マジカルナンバーは、アメリカの心理学者であるジョージ・ミラー教授が発表した理論に登場します。この理論は人間の記憶容量に関する論文の根幹を支えるものとなっており、認知心理学という学問領域を成立させる重要な発見となりました。
マジカルナンバーは、人間の短期記憶が可能な情報のかたまりの数量のことです。情報整理に役立つ理論として、これまでにマジカルナンバー7、次いでマジカルナンバー4が発表されています。
この記事では、マジカルナンバーについて、またマジカルナンバーをどのようにマーケティングに活用できるのかについて解説します。
マジカルナンバーとは
マジカルナンバーは、人間の短期記憶に関しての原則を示す単語であり、科学的な見地に基づいた意味合いを持っています。その内容は論文として発表されており、多くの学問分野の研究に影響を与えました。
まずは、マジカルナンバーという用語が示す内容について紹介します。
マジカルナンバーは、人間の記憶容量のこと
マジカルナンバーは、人間が短期間に記憶できる物事の数量を示しています。ジョージ・ミラー教授が提唱し、1956年の論文で初めて世に送り出されました。
論文によると、人間の短期記憶は容量として7個前後まで覚えられると書かれています。ただし、その7個の基準は日常的な物事に限定されます。
ミラー教授の提唱したマジカルナンバーはマジカルナンバー7、あるいはマジカルナンバー7±2と呼ばれます。
以後もマジカルナンバーは研究の対象として数々の実験が行われ、2001年にネルソン・コーワン教授が発表した論文によって、マジカルナンバー4ないしマジカルナンバー4±1として扱われるようになりました。
人間の短期記憶に限りがあることを示すマジカルナンバーの発見は、脳科学や認知科学に強い影響を与えました。
短期記憶とは
人間の記憶は、長期記憶と短期記憶という大きく二つのカテゴリに分けられ、このうち短期記憶はマジカルナンバーと関係があります。
五感によって認識された情報は、電気信号として脳の各部位に伝達されます。これらの情報は、大脳辺縁系にある海馬に集積され、一時的な記憶として保存されます。この一連のプロセスが短期記憶です。
短期記憶はその名前のとおり、情報の保存期間が短い記憶です。長くても数日、早ければ秒単位で忘れられます。
チャンクとチャンク化
チャンクは、情報のかたまりを意味する用語です。情報のかたまりの粒度を変化させた場合、人間が記憶できる数量に変化が生じます。
チャンクにおいては、たとえ同じ単語や意味であろうとも、どこを1個のかたまりと認識するかが鍵になります。
たとえば、お年玉という単語を「お」「年」「玉」としてそれぞれ記憶していたら、3個に分割されたチャンクとして記憶します。もしも、平仮名として認識していれば、「お」「と」「し」「だ」「ま」で5個のチャンクが必要になります。
お年玉という概念を理解して一個の事物であると認識すると、「おとしだま」あるいは「お年玉」という1個のチャンクにまとめられ、記憶容量の使用が1個分のみに減少します。
こうした複数のチャンクをまとめることをチャンク化、チャンキングと呼びます。上記の例のようにチャンクをまとめる行為はチャンキングアップ、より細かなチャンクに細分化することはチャンキングダウンといいます。
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これまでに提唱された2種類のマジカルナンバー
科学的裏付けがある論文を通して世に知られたマジカルナンバーは、マジカルナンバー7とマジカルナンバー4の2種類になります。
マジカルナンバー7は、ジョージ・ミラー教授の論文のタイトル、および本文によって提唱されました。それから40年もの間、多くの科学者たちがこの記憶に関する発表内容を検証し、ネルソン・コーワン教授がマジカルナンバー4として提唱しました。
人間の記憶容量は、1950年代に思われていたものより、実際には小さいことが判明しています。ここでは、マジカルナンバーの変遷を見ていきます。
マジカルナンバー7±2とは
マジカルナンバー7±2は、ジョージ・ミラー教授の論文の名前に由来しています。マジカルナンバー7として知られていますが、論文内では7個前後として指定されており、マジカルナンバー7±2と表記するのが正式といえるでしょう。
20世紀の半ばに発表されたこの理論により、多くの学問分野が興隆しました。論文内で示された記憶可能な7個については、先の項目にあったとおりにチャンクというかたまりの個数になります。
これらのチャンクを合成する、あるいは分割する行為がチャンク化、あるいはチャンキングです。チャンキング・アップによってチャンクは増減しますが、人間の短期記憶における容量は7個前後である点は変わりません。
