訪日中国人による「爆買い」に代表される「モノ消費」は一世を風靡しましたが、市場の成熟と共に下火になりました。
現在の消費者のトレンドは、物質的な豊かさではなく精神的な豊かさをより重視する「コト消費」へと推移しています。
昨今ではそれをさらに発展させた「トキ消費」や「イミ消費」も注目を集めています。
新型コロナウイルスの感染拡大は、店舗運営の自粛や縮小につながり、店頭での消費を大きく減少させました。実店舗を有する事業者は、これまで以上に「コト消費」のトレンドを取り入れ、商品開発や販売方法に活かす必要に迫られています。
本記事では、コト消費やトキ消費・イミ消費の概要と、店舗で実施可能な「コト消費」の商品拡大について解説します。
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コト消費とは
コト消費は、インターネットの普及による消費者心理の変化を背景に、存在感を高めてきました。
モノ消費からの変遷、および代表的なコト消費の種類について解説します。
コト消費とモノ消費の違い
「コト消費」と「モノ消費」には、その消費対象に明確な区分が存在します。
経済産業省が2015年9月に公開した「平成27年度 地域経済産業活性化対策調査」によると、モノ消費とは「個別の製品やサービスの持つ機能的価値を消費すること」と定義されています。
小売店などで陳列されている商品の購入はこの「モノ消費」に該当し、定量化による価値の客観化が可能とされています。
対してコト消費とは、「魅力的なサービスや空間設計等によりデザインされた時間を顧客が消費すること」とされており、消費空間内において商品やサービスが「コト」として一体化し、提供されています。
食事や宿泊、マッサージ体験、アクティビティなどといった類のものはこの「コト消費」に該当しており、近年市場を賑わせています。
モノ消費からコト消費へ トレンド変化の背景
消費対象が「モノ」から「コト」へと緩やかに消費が変化している背景としては、日用品や家電など物質的な豊かさを手に入れることのできる消費者が増え、商品自体の機能を求める消費意欲が社会自体で薄れてきたことがあります。国内市場が成熟したことにより、「モノ」への相対的価値が低下しているのが現代社会です。
インターネットの普及によりECサイト等が発達し、商品が安価に入手しやすくなったことも一因でしょう。
ジェイアール東日本企画が2015年8・10月に実施した「普段の生活に関する定性調査及び定量調査」においてもその傾向が顕著に表れています。
「家にモノが溢れていてこれ以上持ち物を増やしたくない」という問いに対しての合致率は52.1%、「欲しいモノはあるが『今すぐに買いたい』とまでは思わない」は69.3%と、それぞれ過半数を占めており、モノ消費に対する消極的な姿勢がうかがえる結果となりました。
また、「爆買い」がメディアを賑わせていた、訪日中国人をはじめとしたインバウンド消費も、リピーター数が増加するにつれてモノ消費は下火になり、コト消費へと移行傾向にあります。
観光庁が毎年発表している「訪日外国人消費動向調査 2019年年次報告書」によると、「訪日前に最も期待していたこと」としては「日本食を食べること」がトップの27.6%を占めており、次いで「自然・景勝地観光」が14.2%、そして「ショッピング」が11.3%となっています。
日本製品は既に買い揃えてしまったという現状から、物質的な豊かさではなく体験・サービスといったコト消費により、精神的な豊かさへの需要が高まっていることがうかがえます。
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7種類のコト消費
コピーライターの川上徹也氏によれば、「コト消費」は以下7種類のタイプに分けられるといいます。
- 純粋体験型:宿泊施設への宿泊、およびスキーやツアー等のアクティビティなど、「体験」を商品として企業が提供することで見込まれる消費
- イベント型:デパートなどの商業施設におけるイベントの開催による消費
- アトラクション施設型:商業施設へ映画館や美術館を併設することにより見込まれる消費
- 時間滞在型:魅力的な空間への長時間滞在を目的とした消費
- コミュニティ型:商業施設内において、情報共有を目的にコミュニティを醸成した場合に見込まれる消費
- ライフスタイル型:インテリアショップや雑貨屋が、顧客のライフスタイルに合わせ商品を組み合わせて販売することにより見込まれる消費
-
買い物ワクワク型:店内のレイアウトや雰囲気など見せ方の工夫により、見込まれる消費
コト消費の次は「トキ消費・イミ消費」
博報堂生活総合研究所によると2010年以降、コト消費だけでは説明困難である新たな消費行動が生まれているとされています。
本項では、コト消費の次に来るとされる「トキ消費」と「イミ消費」、それぞれの定義について解説します。
トキ消費とは
博報堂生活総合研究所が、2年に1度生活者へ実施している定点調査「生活定点」の調査結果を受け、提唱している消費行動が「トキ消費」です。
