人間の意思決定には何かしらの判断基準があり、購買行動において人は商品の価格や質、価値などを比較して購入するかどうか決定します。特に価格は意思決定をする上で重要な要素であり、どれだけお得に商品を手に入れられるかが消費者にとって重要なポイントです。
事業者側が商品をお得に見せる上で、知っておきたい人間の心理現象の一つに「アンカリング効果」があります。アンカリング効果とは、心理学や行動経済学で知られる心理効果で、消費者の購買意欲に影響を与えられます。
本記事では、アンカリング効果とは何かを解説し、その心理効果を歯医者や歯科クリニックで活用する方法を紹介します。
アンカリング効果とは
アンカリング効果は、消費者の購買行動に大きく影響する心理効果の一つです。マーケティングにおいてアンカリング効果をを理解し応用することで、集患や販促に効果が期待できます。
まず、アンカリング効果について簡単に解説します。
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アンカリング効果とは
最初に得た情報を重視してその後の意思決定をする人間の心理現象
アンカリング効果とは、最初に提示された対象の特徴や価格、情報の印象が強く頭に残り、その後の意思決定に影響をおよぼす心理現象のことです。
消費者は商品を購入するとき、類似した商品の価格や質、口コミなどのあらゆる情報を比較し、購入する価値のある商品かどうかを検討します。
しかし、こうした判断材料となる情報が不足している中で決断する場合、人は情報の断片を重視しすぎる傾向があるといわれ、アンカリング効果ではこの心理的特徴が作用しています。
アンカリング効果の由来
アンカリング効果の由来は、船のいかり(アンカー)といわれ、船がいかりを降ろすと縄でつながれた範囲でしか移動ができないことから来ています。
アンカリング効果では「いかり」は先行して得た情報であり、「船が移動できない状態」は新たに得た情報に対して先行した情報でつくり上げた枠組みをもとに限定的に判断してしまうことを表しています。
歯医者・歯科クリニックにおけるアンカリング効果の活用方法
アンカリング効果を歯医者・歯科クリニックで活用すると、顧客への販売促進やスタッフの精神状態を整えることに効果が期待できます。
期間限定・値引きキャンペーンなどでお得感を演出
アンカリング効果を活用し、商品やサービスのお得感を引き出すことが可能です。代表的な例が価格表示です。
たとえば、5,000円の商品Aと3,000円の商品Bがあり、値引きキャンペーンによって5,000円の商品Aが3,000円になった場合、消費者は値引きされていることがわかる商品Aを購入するでしょう。商品Aの5,000円という元値が基準(アンカー)となり、同じ3,000円でも商品Aの方がお得に感じやすいためです。
あるいは複数の価格帯の異なる治療法やサービスを説明する際は、患者が選ぶ可能性がほとんどなくとも、まずは価格の大きなものについて提示します。後に示される金額は、無意識のうちでそれと比較され、相対的に安いと受け止められます。
歯医者では保険診療の場合価格を自由に設定できるわけではありませんが、自由診療の範囲ではこうした工夫に取り組めるでしょう。
また口腔ケアのグッズでも、価格の高いものをまず目につくようにして、アンカーとして機能させるといった方法が考えられます。
アンカリング効果と似た「アンカリング」施設の雰囲気を良好に
アンカリング効果と似た心理効果に「アンカリング」があります。このテクニックは、特定の刺激をきっかけに特定の心理状態を引き出すというものです。
試合前に同じルーティーンを繰り返すと集中できたり、特定の食べ物や飲み物を口にすることでストレスが緩和されたように感じることはその例です。自分なりの特定の行動を持つことで、自分の精神状態をある程度コントロールすることができます。
歯医者では治療に伴う痛みや、健康への不安から患者はネガティブな気持ちになりがちです。医療従事者や施設のスタッフがこうした利用者の生み出す雰囲気に同調しないために、アンカリングは役に立つでしょう。
安定した精神状態で働くことは、結果的にクリニック全体の雰囲気を良好に保つことにつながります。利用者へ与える印象もよくなり、集客効果も期待できるでしょう。
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アンカリング効果を用いる際の注意点
アンカリングの効果を活用する上で、注意すべき点もあります。特に違法となる二重価格表示を避けるためには、消費者庁のガイドラインを確認することが大切です。
1. 値引き表示が顧客に通用しない場合も
価格表示でアンカリング効果を活用するには、値引き前などの比較対象価格を表示しなければ安さが際立ちません。
先述したように、販売価格が3,000円の商品に「5,000円から値引き→3,000円」と表示されているAと「3,000円」とだけ表示されているBがあれば、消費者はAの方がお得だと感じます。このように、高い価格を先に提示することで、販売価格を安く見せることができます。
しかし、このように価格表示を工夫してもアンカリング効果の影響を受けない消費者もいます。事前に商品の市場価値や他店の販売価格などを調べていた場合、値引き表示によるお得感の演出は通用しないでしょう。
アンカリング効果を応用した価格表示は、主に事前に情報収集をしていない顧客に効果があるということ、また、自店よりも安い他店の販売価格がよく知られている場合などには効果が薄くなることに注意する必要があります。
2. 違法な「二重価格表示」であると判断されないようにする
価格表示では、景品表示法で定められる「二重価格表示」に気を付ける必要があります。これは、比較対象価格を著しく高く表示し、値引きのお得感を本来よりも多く引き出すような手法を禁止するものです。
比較対象価格に「最近相当期間にわたって販売された実績」があれば問題がないとされ、正当であるかどうかは、その価格で販売された時期および期間、一般的価格変動の状況、店舗の販売形態などによって判断されます。
消費者庁のガイドラインは「最近相当期間にわたって販売された実績」とみなす条件を、原則「二重価格表示がされた8週間において、当該価格で販売されていた期間が販売期間の過半を占めていること」としています。
しかし、上記の条件を満たしていても、当該価格での販売期間が全体で2週間未満の場合、または、当該価格で販売された最後の日から2週間以上が経過している場合には「最近相当期間にわたって販売された実績」とはみなされません。
違法な価格表示とならないためには、自身の目で消費者庁のガイドラインを確認することが重要です。
歯医者の利用者が無意識で従うアンカリング効果をとらえる
アンカリング効果とは、最初に提示された対象の特徴や価格、情報の印象が強く頭に残り、後の意思決定に影響をおよぼす心理効果のことです。マーケティングに応用されることも多く、価格表示などの場面でよく使われています。
価格表示でアンカリング効果を活用する際には、事前に比較対象となる価格や情報を持っている消費者や利用者には効果がないことや、景品表示法に定められる不当な「二重価格表示」に該当する可能性があることに注意が必要です。
今回紹介したアンカリング効果のように、マーケティングに応用できる心理効果は多数あります。医院やクリニック選びは、技術はもとより、口コミや先生の人柄も重要視されるポイントです。より優良な顧客に利用してもらうためにも、人の無意識の心の動きについて理解し、施設が利用者に与える印象をしっかりコントロールしていくことが大切です。
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<参照>
消費者庁:二重価格表示