マジカルナンバー4±1とは
マジカルナンバー4±1は、ネルソン・コーワン教授による論文によって提唱されました。ジョージ・ミラー教授によるマジカルナンバー7±2の提唱から約半世紀の時をまたぎ、人間の短期記憶が覚えておける個数は4個前後に修正されます。
このため、マジカルナンバー4±1、簡略化してマジカルナンバー4と呼ばれます。
ネルソン・コーワン教授のマジカルナンバー4±1に関する論文「The magical number 4 in short-term memory: A reconsideration of mental storage capacity」は、ケンブリッジ大学が公開しているネットワーク上に公開されているおり、誰でも閲覧が可能です。
マジカルナンバー4±1は、個数がこれまで考えられていたものよりも少なくなったため、最小値であるマジカルナンバー3として語られる場合もあります。
いずれも情報整理の理論において重要なことに変わりなく、物事の要点をおさえた理解を促進するためのシステムとして活用され始めています。
マジカルナンバーを活用した例やマーケティング施策
マジカルナンバーは、人間の記憶の容量に関して具体的な数値をもって限界を示しています。
マジカルナンバー7±1やマジカルナンバー4±1といったマジカルナンバーにまつわる理論の活用により、人間は短期記憶に関する理解を深め、その応用に近づけるようになりました。
こうしたマジカルナンバーを活用している例は、日常の中にもひそんでいます。
電話番号や郵便番号
身近なものにおけるマジカルナンバーの代表的な例として挙げられるのが、電話番号や郵便番号です。
電話番号は11ケタ程度、郵便番号は7ケタで構成されるランダムな数字の文字列となっています。
数字を一つずつ記憶していた場合、市外局番を抜きにした場合は最小でも7個、そうでなければ11個の記憶容量が必要になります。
過去の理論であるマジカルナンバー7に従ったとしても、11個の情報の記憶は不可能であるといえます。最新の理論であるマジカルナンバー4であれば、短期間であっても記憶に留めておくのはさらに困難というふうにいえるでしょう。
このため、電話番号や郵便番号はチャンク化を実施しています。
郵便番号の場合は○○○-××××と、ハイフンによって二つのグループに分かれています。これは○のグループ、×のグループをそれぞれ一つのチャンクとして理解するための工夫です。これによりマジカルナンバー4の影響下にあっても2つのチャンクで記憶できます。
電話番号も同様です。○○○××××△△△△という11ケタの番号については、○○○-××××-△△△△として三つのグループに分割しています。結果として、記憶の容量で必要なのは3個分となり、短期記憶を実現させています。
メニューはマジカルナンバーを意識して設定
マジカルナンバー4±1は、他の日常の場面においても有効に活用されています。実例として挙げられるのは、飲食業におけるメニューです。
心理学と行動経済学に基づいた実験として、ジャムの法則が知られています。
ジャムの法則は、店舗が多種多様なジャムを売りに出した場合、選択肢が多すぎて顧客が敬遠する傾向にあるのを実験結果によって示したものです。
飲食業のメニューにおいても、何の工夫もなければジャムの法則が適用されてしまいます。
これを避けるため、マジカルナンバー4±1が応用されています。
飲食業のメニューには、シェフのおすすめや季節の限定メニューなどが、他のメニューと差別化されて提示されています。これにより「シェフのおすすめ」や「季節の限定メニュー」というチャンクが作り出されています。
来店客は何を見たらいいのかをチャンクから選択できるので、ばらばらに個別のメニューが提示されるよりも選択によるストレスが生まれません。
マジカルナンバーなど認知の法則をマーケティングに活かす
マジカルナンバーは、人間の短期記憶で覚えられる情報のかたまりの個数を示した概念です。この数字を踏まえて情報を提供することで、消費者の選択、意思決定にかかわるストレスを軽減させることができます。
マジカルナンバーに限らず、人が物事をとらえる際の法則を理解すれば、商品の販売戦略やマーケティングにより効果を発揮するでしょう。
<参照>
Cambridge University Press: A reconsideration of mental storage capacity - The magical number 4 in short-term memory: A reconsideration of mental storage capacity