コロナ禍では、各業種で大きなダメージを受けており、様々な専門店を持つ百貨店も苦境に立たされています。
実は百貨店業界では、コロナの影響を受ける前から集客の課題に面しており、とくに地方では顕著でした。たとえば2020年1月、山形県の老舗百貨店である大沼が破産したのに続き、徳島県では今年8月、「そごう徳島店」が閉店しています。これにより百貨店のない都道府県は2県に上っています。
若者からは「敷居が高い」と感じられてしまったり、中高年にとっては利用用途が減ったりという事情も背景にあるようです。
こうした中で百貨店は新しい価値を提供しようと取り組んでいます。今回は地方地場系と大手に分けて、百貨店の取り組みについて紹介します。
【地場独立系】地元名産品で魅力づくり
地方には地場独立系の百貨店が存在します。こうした百貨店でも、コロナ禍の影響で複数の大手テナントが一気に撤退した例も少なくありません。客足回復の見込みが立たぬ中、同じ業種で空きテナントを埋めることが難しい状況が生まれています。
東京商工リサーチの「全国主要百貨店」業績調査 2019年度決算では、大手百貨店と電鉄系を覗いた地場独立系百貨店31社の損益合計は2期連続赤字であったことを伝えています。赤字企業は約半数であり、経営の厳しさがうかがえます。
以下では、こうした状況を打破すべく取り組む地方の百貨店の3つの事例について紹介します。
<参照>
「全国主要百貨店」業績調査 2019年度決算(2019年4月期-2020年3月期) : 東京商工リサーチ
1. 天満屋福山店/地元名産品を3D空間で販売
広島県福山市にある百貨店、天満屋福山店の店内には、市内工場で製造された福山デニムを使った衣料品や雑貨が並んでいます。
同百貨店ではオンラインショップの「FUKUYAMA MONO SHOP」を展開しており、通常の販売サイトにくわえ、3Dの店舗空間も用意しています。
3Dの店舗は店内を移動でき、陳列されている商品のうち、販売中のアイコンがあるものは、クリックして購入ページに飛ぶことができます。
商品の詳細を解説する動画が添付されているものもあり、通常のECサイトを閲覧するのとは一味違った体験ができます。
2. トキハ別府店/市内の事業者やクリエイター
大分県別府市の百貨店「トキハ別府店」では、地元商品の売り出しに注力しています。
2021年3月に市内のインテリア雑貨店による苔玉専門店「太新」がオープンしました。また5月には、地元在住の複数のハンドメイド作家によるアクセサリー・雑貨ショップ「リミテッドサーカス」をオープンしており、地元にちなんだ店舗を次々と開店させました。
トキハ別府店は、2019年9月に「地元産」にこだわった売場を開設するリニューアルを実施しています。
地元への愛着を持つ層に価値を感じてもらったり、これを通じて地元の産業を伝える機会になると考えられます。
3. 水戸京成百貨店/地元工芸品の販売を常設
茨城県水戸市の、県内唯一の百貨店である水戸京成百では、21年8月、茨城の笠間焼や結城紬(つむぎ)などの工芸品をそろえたショップ「IBARAKI craft(イバラキ・クラフト)」をオープンしました。店内には7市町の8企業や団体の工芸品が集まっています。
県内在住の作家や職人の手で作られた、食器やアクセサリーは、桐下駄、ちょうちん、インテリアひな人形など、さまざまな工芸品が並んでいます。長くなる在宅時間に心理的充足感を与える存在として、工芸品への関心が高まることも期待できます。
工芸品は従前からインバウンド市場でも注目のアイテムであり、市場復活の際の足がかりにもなるでしょう。
<参照>
ジェトロの伝統工芸品輸出支援 21年度は群馬から10社: 日本経済新聞
【大手百貨店】オンライン接客や決済フロー、品揃えに工夫
都市圏の百貨店では、オンライン接客を行なっています。
現在、新型コロナウイルスの影響で、外出自粛が求められており、百貨店にも入場人数の制限が要請されています。そんな中、オンライン接客を行うことで、顧客は実際に店舗を訪れたような買い物体験ができ、納得して商品を選べます。
以下では、大手百貨店におけるオンライン接客の取り組み事例を解説します。
1. 阪急百貨店/商品を実際に送るオンライン接客、月間売上1億円
阪急百貨店におけるオンライン接客は、顧客に実際の商品を送り、オンラインで説明を加え、魅力を伝えることに成功しています。
百貨店側のオンライン接客のメリットは、顧客の要望に沿った商品や新作の案内を、店内を移動する時間を生じさせずに完結できる点にあります。より短い時間で、さまざまな提案ができます。
オンライン接客は「お店にいるような買い物体験」「空いた時間に利用できて便利」と顧客にも評価されており、売上は月1億を記録しています。
こうした接客方式は、三越でも採用されており、販売員やバイヤーらが、顧客とアプリ上で直接やり取りできる仕組みを構築しています。
<参照>
阪急阪神百貨店GM、オンライン販売で月1億円 商品を送ってじっくり説明|NIKKEI STYLE
