ストーリー消費とは、商品が生み出された歴史やかかわった人物が付加価値となり、購入意欲が高まった結果起こる消費行動です。
商品に関連する情報を消費者に伝え購買意欲を高める手法は、マーケティングの現場でも取り入れられています。
この記事では、ストーリー消費について紹介します。
なぜいま、ストーリー消費が存在感を高めているか
ストーリー消費は2010年代前半からマーケティングの現場で指摘されてきた現象ですが、コロナ禍において注目を集めています。コト消費の隆盛といった消費者の意識の変化や、SNS利用の日常化といった生活の変化も関係しています。
まずはストーリー消費の存在感が増している理由を説明します。
モノがあふれ、市場がコモディティ化
現代の日本では、一定水準の生活環境を整えることは難しくありません。日用品や生活家電、電子機器、消耗品にいたるまで、消費者のこだわりを満たす商品が購入可能な価格で販売されています。
このような社会のなかで、消費者にとって物理的に満たされたいという欲求はあまり生まれません。たとえば100円均一のマグカップであっても、容易に壊れてしまったり取っ手のない不良品であったりということはほとんどありません。生活用品以外の分野でも、安価で高性能な商品があふれています。
こうした中で消費者には「今しかできない体験をしたい」「他人とのつながりを感じたい」という欲求が高まっていきます。
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コロナ禍により、コト消費に制限
「今しかできない体験」を求める消費者の行動は「コト消費」と関係しています。
コト消費は商品を入手するまでの過程や、体験、あるいは特定の空間での滞在そのものに価値を見出し、対価を支払う消費行動です。
商品の機能に意味を見出したり、所有することに意味を見出す消費とは異なる消費として定義されています。
2020年からの感染症の流行拡大により、旅行といった非日常から、買い物といった日常まで、多くの活動が制限されています。
こうした中、外出や店頭での体験を経てモノを購入するといったコト消費を行うことが難しくなりました。オンラインショッピングでは、多くの場合商品をスペックから判断し購入するしかありません。
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モノ消費「付加価値」に意味を見出す消費者
こうした中、消費者はモノを差別化できる「個性」を求めています。商品に付帯する「ストーリー」は、まさに消費者の求める個性となります。
歴史や作り手の思いは、同類の製品との差別化ポイントであり、商品に付加価値を与えます。また、消費者自身が製品に手を加えることもストーリーの一つとなります。
たとえば「数年の試行錯誤を経て商品化された缶コーヒー」「母親が付けていたアクセサリーをリメイクした指輪」「自分でアレンジした衣服」はストーリー消費の一つの形態といえるでしょう。
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ストーリー消費を成立させる2つのトレンド
続いて、このようなストーリー消費を成立させる2つのトレンドについて解説します
SNSの普及:ユーザーの発信が「共感」の波を拡大
SNSの普及は、商品にまつわる「ストーリー」を拡散しやすくしました。SNSでの発信には複雑な手続きは必要なく、一般消費者は自分の言葉で自分の感想を発信します。
情報を発信する側のユーザーはなぜ発信するのでしょうか。自分の体験を誰かに共有して役に立ちたかったり、感動を誰かに伝えたかったり、あるいは自慢をして心理的に満たされたかったりということが考えられます。こうした心の動きを生むのが、商品を他と差別化する「ストーリー」です。
SNSのコンテンツや情報は、似た価値観をもった消費者に届きやすく、情報を受け取ったユーザーには共感が生まれます。ユーザーは共感を元に購買を検討し行動します。商品にまつわるストーリーが、消費を引き起こす可能性を持っているといえるでしょう。
また忘れてはいけないのが、消費者はSNSに限らず、メディアを通じて常に膨大な量の情報に触れているという点です。こうした中で、ある情報を強く印象づけることはどんどん難しくなっています。ストーリーは、情報の波の中で消費者に情報を印象づける有効なファクターとなります。
Twitter:みさまる@着物さんの投稿
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「世間が支持するか」ではなく「自分にとって魅力的か」が重要
ストーリー消費を支える消費者の価値観には、「自分にとって魅力があるかどうか」があります。世間の多数が良いと思うかどうかではなく、自分がかっこいいと思えるかどうかを大切にする考え方です。株式会社テスティーの2019年の調査では、20代男性60.7%、20代女性78.6%が「ブランド価値より、自分に合ったものが欲しい」と回答しました。
高級ブランドという社会的な価値よりも、「パーソナリティ」を大切にしていることがわかります。
