例年夏休みやお盆などで消費活動が活発となる8月ですが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、9月30日まで緊急事態宣言の延長が決定されました。
そのなかで、小売業界では非接触や非対面でのサービス導入や宅配事業の拡大など、長引くコロナ禍での需要に対応するためさまざまな対応を行っています。
本記事では、8月の小売業界の動向についてまとめます。
コンビニ・スーパー/宅配需要を見込んで宅配事業を拡大へ
8月のコンビニ各社は緊急事態宣言の延長や記録的な大雨などの影響もあって、全社で売上高が前年同月比減となりました。一方で、外出自粛や悪天候から1つの店舗で買い物を済ませるワンストップショッピングの傾向が強まり、その結果、客単価は前年同月比4.5〜5.0%の増加となっています。
また、コンビニや食品スーパーでは、コロナ禍や高齢化による日用品や食品の宅配需要の高まりから、ネットや電話で注文を受け付けて個人宅へ配送する宅配事業拡大の動きが見られました。
セブンイレブン/宅配を全国2万店舗に拡大
セブン&アイ・ホールディングスは、運営するコンビニ大手セブンイレブンのネット宅配事業を、2025年をめどに全国2万店舗に拡大することを8月23日発表しました。
セブンイレブンのネット宅配は現在、北海道、東京、広島で約550店舗に導入されており、店舗から半径500メートルの範囲で税抜き1,000円以上の注文を専用サイトから受け付けています。
全国のセブンイレブンに宅配事業を導入することで、新型コロナウイルスの感染拡大によって高まった宅配需要を取り込む狙いです。
また、宅配を導入しているコンビニには他にもローソンがあり、ウーバーイーツを利用した宅配を32都道府県で約2,000店舗に導入しています。
ヨークベニマル/「電話で宅配」宅配事業強化
福島県を中心に東北や北関東に展開する食品スーパーのヨークベニマルは、試験的に導入していた個人宅への配送サービスを拡大していくことを発表しました。ヨークベニマルの宅配サービスは、2018年に福島県で高齢化が進んでいる山間部の南会津町と、旧市街地の郡山市で試験的にサービスを開始し、2021年2月期では5店舗で実施されてきました。
買い物困難者の高齢者と共働き家庭などの利用が増えたことから、宅配サービスの黒字化のめどがたったとして2022年2月期には10店舗へと拡大し、その後も事業を拡大する見込みとしています。
家電量販店
8月の家電量販店ではスマートフォンの売り上げが堅調なほかは、家電商品は巣ごもり需要がひと段落したこともあり、低調となっている様子が見られます。このようななか大手家電量販店2社では、顧客に対して安心・安全が感じられる店舗空間と円滑な買い物のサポートを提供し、来店してくれる顧客の満足度を高めるための動きが見られました。
ノジマ/従業員にワクチン接種済みシール
家電販売大手のノジマは8月3日より順次、新型コロナウイルスのワクチンを2回接種した従業員へ「ワクチン接種済みシール」を配布し、接客をする販売員を中心に任意で名札などへの着用を開始すると発表しました。長期化するコロナ禍において、接客スタッフがワクチン接種済みシールを身につけることで、来店客に対して安心感を持って来店してもらい、収益回復につなげる狙いです。
また、あくまでもワクチンを接種するかどうかや、接種後に接種済みシールを身につけるかどうかは従業員の意向しだいとしており、強制されるものではないとしています。
<参照>ワクチン接収推奨に慎重 希望しない社員に配慮:時事ドットコム
エディオン/事前予約サービス開始
家電販売大手のエディオンでは、家電のまとめ買いやリフォームを検討している顧客向けに、相談や見積もり、接客などのサービスをスムーズに受けられるように事前に予約ができる「エディオンのeスマート予約」サービスの提供を8月30日より開始しました。
まずは「エディオン」と「100満ボルト」の計135店舗で導入となり、その後対象を全店舗へと広げていく予定です。
予約はスマートフォンやパソコンから24時間可能で、接客希望日の2週間前から前日の23時59分まで受け付けています。
事前に接客を予約することで、店頭での待ち時間を減らし、顧客の円滑な買い物をサポートする狙いです。
小売DX
8月に見られた小売業態でのDX(デジタルトランスフォーメーション:Digital Transformation)への取り組みについて紹介します。サイバーエージェントとNTT Com提携/AIを利用した小売DX支援
AmebaブログやABEMAを運営するサイバーエージェントとNTTコミュニケーションズは、小売業のDX推進にむけて業務提携することを8月26日に発表しました。両社の強みを生かして購買履歴などの各種データをAI活用して分析し、顧客に最適な広告を配信できる次世代スマート広告プラットフォームなどのソリューション提供を目指します。
また、小売業の各社アプリや店頭デジタルサイネージを活用した新たな広告事業の確立も計画しており、広告収入が得られる新たなビジネスモデルの創出にも取り組むとのことです。
