多くの小売店や飲食店では、代金の割引やポイントの還元が販売戦略の一環として実施されています。そこで問題になるのが戦略として「割引」「ポイント還元にすべきか」どちらを選択すべきかです。
「10%割引」と「10%ポイント還元」では、実際の割引率が異なり、また消費者にとってお得になるタイミングも異なります。そのため、プロモーションの観点から得られる効果は違ったものになります。
今回は、一般的な事業における現金割引とポイント還元の違いについてわかりやすく解説し、それぞれの特徴について詳しく見てみます。
※2021年5月27日追記:PayPayはこれまで決済システム利用料について、無料で店舗にサービスを提供していましたが、2021年10月1日より有料になります。利用料率は8月31日に発表される予定です。
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「10%割引」「10%ポイント還元」違いは?
「10%割引」と「10%ポイント還元」は、一見割引率はどちらも同じように見えます。しかし、この2つは
- 実質割引率が異なる
- 実質割引を受けるタイミングが異なる
という2つのポイントで違いがあります。
たとえば「10,000円の商品の10%割引と10%ポイント還元」について考えてみます。まず実質割引額について考えます。
- 定義
- 実質割引額 = 得した金額 ÷ 得られた価値
- 10,000円の商品が10%割引となる場合
- 消費者は10,000円の商品を1,000円引きで購入し、10,000円分の価値を得る。
- ⇒実質割引率は1,000 ÷ 10,000 = 10%
- 10,000円の商品が10%ポイント還元となる場合
- 消費者は10,000円の商品を10,000円で購入し、更に1,000円の商品を購入する権利を得る。
- つまり、消費者は11,000円分の価値を1,000円引きで購入したことになる。
- ⇒実質割引率は1,000 ÷ 11,000 × 100 = 9.0909...% ≒ 9.1%
以上のようになり、10%ポイント還元とは実質的には9%割引とほぼ同等の割引率となります。
一方タイミングはどうでしょうか。こちらはわかりやすく、割引がその場で実質割引が発生するのに対して、ポイント還元は次回会計時まで実質割引が保留状態になります。
以上のとおりになり、おなじ「10%」であっても、消費者にとっては割引のほうが即時に「お得」になる一方で、店舗にとってはポイント還元のほうがコストを抑えられるだけでなくコスト発生タイミングを先延ばしできるという結論になります。
消費者目線で考えた場合、割引のほうがお得というのはわかりましたが、実際に消費者が「割引かポイント還元か」を選べるケースは少ないでしょう。
そのため、以下で「割引かポイント還元か」を店舗目線で使い分けを考えていきます。
現金割引:販促に有効、手軽さが人気だが…リピーターに繋がらない懸念あり
現金割引は、消費者にとっては支払う金額が少なくなるため、お得感を単純に演出でき、なおかつ実際にお得というプロモーション手法となります。
割引前の価格と割引後の価格を比較することで、割引後のお得さもわかりやすく消費者に伝えられます。一方で、後述のポイント還元と比較して、リピーター化を望みにくい施策でもあります。
そのため、現金割引を実施する際には消費者をリピーターにするための別の販売戦略を同時に実施する必要があるでしょう。
たとえば、価格だけでなく商品や事業そのものの優位性、価値を強調したり、飲食店であれば店内の居心地の良さ、小売店であれば品揃えの良さなどを消費者に伝え、また来店したいと思ってもらう工夫が必要です。
なお、たとえば1,000円の商品を、あたかも元々1,100円だったかのように表示し10%オフとし、見せかけのお得感を演出するのは違法です。割引前の価格での販売実績がないのに割引前価格として架空の高い金額を示すことは、景品表示法違反なるため注意が必要です。
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ポイント還元は現金割引と異なり、消費者は将来その事業者からポイント分の商品やサービスを受ける権利を手にします。
消費者はポイントを消費すべくもう一度来店する可能性が高まり、商品やサービスに満足すればリピーターに変化することも期待できます。
また、人間は自分の持ち物について価値が高いと評価する傾向(保有効果)があります。保有効果はポイントにも適用されることが多く、手持ちのポイントを使わず貯め続ける消費者は実際に数多く存在します。
このことからも、現金割引とは異なり、消費者に還元する(コストとなる)タイミングが先延ばしになるほか、保有効果から付与分が必ず使われる訳ではないことからも、事業者にとっては有利な施策と言えるでしょう。
このように、事業者にとってはリピーターの獲得につながり、消費者にとってはお得感のあるポイント還元ですが、ポイントを付与する際にはポイントカードの発行に伴う会員登録などが必要となります。
消費者の中にはこの手順を面倒に思い、会員登録を辞退する人もいます。このような事態を避けるため会員登録の手順はなるべく簡潔なものとし、登録してもらう情報もポイントの管理と顧客分析に必要な最低限のものに留めておくべきでしょう。
また、登録の際には手続きが何分で終わるのか具体的な時間を示すことで、時間がかかるという印象も拭えます。
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ポイント還元を取り巻く環境
日本で初めてのバーコード式ポイントカードによるポイント還元は、ヨドバシカメラが1989年から提供している「ゴールドポイントカード」だとされています。
その後、磁気式のポイントカードも登場し、現在では大企業を中心にスマートフォンアプリのポイントカードが積極的に採用されています。
今日、多くのスーパーマーケット事業者がポイント制度を導入しており、マイボイスコムが2019年に実施した調査によると49.5%の回答者が「なるべくポイント取扱店を選ぶ」と回答しています。
また、ここ数年はキャッシュレス決済の台頭も著しく、PayPayやLINE Payなどの大手キャッシュレス決済事業者では20%還元や最大全額還元などのキャンペーンを実施し多くのユーザーを獲得しています。
ポイント還元率の平均値・目安は?:スーパーマーケットのポイント還元率は平均0.6%
では、ポイント還元率の目安はどれくらいなのでしょうか?