「トキ消費」の特徴としては、同じ体験は二度と出来ないという「非再現性」、コンテンツではなく参加そのものが目的である「参加性」、そして参加による貢献度が実感可能な「貢献性」の3要素を基軸に持ちます。
渋谷ハロウィン仮装において見知らぬ人とハイタッチする行動や、目標を掲げファンと一緒に成長していくとした「ももいろクローバーZ」の人気ぶりなどの消費行動が代表的です。
この「トキ消費」を活用したプロモーション事例として、人気ハンバーガーチェーン・フレッシュネスバーガーで、スタッフ内では1番人気にもかかわらず売上数が最下位のスパムバーガーの販売継続をかけた「スパムバーガー生き残りキャンペーン」が挙げられます。
イミ消費とは
「トキ消費」に対し、2011年の東日本大震災以降広まっているのが「イミ消費」であり、商品・サービスの選択を通じ社会貢献の実現を目的とした消費行動を指します。
ホットペッパーグルメ外食総研エヴァンジェリストの竹田クニ氏によって提唱されている概念であり、「環境保全」「地域貢献」「フェアネス」「歴史・文化伝承」「健康維持」などをキーワードとし、商品やサービスの機能だけでなく付帯する社会的かつ文化的価値への共感が、消費における重要な判断基準となっています。
この「イミ消費」の拡がりにより、外食産業では生産者支援や自社農場化、無化学調味料や無添加などの施策に取り組む事業者が増加傾向にあります。
店舗がコト消費の需要を取り込むには
コロナ禍では実店舗を持つ事業者は不利であるとされる傾向にありますが、実際に商品を確認できるという点は実店舗販売の大きな強みです。
オンライン施策やサービスと掛け合わせることにより、その価値を最大限に訴求することができるでしょう。
コト消費需要をてこに、店舗でどのような販売促進が可能か、3つのアイデアを紹介します。
1. イベントの開催やコミュニティーの形成
店舗においてコト消費の需要を喚起し消費拡大を図るためには、季節に合わせたイベントやその時しか味わえない独自のイベントなど、「非再現性」を打ち出したイベントの開催が有効です。
また、ワークショップやセミナーなどを定期的に開催することでコミュニティーを醸成し、コト消費が生まれやすい体験の場を提供することが重要です。
2. 居心地の良い空間、楽しい空間の提供
また、コト消費の一つである「時間滞在型コト消費」につながる施策として、居心地が良い、あるいは非日常を体験できる楽しい空間を提供することもまた重要です。
テーマパークに加え、昨今ブームとなっているカフェを併設した書店などが代表的であり、まさに長時間滞在が可能な空間の提供により、そこで時間を過ごすという「コト消費」につながっているといえるでしょう。
モノが溢れている現代において、小売店はただモノを販売しているだけでは売上拡大は見込めません。
たとえば「遊べる本屋」をコンセプトとしているヴィレッジバンガードのように、商品の陳列においても工夫を凝らし、魅力的な購買体験を消費者に提供することが大切です。
3. 買い物空間の演出、オフラインとのシームレスな購買体験
EC市場の拡大により、購買において実店舗を選択する消費者は減少傾向にありますが、「店頭で購入したい」というニーズも一定数存在しています。
商品の入手だけを目的とすれば、消費者はECを利用しその目的を果たすことができます。しかし「コト消費」を求める心理は、店内のディスプレイや商品の配置、店員のおすすめやアドバイスにより購入を検討する時間そのものを楽しみたいというニーズを生み出します。
また実際に商品を手で触りながら比較検討が可能な点も実店舗の強みです。
こうして店頭で実際に確認した商品をオンラインで購入できるような仕組み、あるいは反対にオフラインで確認した商品やオーダーした商品をオフライン(店頭)で受け取るような仕組みを「OMO(Online Merges with Offline)」と呼びます。
オンラインサービスは、消費者にとっては支払いに現金が不要なだけでなく、店舗にとっては顧客情報の取得や管理ができるというメリットもあります。
今後はこうした購入の体験を重視しながら、オンラインとオフラインの強みを使い分けるビジネススタイルを運用していくべきでしょう。
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コト消費やトキ消費、イミ消費など最新の消費傾向に合わせ、店舗の工夫を
消費者心理の変化、および国内市場の成熟を受けて拡大してきた「コト消費」は、新たな消費行動である「トキ消費」や「イミ消費」へと発展しつつあります。
新型コロナウイルスの拡大も相まり、購買体験の価値が再度問われている現在、小売店をはじめとした実店舗を有する事業者は、集客施策を今一度見直す必要があります。
最新の消費動向に留意した上で、商品陳列の見直しや、オンラインイベント・セミナー等の開催、キャッシュレス決済導入などの施策実施により、消費者への幅広い選択肢の提供が可能となるでしょう。
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<参照>
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