アンカリング効果とは、最初に提示される条件や数字を基準に、人が無意識に判断をしてしまう現象です。
日々消費者は様々な選択肢から購買の意思決定を行います。その際に、意思決定の指標となる1つが価格です。価格を下げることは消費者にとって嬉しい一方で、売り手側には場合によって得られるはずの利益が少なくなってしまうなど価格設定は慎重に行う必要があります。
この記事では価格と密接に結びつく「アンカリング効果」を活用したマーケティングについて解説していきます。店舗のメニュー表や店舗内装への「アンカリング効果」を導入することで効果的に売り上げを伸ばす方法を紹介します。
アンカリング効果とは
第一印象が与える影響力の大きさは、無視することができません。行動経済学の分野では、この第一印象の重要性を「アンカリング効果」として扱っています。
アンカリング効果とは、最初に与えられた印象が、その後の場面で大きな影響を与えるというものです。
つまり、最初にポジティブな印象や好意的な印象がある場合は、その後もその印象が基準になり、一方でネガティブな印象を受けた場合、それが後に影響を与えるということになります。
アンカリング効果の語源
アンカリング効果は、プロスペクト理論を提唱した心理学者のダニエル・カールマンとエイモスとベルスキーの論文で発表された理論です。
この効果の名前は、船のアンカー(いかり)を下ろすことで船が固定されるように、価値観や印象も最初の第一印象で固定化されてしまうことを言い表しています。
アンカリング効果の実験例
ノーベル経済学賞を受賞したダニエルカーネマン教授のルーレットを活用したアンカリング効果の実験を紹介します。
被験者は0から100までの数字が表示されたルーレットを回していきます。ただ、この数字は10か65にしか止まらない小細工がされています。そして、10が出た被験者と65が出た被験者にグループを分け、以下の質問をします。
- 国連加盟国のうちアフリカ諸国が占める割合は、今記録した数字よりも大きいか、小さいか。
- 国連加盟国のうちアフリカ諸国が占める割合は何%だと思うか。
この実験の結果として、10のグループは平均25%前後の推定を行い、一方65のグループは平均45%前後の推定を行いました。
この結果からわかるように、アンカリング効果とは、本来推定には無関係であるはずのアンカー(ここではルーレットで出た数字)が後続の数量推定に影響を及ぼしていることがわかります。
アンカリング効果をメニュー表示で使う
アンカリング効果を活用することで、飲食店の売上増加に活かせることができます。
ポイントはメニューの見せ方にあり、ここでは2つの具体例に沿って紹介していきます。
具体例1. メニューを掲載する順番
飲食店のメニューのデザインでも、アンカリング効果が活用できます。
たとえば安価なメニューを好む顧客が多いのであれば、価格の高い料理をメニューの上に表示させ、下になるにつれて価格が安くなるように記載します。
一番上の料理の価格がアンカー役となり、それに比べて相対的に値段が下がる下の料理にお得感が生まれ、注文が入りやすくなります。
具体例2. お得感で消費単価の上昇を狙う
同様にコストパフォーマンスを重視する人がメインの顧客層である場合、200グラム3,000円のステーキと200グラム1,500円のハンバーグを提供するレストランに入った場合、後者を選ぶ人が多くなると考えられます。
しかし、そこに300グラム3,000円のステーキ(期間限定増量中)という選択肢があった場合、この注文を選択する人は増えます。レストランにとっては、顧客一人あたりの消費単価アップが期待できます。
グラム数が増えたのに同じ価格であれば、このメニューが非常にお得に感じることができます。
ポイントは、選択肢を増やすことによって、他の選択肢と比較して相対的に安いというお得感を生むことです。2つのメニューだけでは高くて選択していなかったはずの3,000円のステーキが、メニューが3種類になると相対的に安くなり選ばれます。
近畿大学水産研究所 銀座店の事例
近畿大学の養殖所から出荷された水産物を扱う海鮮料理店の「近畿大学水産研究所 銀座店」では、メニューにアンカリング効果を活用しています。
同店舗では、「☆2時間飲み放題付☆近大季節会席~耕~【梅】」(6,500円)、「☆2時間飲み放題付☆近大季節会席~耕~【竹】」(同8,500円)、「☆2時間飲み放題付☆近大季節会席~耕~【松】」(同10,500円)の3つの価格帯の会席を用意しています。
同社のメニューを見た時、10,500円の「☆2時間飲み放題付☆近大季節会席~耕~【松】」がアンカー役となります。
そして、6,500円とこの中で1番安い「梅」に価格上の訴求力がある中、それよりは上質なものを食べたいと考える顧客により8,500円の「竹」が選ばれます。
実はこうした場合、多くのケースで「竹」にあたるものを選択する顧客がもっとも多くなります。これは、「松竹梅の法則」とも言われ、売りたい商品を価格が高い商品と低い消費で挟むことで、真ん中の商品を際立たせるという効果があります。
アンカリング効果を店舗の内装に応用した例
アンカリング効果はメニュー表だけでなく、店舗の内装にも活かすことができます。スターバックスの実例を参考にしながら、解説していきます。
店舗の内装
内装に活かせるアンカリング効果として、内装を豪華に魅せるというテクニックがあります。内装を豪華にすることで、来店した客は「このお店は高級店舗なんだ」という認識を最初に持ちます。
そして、その後に提示されたメニュー表が価格の高い商品やメニューであっても、最初の印象で高級店とアンカリングされているため、驚くことは少なくなります。つまり、「ここのお店は高級店だから、この価格が適性である」と納得して購入してくれる方が多くなります。
スターバックスの事例
競合がひしめくコーヒーショップで成功を収めたスターバックスもまた同様にアンカリング効果を店舗内装に最大限活用している会社です。
スターバックスの価値は、価格の安さやコーヒーの美味しさだけではなく、スタイリッシュさを感じる店内の内装と、そこで過ごす時間です。顧客から、他のコーヒーショップがスターバックスの代わりにはならないと認識されることで、相対的に高い価格でも多店舗と比較されることがありません。
それどころか、内装の印象が判断基準として機能し、顧客は、他のカフェーチェーン店では高く感じるような価格設定であってもそれが妥当であると感じるようになります。
二重価格表示に注意
アンカリング効果を活用することは重要なマーケティング手法の1つになりますが、二重価格表示には注意が必要です。二重価格表示法という法律では、不当な価格を元の価格として表示することを禁じられています。
消費者庁のガイドラインには、二重価格表示の比較対照に過去の販売価格や希望小売価格、競合店の販売価格やカタログに記載があること求められています。また、元値での販売の実態があることなどが求められます。
過去には摘発された事例もありますので、消費者庁のガイドラインに従った上で、活用していくことが重要です。
レストランでアンカリング効果を活用できるのは価格だけではない
行動経済学の知識は、日々のマーケティング業務に活かせる場面が多々あります。今回紹介した「アンカリング効果」は数字や情報という注意すべき対象が明確であることから、レストランでのサービス提供の現場でも取り入れやすいでしょう。
ただし、実態のない数字を比較対象にすることは、店舗の評判を落とすだけでなく、法律違反になってしまう場合もあります。アンカリング効果を使う際には価格表示法などに違反がないように、ガイドラインを参照したり、適度に活用していくことが大切です。
また価格といった客観的情報だけでなく、内装が顧客に与える印象も、顧客の無意識に作用します。顧客目線で、レストランの外観、内装、メニューがどのように見えているのか、アンカリング効果の視点から検証してみれば、収益アップの策がみつかるかもしれません。
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