たとえば、スーパーマーケットのポイント還元率は平均値0.6%、中央値0.5%で、イベント実施時のスーパーマーケットのポイント還元率は平均値3.7%、中央値3.3%となっています。(スーパーマーケット統計調査事務局 2020年調査より)
スーパーマーケットでは、日頃から200円ごとに1ポイント加算といったポイント還元を実施している事業者が多く存在します。
さらに月に1回程度、「ポイント還元デー」のようにポイント還元率の高い日を設定している店舗も中には見られます。
このように、特定の日にポイント還元率を高めることで顧客にお得感を与えられるほか、処分したい在庫をその日に表に出せば、顧客に購入してもらえる確率が高まります。
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キャッシュレス決済では最大全額還元キャンペーンも
日本では2000年代より、キャッシュレス決済としてFeliCa技術を用いたSuicaなどの交通系ICカードが普及していました。
さらに、一部のコンビニやスーパーマーケットでは同じくFeliCa技術を用いたEdyによるキャッシュレス決済に早くから対応していました。
しかし、2010年代の中国においてQRコード決済が普及したことを受け、日本でも2016年頃から楽天ペイ、LINE Pay、PayPayなどが次々とキャッシュレス決済サービスを提供し始めました。
各社はユーザー獲得のため、今日に至るまで大規模なポイント還元サービスを度々実施しています。
中でもPayPayは最大で支払金額の全額をポイント還元する「PayPay感謝デー」などを実施し、注目を集めています。
PayPay、シェア率55%で「Pay戦争」一人勝ちに:LINE統合で60%シェアのモンスターQRコード決済サービスへ
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政府もキャッシュレス決済とマイナンバーカードを普及させるべく、2020年9月から2021年3月までの期間限定で「マイナポイント」の付与を実施しています。
このキャンペーンは、期間中にマイナンバーカードの所持者が事前に指定したキャッシュレス決済サービスに現金をチャージすることで、チャージ金額の25%相当のポイントを最大5,000円相当分まで獲得できるというものです。
ポイントはキャッシュレス決済のアカウントに付与され、以降の決済時に使用できます。
このように、キャッシュレス決済サービスではさまざまなポイント還元が実施されており、消費者が現金決済ではなくキャッシュレス決済を選ぶ理由のひとつとなっています。
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マイナンバーカードの保有率アップや消費増税の影響による消費の落ち込みの緩和、キャッシュレス決済の普及などを目的として「マイナポイント事業」が2020年9月から開始されます。本記事では、マイナポイント事業の概要と合わせて、詳しい申し込み方法やお得な活用方法を紹介します。※2021年5月27日追記:PayPayはこれまで決済システム利用料について、無料で店舗にサービスを提供していましたが、2021年10月1日より有料になります。利用料率は8月31日に発表される予定です。目次マイナポイントとは?...
現金割引とポイント還元を使い分けて効果の高い販売戦略を
現金割引は事業者にとって手軽かつ消費者にとっても得ですが、リピーターの獲得につながりにくいという欠点があります。
また、ポイント還元は事業者にとって得かつリピーターが期待でき、消費者にとってもお得感を得られますが、手続きが煩雑という欠点があります。
たとえば、スーパーマーケットチェーンのイオンではこの両者を組み合わせた「お客様感謝デー」を実施しており、毎月20日と30日はポイントカードの所持者に限り一部商品を5%割引価格で提供しています。
このように、両者にはそれぞれ利点と欠点があり、事業の客層、商品やサービス、今後の事業展開計画によって適切なものを採用すべきだといえます。
両者を上手く使い分けて、消費者にお得感を持ってもらいつつリピーターになってもらえる店舗を目指すとよいでしょう。
<参照資料>
スーパーマーケット統計調査事務局:ポイントカード還元率
PR TIMES:【ポイントサービスに関するアンケート調査】
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本記事では、主に2024年9月・10月の情報をまとめたレポートのダイジェストをお届けします。
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