商品にまつわるストーリーがこうしたパーソナリティと合致しているものであったり、肯定するものであったりする場合には、ストーリー消費を引き起こすと考えられるでしょう。
<参照>
<ECのミカタ×TesTee>テスティー、ミレニアル世代の「消費」に関する意識調査を実施|株式会社テスティーのプレスリリース
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ストーリーマーケティングのポイント
ストーリー消費は、商品に付随する歴史やエピソードがモノの価値を高め、それに対する対価を払うようになる消費行動です。
商品やサービスそのものの品質や機能よりも、企業の商品開発までのプロセスや、商品の歴史などを消費者に伝えることに重点を置くことで購買意欲を喚起します。
こうした消費行動を喚起させることを目的としたマーケティング手法は、ストーリーマーケティングと呼ばれます。
続いて、ストーリーマーケティングの3つのポイントを整理します。商品にまつわるストーリーを展開する場合には、これら3つのポイントを意識するべきでしょう。
1. 「真実」を伝える
ストーリーマーケティングを実施する上で重要なのは背景やストーリーですが、これらは事実であることが大切です。感動を呼ぶ話や、消費者に共感されるような理念であっても、作り話では意味がありません。虚偽の話を宣伝に活用した場合、消費者からの信用を失ってしまう可能性があります。
事実を伝え、本当に共感してくれる消費者に購入してもらうからこそ、ストーリーマーケティングは成功します。
2. 「共感」を得る
2つ目のポイントは共感を得ることです。共感は、消費者の行動を呼び起こすもっとも重要な要素です。
たとえば、企業や従業員が目標達成に向けて困難を乗り越える姿を伝えることは、消費者の共感を得ることができます。
商品の性能について伝えるだけでなく、どんな経緯でその商品の開発に至ったのか、販売開始までのどのような歴史があったのかに焦点をあわせます。
成功した部分だけでなく、過去の失敗や、試行錯誤のプロセスなどを盛り込むことで、より大きな共感につながります。消費者が自分自身を投影できるような身近な話を用いて伝えることで、より記憶に残り、共感のポイントが多いストーリーとなります。
3. 「繋がり」から広がる
ストーリーが消費者に与えた共感は、その消費者がつながる人物に共有され、そこでも共感を生み出す可能性があります。
共感はこのように消費者による宣伝行動につながり、またSNSを通じて拡散していきます。
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ストーリーマーケティングと類似した概念
最後に、ストーリーマーケティングに類似した概念を紹介します。
類似1. コミュニティマーケティング
コミュニティマーケティングとは、ある特定のコミュニティに対して商品の宣伝を行うアプローチです。人間の帰属意識を大切にする価値観をベースに、購買行動につなげます。
たとえばSNSを活用したオンライン上のコミュニティや、イベントなどを通じたオフラインのコミュニティに対する情報発信や、限定ノベルティの配布などはコミュニティマーケティングの一手法といえるでしょう。
ブランドの商品所有者だけが参加できるクローズドなイベントは、コミュニティへの帰属意識を高めます。こうしたつながりのなかで、商品やブランドへの愛着が増強されます。
コミュニティマーケティングは宣伝の主体である企業や組織と、消費者との間に双方向のやりとりが可能な点にあります。消費者の反応を引き出すような施策により、消費者からの商品やブランドに対する評価を引き出し、改善に活かすということもできます。
個人のライフスタイルが多様化し、以前のようなマスマーケティングよりも、ターゲットを絞った広告宣伝の重要性が高まっています。このような市場の変化に合致した施策といえるでしょう。
<参照>
初開催「よなよなエールの❝おうち❞超宴」新型コロナで中止となった2,000人規模のファンイベントをオンラインで開催! | 株式会社ヤッホーブルーイング コーポレートサイト
類似2. 共感マーケティング
共感マーケティングは、消費者の共感を呼ぶ仕組みをつくることに焦点を当てるマーケティング手法です。インフルエンサーによる発信や口コミの集積により、消費者の共感を呼び起こし、それを消費者行動に結びつけます。インフルエンサーや口コミの内容は、必ずしも商品にまつわるストーリーとは限りません。
共感マーケティングでは、共感を広めることに専心してしまい、肝心の商品や情報に魅力がなければ拡散されない点に注意が必要です。
消費者がストーリーに付加価値を見出すことで起こる購買行動
SNSなどを通じた情報発信が日常化していることや、消費機会の変化、消費意識の変化にともないストーリー消費やストーリーマーケティングの存在感が強まっています。
商品のスペックや価格が市場における差別化につながらない現代で、商品の持つストーリーは消費者にとって大きな付加価値となります。今後も消費者に選んでもらうための重要なファクターであり続けるでしょう。
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