大手外食チェーンのワタミ株式会社(以下、ワタミ)は、「居酒屋 和民」「ミライザカ」「焼肉の和民」などを中心にさまざまな業態を展開しています。
しかし、コロナ禍の2020年は居酒屋への時短要請や酒類の自粛などにより、大きく売り上げが落ち込みました。
そこで、ワタミは既存の居酒屋の店舗を減らすとともに、焼肉店やフライドチキン店などの新規事業に注力することを発表しました。
本記事では、ワタミが居酒屋店舗の多くを「非居酒屋」へ業態転換することとなった経緯と、今後の展開などについて解説します。
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居酒屋の売り上げが落ち込み苦境に
ワタミが2021年2月12日に公式サイトで発表した「第3四半期決算短信」によると、ワタミの2020年4月1日から12月31日までの売上高は前年比33.3%減となる約465億円で、コロナ禍で売り上げが大きく落ち込んだことがわかりました。
営業時間の短縮や19時までの酒類提供の制限など、居酒屋業態には苦しい自粛が求められてきました。
さらに今回3回目となる緊急事態宣言では、酒類提供またはカラオケ設備を提供する飲食店などに対して休業要請が出されており、ワタミは対象地域の直営居酒屋を5月31日まで休業としています。
そういった状況から、ワタミが外食事業での生き残りのためコロナ禍で強化してきたのが「焼肉の和民」「フライドチキン店・唐揚げ店」の2つの非居酒屋業態で、2023年3月期までにこれら非居酒屋での売上高と居酒屋での売上高を逆転させるとしています。
居酒屋 和民、「焼肉の和民」に転換へ
ワタミは2020年10月5日、「居酒屋 和民」などの既存の居酒屋120店舗を新業態の「焼肉の和民」に転換し、今後の主力事業とすることを発表しました。
また、2021年3月末までに既存の居酒屋114店を閉店して新業態への転換を急ぎ、従業員の雇用を維持する考えです。
焼肉店に業態転換するのは「居酒屋 和民」「坐・和民」のすべての店舗と、「ミライザカ」「三代目 鳥メロ」の一部店舗となります。
既存店舗からの転換出店なため「焼肉の和民」は駅近での展開となり、現在三大都市圏で27店まで拡大し、2022年3月期末までには120店の出店を予定しているとのことです。
焼肉業界はコロナ禍で好調
東京商工リサーチのデータによれば、コロナ禍で飲食業界の不調が続くなかで2020年の焼肉店の倒産件数は14件でした。これは過去10年で倒産件数が最も少ない数字だといいます。
また焼肉業界全体の売上高でも、一般社団法人日本フードサービス協会による統計で2020年10月と11月に2か月連続で前年同月比プラスとなるなど、コロナ禍において焼肉店は堅調な様子が見て取れます。
コロナ禍で焼肉店が好調な理由の1つに、焼肉店ならではの「換気」による密閉状態の回避があげられます。
焼肉店で使われる無煙ロースターの最大手「シンポ」によると、無煙ロースターや上引きフードの換気では、焼肉の煙と一緒に店内の空気を店外に排気するため約3分半で客席全体の空気が入れ替えられるとのことです。
また、時短営業の中で営業時間を朝方に移行して打ち出した「朝焼肉」や、おひとりさま需要に応えた「今こそ!!ひとり焼肉」などのキャンペーンを行った「焼肉ライク」は、コロナ禍にあっても新規出店を続け、その規模を拡大しています。
焼肉の和民もこうした焼肉業界好調の流れに乗り、出店を拡大しているようです。
万全なコロナ対策を実施
焼肉の和民では新型コロナウイルスの感染防止対策として、最新の排煙設備と空調設備よる3分に1回の店内空気の完全入れ替えをはじめ、商品を客席まで速達する「特急レーン」やタッチパネルでの注文、ロボットによる配膳や下げ膳などを導入しています。
これによりホール業務の効率化と新型コロナウイルス感染拡大防止対策を同時に実現し、従来の居酒屋業態と比較して接客による接触を最大80%削減を実現できるとしています。
独自に開発したブランド和牛を提供
焼肉の和民で提供される「和民和牛」はワタミが独自開発したオリジナルブランドの和牛で、リーズナブルで低脂肪、低カロリーのヘルシーな和牛として提供されています。
また、2021年3月からはワタミカルビと共に、新型コロナウイルスによって経営に影響を受けた生産者への支援として、A5ランクの黒毛和牛(仙台牛:関東、薩摩牛:関西・東海)のカルビも提供を開始しています。
Twitter: コマシ 食べて埼玉 さん @komashi の投稿フライドチキン店・唐揚げ店も展開
