新型コロナウイルスの流行により、世界各国においてフードデリバリーサービスが広く普及しました。
米Uberの配達事業部門(Uber Eats)は2020年度第2四半期の売上高として前年同期比で約2倍となる約12億1,100万ドルを記録しています。
フードデリバリーサービスの普及により、家にいながらにして気軽に地元の名店の料理を楽しめるようになりました。
一方で、配達員が配達を急ぐあまり交通事故が多発していることからも目をそらせません。
そんな中、中国フードデリバリー大手の「Ele.me(餓了麼)」は9月9日に配達員に配慮した新機能として「5分・10分待てます」ボタンを発表しました。
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中国フードデリバリー大手「Ele.me(餓了麼)」が「待つ」ボタンを発表
Ele.me(餓了麼)は、アリババグループ傘下の上海拉扎斯信息科技が提供しているフードデリバリーサービスです。
2009年に設立され、現在では中国フードデリバリーサービス業界においてMeituan Waimai(美団外売)に次ぐ第2位の市場規模を抱えています。
Ele.meでは配達員が配達時間を気にするあまり事故を起こしてしまう事態を防ぐべく、注文時の画面に「5分・10分待てます」ボタンを追加しました。
ユーザーが注文時にこのボタンを押すと配達員にその旨が通知され、配達員は余裕を持って配達できる、というものです。
ユーザーには配達員に協力した謝礼として、Ele.me内で利用できるポイントが付与されます。
なお、Ele.meの競争相手であるMeituan Waimaiも同時期に、最大8分までの配達遅延を許容すると発表しています。
中国ではフードデリバリー配達員の死傷事故が続出
中国においてフードデリバリーサービスを利用しているユーザーは2019年時点で4億6,000万人を超えています。
また、市場規模は同じく2019年時点で約6,536億元(約9兆9,600億円)にのぼります。
新型コロナウイルスの流行により、これらのユーザー数および市場規模は更に拡大したものと見られており、同時に配達員が巻き込まれる事故も増加しています。
2017年上半期には中国において計76名の配達員が交通事故により死傷しており、中国大手報道社「環球時報」により問題性が取り沙汰されました。
中には配達が5分遅れただけでユーザーが激怒し骨折するほどの暴力を受けた配達員の例も報告されており、配達員の保護は各社における課題とされています。
日本でもUber Eatsのトラブルが社会問題に
9月10日、愛知県警が名古屋市内で自転車危険運転の取り締まりを実施したところ、2時間の取り締まりで52名が警告を受けました。
うち16名はUber Eatsの配達員だったことがわかっており、実際にUber Eatsをはじめとするフードデリバリーの配達員による交通事故も既に数多く発生しています。
Uber Eatsの配達員は面接などの必要がない登録制であるため、日本では自転車か小型バイクを所持している成人であれば誰でも配達員として活動できます。
Twitter:荀平大 @junpei3594 による投稿
Twitter:中越博信 @moyanaka による投稿
一方で、登録時の研修が存在しないことから、配達員の品質には差があることも問題視されています。
更には、不測の事態が起こった際におけるUber Eats側の支援が不十分であるとが指摘されるなど、誰もが気軽に配達員になれるが故の問題を抱えてしまっています。
原因は歩合制の報酬制度にあり
交通事故をはじめとするさまざまなトラブルの原因となっているのは、配達員の報酬制度が歩合制であるからともいわれています。
日本では、Uber Eatsやmenuの配達員は時給ではなく歩合で報酬を受け取ります。
報酬は時間帯や地域により異なるものの概ね1回につき数百円とされており、配達にかかった時間が多かろうと少なかろうと受け取れる報酬の額は一定です。
そのため、効率を重視するのであれば短時間で多くの配達をこなす必要があり、このことが配達員の危険運転を招く一因となっています。
また、Ele.meやMeituan Waimaiは、注文から30分以内の配達を目標として掲げています。