[挑む 新トップ 2021]デジタル駆使 基盤固め…岩田屋三越 伊倉秀彦社長 57 : ニュース : 九州発 : 地域 : 読売新聞オンライン
2. ルミネ/消費単価が30,000円に。オンライン接客から購入への導線、ストレスなく
ルミネでは、ZoomやLINEのビデオ通話機能を活用して、スタッフがオンラインで接客し、新商品の紹介やコーディネートの提案をしています。この接客方式では、決済をブランドのECサイトに誘導するしかないことがネックでした。
こうした状況を受け、ルミネは2020年12月より「ルミネカードWEB決済サービス」の提供を開始しました。ルミネカードでの支払いであれば、店舗と同様の割引優待が受けられます。
このサービスでは、決済のURLを顧客に送信し、遷移先のページでクレジットカード、コンビニ、銀行(Pay-easy)のいずれかから決済をしてもらいます。
サービスを開始してから2021年3月までに合計1,200回以上、同サービスでの決済が行われており、さらには顧客の消費単価も向上しています。実店舗での平均単価が25,000円であったところ、30,000円にまで上昇しているそうです。
<参照>
ルミネ、オンライン接客にメールリンク決済導入 テナントのアパレルブランドのEC化に貢献 | TECH+
ルミネカードWEB決済サービス | おうちでお得にショッピング
3. 高島屋/百貨店ECとしての価値を高め、売上500億を目指す
高島屋は今期から、3か年の中期経営計画を開始しました。20年度に前期比60.0%増の297億円だったEC売上高は、最終年度となる23年度には500億円まで引き上げる計画を立てています。
高島屋は2021年8月、ECサイト「高島屋オンラインストア」をリニューアルしました。サイト訪問者の7割がスマートフォン経由であることを受け、スマホでの視認性や操作性を向上させています。
写真入りのオリジナルメッセージカードを作成できる機能、購入者の投稿する商品レビューをレーダーチャートで確認できる機能など、買い物をより便利に楽しくできる各機能もあり、オンラインでの室の高い購入体験に注力していることがわかります。
<参照>
高島屋の2023年度にEC売上500億円をめざすデジタル化&中期経営計画 | ネットショップ担当者フォーラム
4. 東武百貨店/家電フロアでイエナカ需要を満たす
東武百貨店は、池袋の本店に家電専門店「ノジマ」を2021年8月下旬にオープンします。冷蔵庫、テレビ、洗濯機をはじめとするあらゆる家電を取り揃えるほか、ノジマ自社スタッフの専門知識を活かしたコンサルティング販売が受けられます。
ノジマのオープンするフロアは、4階婦人服であり、ファッションビルのルミネとも直結する階層です。
元々は婦人服ブランドを集めたフロアでしたが、昨年春以降は、その半分が催事場として活用されていました。池袋は家電専門店の激戦区ですが、駅直結の利便性や、店舗独自の品ぞろえで勝負していくということです。
<参照>
池袋東武に家電の「ノジマ」 イエナカ需要に応える | WWDJAPAN
5. 松屋銀座/客単価約7,000円、レストランの料理をデリバリー
松屋銀座は、21年7月から、レストランやデパ地下の商品をバイク便で届ける「グルメお届け便」を開始しました。このサービスは、新型コロナウイルスの影響などによる中食需要の増加を見込んで展開されました。
現在は東京の中央区全域、江東区、港区、千代田区の一部でサービスが利用可能です。詳細は松屋銀座のWebサイトで案内しており、8月末までは送料半額サービスも行われています。
サービス開始前の6月から先行展開された浅草店では、週約30件の受注があり、客単価は約7,000円でリピート率も高いなど好調です。松屋銀座は、町会や地元企業にアプローチを続けよりサービスを発展させていくとしています。
<参照>
百貨店の味をバイク便で 高まる中食需要へ新サービス 松屋銀座 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
顧客体験を向上できるDX、ニーズ読み解く姿勢がカギ
地場独立系の百貨店では、地元の名産品や、土地にゆかりのある事業者や人物をフックにした取り組みにより、需要の喚起をはかっています。
また大手百貨店に見られたECの展開オンライン接客など、DXを取り入れることで、顧客にとっては利便性が高まるなどのメリットがあります。また、百貨店にとっても、取得した顧客の行動データから再現性高く施策に取り組めるメリットがあります。
ただしデジタルのツールは、あくまで顧客の満足度を高めるひとつの手段にすぎません。また、コロナ禍にあっては、外出や営業時間の制限があり、オンライン化が避けられない状況でもあります。
こうした中で、「店員による接客」など、顧客が価値を見出している要素をいかに販売方式に落とし込めるかが工夫のしどころとなります。
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