焼肉以外の新業態としてワタミは、唐揚げ専門店「から揚げの天才」とフライドチキン店「bb.qオリーブチキンカフェ」を展開しており、2022年3月期には「から揚げの天才」を200店、「bb.qオリーブチキンカフェ」を80店それぞれ新規出店する予定です。
「bb.qオリーブチキンカフェ」は1995年創業の韓国のフライドチキンで、ワタミが日本国内での運営権を持って展開しています。
ファストフードもコロナ禍で好調、唐揚げはブームに
低迷する飲食業界のなかで、ファストフードの業態はコロナ禍でも好調な売り上げを記録しています。
日本フードサービス協会のデータでは、「ファストフード」の中でもハンバーガーなどの「洋風」では、2020年の売上高は前年比105.5%ともなり、時短要請が続くなかでもテイクアウトやデリバリー需要などにうまく対応したことで好調な様子がみられます。
こうした流れを受け、鳥貴族も8月からファストフード店を出店する見通しです。
また最近になって唐揚げがブームになっているといわれており、ワタミの「から揚げの天才」以外にも、すかいらーくグループの「から好し」やモンテローザの「からあげの鉄人」など、大手外食チェーンがそれぞれ唐揚げの専門店を出店しています。
「ワタミデリバリー」立ち上げ、需要つかむ取り組み
コロナ禍では外食の機会が減り、唐揚げやフライドチキンは家で食べる惣菜として、テイクアウトやデリバリーでの人気が高いメニューです。
2020年6月にワタミは自社デリバリー事業として「ワタミデリバリー」を立ち上げ、「から揚げの天才」と「bb.qオリーブチキンカフェ」を対象に、自社での配送による配達手数料の削減とデリバリー業態の強化をはかっています。
また、「から揚げの天才」は実家が有名な玉子焼き屋のテリー伊藤さんの玉子焼きと唐揚げが看板メニューで、さらに「大社長」という肩書きでテリー伊藤さんが広告や公式サイトに登場しています。
一方の「bb.qオリーブチキンカフェ」は韓国でNo.1のフライドチキンチェーンで、コロナ禍のステイホームで人気となった韓国ドラマの食事シーンに複数登場した事から注目されるなど、どちらも話題性のある店舗を展開しています。
Twitter:コナン さん @mayu3104mayu の投稿従来型の居酒屋から"撤退"、新たな生き残り戦略へ
5月7日付の日経ビジネスに掲載されているワタミ会長渡邉美樹氏のインタビューでは、今後居酒屋業態も200店舗程度残すとしているものの、これまでの規模から考えれば"撤退"に近いものとなります。
その理由として同インタビューでは、従来型の居酒屋は「コロナで死んだ」とし、外食業態には「専門店化」の流れが加速していると話しています。大人数の宴会需要は半減し、「良い居酒屋」のみが生き残ることになるというのです。
そこでワタミは需要減に合わせて店舗数を減らし、「良い居酒屋」を目指してメニュー刷新などを行うとしています。
居酒屋チェーン大手であったワタミが実施する「非居酒屋」を主力とした業態転換は、アフターコロナにおける社会の変化を見据えたものだといえるでしょう。
時代の潮流に合わせてさまざまな業種・業態へ変化を見せるワタミの戦略に、今後も注目です。
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<参考>
日本経済新聞:ワタミ、21年3月期中に居酒屋114店閉店へ 対象を追加
ワタミ株式会社公式サイト:決算短信
日本経済新聞:ワタミ、居酒屋の休業継続 すかいらーくは酒類販売自粛
日経クロストレンド:ワタミが主幹事業を焼き肉に 居酒屋120店舗を業態転換
ワタミ株式会社公式サイト:ワタミ外食事業の新メインブランドとして「焼肉の和民」をオープン
FNNプライムオンライン:「焼肉店」の倒産が過去10年で最少…理由は“換気”? コロナ禍でも好調な理由を担当者に聞いた
ITmedia ビジネスオンライン:急増する「焼肉の和民」が「牛角」の脅威に!? コロナ禍の“有望市場”を制するのはどこか
日本フードサービス協会:外食産業市場動向調査 令和2年(2020年)年間結果報告
日刊ゲンダイDIGITAL:空前の唐揚げブームなぜ 外食大手も出店、いつまで続くか
埼玉新聞:女性から高い支持 人気のフライドチキン、埼玉・上尾に開業 想定上回る売り上げ、ワタミが出店を本格化へ
流通ニュース:ワタミ/「から揚げ」デリバリー強化「自社配送」で配達手数料削減
日経ビジネス:トップ6人が語る未来 ワタミ渡邉氏「従来型の居酒屋は死んだ」