この目標を達成するために、コンピューターが交通渋滞などを計算した上で、注文ごとに30分以内に配達を遂行できる配達員を選んでいます。
しかし、コンピューターの計算と実際の状況が合わず配達にかかる時間が30分を超えてしまう場合もあります。
合わせて、Ele.meとMeituan Waimaiでは30分以内に配達を完了させると賞金がもらえ、30分を超えてしまった場合は罰金が科せられるシステムが採用されています。
そのため、配達員は多少無理をしてでも30分以内に配達を終えるようになってしまいました。
中国ユーザーの声は両極端なものに
Ele.meが発表した「5分・10分待てます」ボタンに対し、中国インターネットユーザーからはさまざまな意見が寄せられました。
意見の内容は両極端なものとなっており、配達員を気遣う立場から「待つ」ボタンに賛成する意見と、会社による配達員管理の怠慢を指摘する立場から「待つ」ボタンに反対する意見の両方が見られました。
「安全運転のためなら待てる」「配達員も大変だ」という声が
「待つ」ボタンに賛成する意見としては、「配達員の身の安全が最も重要だ」「配達員の安全のためなら、5分10分と言わず何分でも待つ」「配達員は大変な職業なのだから、自分は絶対に配達員を急かさない」といった配達員を気遣う声が多く寄せられています。
また、中には「飲食店が料理を準備する時間にも余裕を持たせてあげて欲しい」といった飲食店を気遣う声も寄せられていました。
一方で「遅延はプラットフォームの問題」との声も
「待つ」ボタンに反対する意見としては、「5分10分待ったところで、配達員はその時間で更に多くの配達をこなすだけ」「配達員が無理な運転をするのは配達遅延に罰金を科す制度が原因なのに、その責任を消費者に転嫁するな」「配達時間計算システムを改良して、配達員に要求する配達時間に余裕を持たせれば良いだけの話」というように、配達員に要求する配達時間の余裕のなさや配達遅延への罰金という根本的な原因を排除しないことへの批判も寄せられています。
また、「ほとんどのユーザーは多少配達が遅れても何とも思わない。理不尽なクレームを言うユーザーは退会させれば良い。」というように、良心的なユーザーを顧客として選ぶようEle.me側に求める声もあります。
配達員を守る「待つ」ボタン、日本のフードデリバリーはどう見るか
日本においてもフードデリバリー配達員が関わる交通事故が問題視されていることから、今回の「待つ」ボタンの発表は関係業界において注目されました。
日本ではフードデリバリーサービス最大手であるUber Eatsの競争相手として、DiDi Food、出前館、menu、楽天デリバリーなどが市場を持っています。
DiDi FoodはEle.meと同じく、中国発祥のフードデリバリーサービスです。
また、DiDi Foodとmenuにおける配達員への報酬はEle.meやUber Eatsと同じく歩合制となっています。
更には、新人配達員への研修を実施していない点においてもEle.meやUber Eatsと共通しています。
しかし、出前館と楽天デリバリーにおける配達員への報酬は時給制となっており、Ele.meやUber Eats, DiDi Food, menuとは異なっています。
勤務時間は他のアルバイトと同じくシフト制となっているほか、新人配達員には研修を実施した上で業務に参加させていることが特徴です。
時給制であれば配達を何件こなしても報酬は一定であるため、配達員の安全という観点から見た場合、出前館や楽天デリバリーの戦略は優れているといえます。
一方、Uber Eatsやmenuは研修も定期的なシフト提出も必要なく手軽に配達員として参加できることから、配達員の集めやすさにおいて優れています。
歩合制のフードデリバリーサービスでは配達員に配達を急がせてしまう危険性もあるため、「待つボタン」のように配達員に余裕を持たせるシステムの導入は大いに検討する価値があるといえるでしょう。
参照資料
Weibo:https://weibo.com/1282440983/JjJZmlZ7o
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