感染者が急増した新型コロナウイルスの影響により多くの飲食店が休業を余儀なくされる中、行政からの経済的支援を受けられない個人経営者も存在しています。
この記事では、はじめに社会保険の基礎や仕組みを俯瞰的に紹介します。さらに飲食店の個人経営者が従業員に休業手当を出すにはどうすればいいのか、各種社会保険に加入する事業主側・従業員側それぞれのメリット・デメリットは何なのかといった点についても解説しています。
社会保険とは
社会保険とは、国が公費を負担して、疾病や高齢、介護や失業、労働災害などのリスクに備えるための制度です。保険の加入者や勤務先が保険料を納めます。
ここでは社会保険全体について整理し、その仕組みについて解説します。
そもそも社会保険とは
社会保険とは「医療保険」「年金保険」「健康保険・介護保険」「雇用保険」「労災保険(労働者災害補償保険)」の総称です。
入社時に強制加入となる「医療保険」「年金保険」「介護保険」の3つは「狭義の社会保険」といわれます。
残り2つの「雇用保険」「労災保険」を加えて「広義の社会保険」といわれます。
雇用身分にかかわらず、正社員の勤務時間の4分の3以上働いている従業員は社会保険の加入対象となります。
雇用保険とは?
新型コロナウイルスの影響で休業を余儀なくされる小売店が多い中、失業者の支援の役割を担う雇用保険に注目が集まっています。
雇用保険は従業員の雇用安定と促進のために存在しています。ハローワークより失業中に給付される「失業手当」が代表例です。
一定の条件を満たした上で、雇用保険加入期間が1年ないし半年あれば受給可能です。
失業手当の受給中は労働に制限がかかるものの、一定額の収入は再就職のための費用として活用できます。
個人で飲食店を経営する人が社会保険に入るメリット・デメリット
この項目では、各々の社会保険に加入するメリットとデメリットについて、主に事業主側の視点から解説しています。
従業員側のメリット・デメリットについても取り上げます。
労災保険に入るメリット・デメリット
労災保険では従業員が業務中に怪我や病気を負った場合、医療費などが補償されます。業務中の怪我や病気には健康保険が適用されないため、労災保険を使えないと全額自己負担になるなどの問題が発生します。
この場合、事業主が労災対応をしない場合には、従業員から損害賠償を請求されるトラブルが生じる恐れもあります。こうしたトラブルを防げる点は労災保険の大きなメリットの一つです。
また、助成金を受給できるというメリットもあります。従業員が労災保険に加入していると、事業主は「雇用調整助成金」「特定求職者雇用開発助成金」などを申請し受け取ることができます。
前者は休業期間中の従業員への支払いを助成するものですが、新型コロナウイルスの流行により特例措置が施されています。後者は高年齢者や障害者等の就職困難者を、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対するものです。
基本的に事業主は労災保険加入できませんが、中小企業の場合には「特別加入制度」を利用することで事業主も労災保険に加入でき、労災時に補償が受けられます。
労災保険加入のデメリットは、労災保険料が全額事業主負担となるため、事業主側の金銭的な負担が増大する点です。
雇用保険に入るメリット・デメリット
雇用保険は保険料を被保険者と事業所で折半しているので、従業員の費用負担は少ないものの、給与の手取り額が減少します。
事業主にとっては、雇用保険の加入者に増減があった場合、都度手続きをする必要があり、事務作業に時間を取られるというデメリットもあります。
健康保険・介護保険に入るメリット・デメリット
健康保険や介護保険に加入すると、被保険者やその扶養家族の業務外の怪我や病気に対して、医療費や介護費の給付が受けられます。
保険料は従業員と事業主で折半します。加入することで従業員は医療面でさまざまなメリットを得られます。
法人の場合には、社長や役員も全員これらの保険に加入できるため、事業主もさまざまな給付を受けられる点がメリットといえます。
2017年4月から社会保険の加入対象の幅が広がったため、短時間労働者も加入する場合が多くなりました。
事業主はこのような補償を充実させることで、優秀な人材を獲得、他社への流出を防ぎ、従業員の志気を向上させられる可能性が高くなります。
デメリットとしては、事業主は従業員の健康保険・介護保険の半額を負担するため経費が増大すること、保険加入時の事務作業が増大することなどです。
健康保険および介護保険は従業員の給与から保険料が天引きされているため、従業員にとっては手取り額が下がることになります。
従業員の社会保険制度に対する理解が浅い場合には不満感にもつながりかねないので、理由や保険の内容について正確な説明をする必要があります。