<参照>サイバーエージェント/NTT Comと小売DX支援で業務提携:流通ニュース
ダイエー/「ウォークスルー店舗」開店
イオングループのダイエーとNTTデータは8月30日に、レジを必要としないウォークスルー店舗「CATCH&GO」をNTTデータ社内に9月2日からオープンすることを発表しました。店舗ではNTTデータの「Catch&Goサービス」が活用され、店舗に設置されたカメラと商品棚のセンサーによって商品を探知し、利用客は専用のアプリで入場後、商品を手に取って店舗から出るだけで買い物ができます。
料金は登録されているクレジットカードから自動で引き落とされるので、レジに並ぶ手間と時間が削減され、また、コロナ禍で求められる非対面、非接触での買い物が実現できます。
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国内最大のウォークスルー店舗「CATCH&GO」開業
LINEで読み取り、店舗会計を完了
LINEは小売業のDX推進の1つとして、利用者がスマートフォンで商品を撮影してその場で会計も済ませられる「スマホレジ」のサービスを、スイスのIT企業スキャンディットの日本法人と協力して提供を開始しました。導入店はLINEに開設した公式アカウントなどを通じてスマホレジの機能を利用者に提供でき、レジに並ばずにLINE内でクーポンなどのお得情報の取得や会員証提示、会計までを完結させることができます。
オンライン接客/VR活用
コロナ禍における非接触、非対面の需要に対して小売業のVR活用が注目されています。企業の営業や販売活動を支援するビーモーションは、VR空間でリモート接客ができる新しいサービスの提供を開始しました。
3Dカメラの「Matterport」を提供するハートコアと、リモート接客システムの「Remosis」を提供するNextremerとコラボすることで実現したこのサービスでは、ネット上で入店した利用者が自由にVR空間を移動して店内を見ることができ、必要な時にリモート接客やチャットボットで説明や案内を利用できます。
また、イトーヨーカドー木場店では、店舗DX事業のピアズとアバター接客システム「xR Cast Holophone」を提供するkiwamiが協力してオンラインを活用した接客のトライアルを8月10日より開始しています。
<参照>イトーヨーカドー木場店でのオンラインを活用した接客トライアルの実施:PRTIMES
バーチャルタレントの接客
アパレルブランドのSPINNSでは、バーチャルタレントが自身とのコラボグッズの販売をバーチャル接客するイベントが8月10日に開催されました。
イベントではSPINNSとコラボした8名のバーチャルタレントが30分ごとに、特設コーナーに設置されたディスプレイに登場しました。
訪れたファンや通りがかった来店者に手を振ったり声をかけたりして接客販売を行い、イベントは大成功したとのことです。
<参照>アパレルショップで8名のバーチャルタレントが接客イベントを開催:PRTIMES
8月に発表された小売業関連のデータ紹介
東京では7月12日から緊急事態宣言となり、その後も感染拡大が続いたことから現時点では9月30日まで期間が延長されています。小売業界にとって感染拡大と緊急事態宣言の影響は大きく、まだ苦しい状態が引き続いていく見込みです。
ここでは、各業態の7月の売り上げデータと、8月に発表された小売業関連のデータを紹介します。
各業態 7月の売上動向
:チェーンストアでの総販売額は1兆1,362億円、前年同月比5.1%増
:コンビニエンスストアにおける既存店ベースの売上高は9,232億1,600万円、前年同月比5.1 %増
:スーパーマーケットにおける総売上高は9,864億1,470万円、既存店前年同期比0.5%減
:ショッピングセンターの売上高は4,611億9,704万円で前年同月比1.1%増、2019年同月比16.3%減
:全国の百貨店の売上総額は約4,020億円、前年同月比4.2%増
:ホームセンターの売上高は2,941億円で前年同月比2.4%減
:ドラッグストアの売上高は6,339億円で前年同月比2.2%増
:家電大型専門店では4,422億円で前年同月比2.9%減
博報堂生活総研「来月の消費予報・9月」を発表(消費意欲指数)
博報堂のシンクタンクである博報堂生活総合研究所は8月26日、「来月の消費予報・2021年9月」を発表しました。その結果によると9月の消費意欲指数は45.6点で、前月比3.3ポイント減、前年比は1.2ポイント減とともに減少となりました。
夏休みだった先月の反動で消費意欲指数は減少し、特にカテゴリー別消費意欲では「旅行」と「レジャー」が前月比で20人以上減少しています。
一方で、前年比では「食品」「飲料」「外食」「ファッション」「旅行」「レジャー」「理美容」「化粧品」「書籍・エンタメ」と、16個中9個のカテゴリーで20人以上の増加が見られています。
消費や外出などに対して慎重になっていたコロナ禍1年目の前年に比べて、2021年はソトに向けた消費意欲が高まっていると見られます。
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