について
_大丸松坂屋カードを2021年1月にリニューアルされていますね。
リニューアルした大丸松坂屋カードは、これまでの常識を破るカードだと自負しています。
たとえば業界初となる縦向きのカードデザインへの刷新、大丸・松坂屋で買い物する以外にもあらゆるシーンで貯まる「QIRA[キラ]ポイント」を導入したことなどです。
しかしリニューアルのタイミングは、奇しくもコロナ禍直前という時期と重なりました。
コロナ禍に起因する外出自粛要請などによって、リアル店舗での呼びかけによるカード加入者の獲得は難しくなりました。しかしこうした状況には、ターゲットとする重点エリアを定めた上で、オンラインでの宣伝に注力することで効果を得ています。
_コロナ後を見据えた今後の展望をお聞かせください。
QIRAポイントについては認知度ゼロからのスタートです。そのためお客様へのサービス浸透にある程度時間がかかることは想定しており、2年、5年、10年といった中長期的な時間軸で考えています。
今後はこのQIRAポイントを、JFRグループ内の商業施設であるパルコやGINZA SIXなどで貯まる・使えるポイントプログラムにすることを考えています。また地域の加盟店で常時2倍3倍のポイントが貯まるようにするという構想もあります。
長期的にはQIRAポイントの浸透を通して、お住まいの近くの大丸や松坂屋で日々買い物をする方、そのエリアで勤めている方に「QIRAポイントが使える場所だから行きたい、使いたい」と発想してもらえるような存在にしたいと考えています。
「お客様の声」は自分の耳で聞く
_二之部社長は「お客様の声」をご自身で聞いていらっしゃるとうかがいました。
月に何度かは、コールセンターとやりとりするお客様の声をオペレータの真横で直接聞くようにしています。
お客様の声を聞くことによる気づきは非常に多く、貴重です。百貨店ビジネスを中でやっていると忘れがちなお客様の視点をつかむためには、やはりお客様の声に触れなければなりません。
私や社員の感覚では当たり前に伝わると思っていたことが実はうまく伝わっていなかった、と気付かされることはよくあります。
そうした気づきはすぐにWEBサイト上のQ&Aに盛り込んだり、各種販促物の内容に反映させたりといったアクションで解決を図っています。
_「お客様の声」を受け止める際に気をつけていることはありますか。
「お客様の声」として可視化したネガティブな意見をどの程度取り入れ、改善に活かすかについては、一度冷静になって考えてみる必要があります。
時に社内から「お客様からこういうご意見があったので、なんとかしましょうよ」と提案されることがあります。
百貨店はホスピタリティの強い組織です。たった一つの意見であったとしても、お客様のお困りごとを解決するために考えるという文化があります。この文化自体は決して悪いことではありません。
しかしあらゆる角度からの全てのご要望を解決できるかというと、現実的ではありません。あるクレームをくださったお客様とは正反対のご要望をもつお客様もいることでしょう。
その判断のためにも、クレームの報告を受けた場合にはそのクレームは5件なのか、50件なのか、あるいは5,000件なのかという数も確認した上で意思決定を行なっています。
百貨店というビジネスモデルは終わった。ではどうあるべきか?
_今後、百貨店業界はどういったところを目指すべきだと思われますか。
これからの小売業界では、「これだけは負けない」というものを見つけ出し、磨いていくことが大切だと思います。
そして「”百貨店”というビジネスモデルはもう終わった」と、常々社員にも話しています。長い伝統のある百貨店というビジネスは、変化をしなければ時代に取り残されてしまうでしょう。
百貨店は今後、「メディア」としての付加価値を追求しなくてはならないと思っています。
我々は物を作っているわけではなく、物を直接売ることもしていません。テナント契約をしている事業者様が売っています。
では百貨店には何があるのか。それは「信用力」「ブランド」「場所」「顧客」です。
百貨店は今後お客様と商品の出会う場所としてどんな価値提供ができるのかについて、さらに追求しなくてはならないと考えています。
<プロフィール>
二之部守 - J.フロント リテイリンググループ執行役/JFRカード株式会社代表取締役社長
1961年生まれ。東京大学 文学部 卒業、ニューヨーク大学経営大学院 MBA 修士課程修了 ファイナンス専攻、86年アメリカン・エキスプレス・インターナショナル日本支社入社。
2000年11月同社グローバル・ネットワーク・サービス 日本/韓国地区副社長。05年8月同社トラベラーズチェック・プリペイドサービス副社長などの要職を経て、11年9月、ビザ・ワールドワイド・ジャパンのビジネスデベロップメントⅡのヘッドに就任。
15年10月ビジネス・アドバイザリー・サービス代表、17年2月Origamiアドバイザーを経て、18年3月よりJFRカード株式会社 代表取締役社長(現任) 兼 J.フロント リテイリング株式会社 執行役(現任)
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