個人事業主の場合は、事業主が社会保険に加入したくてもできない場合があります。
厚生年金保険に入るメリット・デメリット
厚生年金保険に加入すると、保険料は従業員と事業者で折半となります。
被保険者は国民年金よりも将来受給できる年金額が大きくなります。障害年金や遺族年金の受給額も同様です。こうした点は、従業員には大きなメリットといえます。
健康保険・介護保険と同様、法人の場合には社長や役員でも加入できる場合があるため、老後の安定的な年金収入が期待できます。
健康保険・介護保険と同様、社会保障が充実している企業には優秀な人材が集まりやすくなる点も、事業者にとってはメリットといえるでしょう。
デメリットとしては、健康保険・介護保険と似たものになります。事業主の費用負担や事務作業が増大し、個人事業の場合に事業主が加入できない場合があることが問題とされます。
飲食店の社会保険
飲食店には原則として社会保険加入の義務がないため、加入や補償の仕組みがやや煩雑になっています。ここでは社会保険に加入している場合としていない場合について解説します。
飲食店の社会保険の加入義務:法人か個人事業主か
法人登記のうえで飲食店を開業した法人事業主の場合には、従業員が一人もいなくとも社会保険加入が必須です。
個人事業主として飲食店を開業した場合は、従業員が何人いるとしても社会保険加入は任意です。飲食店は社会保険加入義務のある法定業務とみなされていないことが理由です。
とはいえ、優秀で志気の高い人材の確保と定着のためには社会保険の充実がポイントの1つとなることは間違いないでしょう。
対象拡大したものの、雇用保険加入の前提は変わらず
新型コロナウイルスの影響により経済的損害を被る事業主が急増しました。そのため政府は「雇用調整助成金」の特例を拡充しています。
この助成金を受給する条件および内容は複雑なものになっています。
休業の初日はいつか、特に従業員の解雇や雇い止めをしていないかという点がポイントです。基本的には従業員の雇用維持または教育訓練に努めている企業への助成金だと考えられます。
この雇用調整助成金は適用条件が緩和されたため、新規に該当する事業所も増加すると考えられますが、雇用保険加入の前提条件には変わりがありません。
こうした予期せぬ事態への備えとして、各種の社会保険が用意されています。
倒産を回避するために
コロナ禍において飲食店ができることの具体例としては、デリバリーやテイクアウトサービスを始めることがあります。
「食品営業許可」「飲食店営業許可」を取っている既存の飲食店がデリバリー・テイクアウトを開始する場合には、新たに許可申請をする必要はありません。
しかし、既存の調理場以外で調理したものをデリバリー・テイクアウト商品として提供する場合や、新しく専門店を立ち上げて商品を提供する場合には、別途保健所への申請や手続きが必要となります。
また、たとえば既存のカフェが新たにコーヒーをテイクアウト商品として提供する場合などは、個別具体例によって判断が分かれるため、保健所へ確認を取るべきでしょう。
保健所からの新たな検査には営業者または食品衛生責任者の立ち合いが必要です。申請の際にはこうした人材を確保しておかなければなりません。
コロナ禍をしのぐためには、こうしたサービスの開始を検討することも1つの手段です。
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飲食店が社会保険に加入する重要性
新型コロナウイルスの影響により多くの小売店が休業せざるを得ない状況下で、多くの事業主が苦境に立たされています。
しかし、社会保険に加入しておくと、休業補償や特例給付金など、複数の補償が用意されているのです。
先述の通り飲食店に社会保険への加入義務はありませんが、コロナ禍やその他の災害のように不測かつ深刻な事態の損害を被った場合、社会保険は事業主のみならず従業員とその家族に至るまで生活を補償してくれます。
世界恐慌以来の世界的大不況といわれる中、個人事業主にできることは限られています。また日本は震災や水害など、災害大国ともいわれています。事業と自らの生活、また従業員の行方を慎重に考慮するのであれば、普段から社会保険に加入しておくほうがいいことは間違いありません。
ただし、保険で賄いきれない損失もあります。新たな事業モデルの考案や採用を通じて、売上を確保していく必要があるといえるでしょう。
デリバリー・テイクアウト・通販の開始など、感染リスクを回避する消費者心理に寄り添った、新たなサービスに今後のビジネスチャンスがあるはずです。
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<参照>
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