クリニック・病院など医療機関で活かせる行動経済学、5つの理論

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行動経済学は、合理的でない人間の選択や判断について解き明かす学問です。自発的な行動の変容を促せるとして、マーケティング分野では早くから行動経済学の考え方が取り入れられてきました。

市場原理にさらされることの是非が話題にもなる医療分野ですが、患者に対して物事を伝える際、行動経済学の考え方が役立ちます。

本記事では、クリニックで活かせる行動経済学の4つの理論を紹介し、行動経済学を用いる際の注意点についても解説します。

クリニックで活かせる行動経済学【診察編】

まずは、直接患者と言葉を交わす「診察場面」で活かせる行動経済学の代表的な理論を紹介します。

これらの理論を意識しながら診察を行うことは、患者との良好な関係構築やクリニックの良い評判を集めるための一助となるでしょう。

1. フレーミング効果

フレーミング効果とは、物事を表現する方法によって、受け取る印象が変わることを指す用語です。 用意されたフレーム(枠組み)によって結果が変わることから、この名前がついています。

医療シーンでのフレーミング効果を示す実験の例があります。この実験では、医師を被験者として2つのグループに分け、ガンの治療法について手術と放射線治療のどちらを行うかの選択を求めました。各グループには等しい内容の選択肢が提示されていますが、手術を行った場合の患者の生死にまつわる数字の表現のみが変えられています。

一つのグループには、手術を受けた患者の術後1か月の生存率が90%と伝え、もう一つのグループには、術後1か月の死亡率が10%と伝えました。

各治療法の内容は同一の説明をしているにもかかわらず、結果として、前者の生存率で伝えられたグループで手術を選んだ医師が84%であったのに対し、後者の死亡率で伝えられたグループで手術を選んだのは50%となりました。

生存率と死亡率という語が、聞き手が情報をとらえる基本姿勢を左右し、その後に続く確率を示す数字に対する印象が変化しました。その結果医師の選択に差が生まれたと考えられます。

フレーミング効果とは?有名な実験「アジア病問題」・マーケティングへの活用例・5つの活用法

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2. プロスペクト理論

人間の心理として、自らにもたらされる利益よりも、自らが被る損失のほうを過大に評価する傾向があるといわれています。

すなわち、最適な選択肢が多少なりとも損失を生じさせるものだとしたら、人間はこうした選択肢を避けます。 得失の差を考えて最も良い結果になるとしても、失うことへの悪印象が大きく評価され、損失の最も小さいプランが非合理的であっても取られやすくなります。

プロスペクト理論とは、こうした人間の意思決定をモデル化して説明したものです。この理論によると、 人は利益を得る場面では「リスク回避」を重視する傾向が強く、損失を被る場面では「損失回避」をより重視して決断をするといいます。

この心理がみられる患者の例として、積極的治療から緩和ケアに移行できないケースがあります。たとえ現在の治療を続けたとしても成功の見込みが薄く、継続に巨額なコストを必要としたとしても、患者はその治療の継続を希望するというものです。

これは客観的に見れば不合理な選択であり、多くの場合は良い結果を招きませんが、このような患者を心変わりさせるのは困難であることが多いでしょう。患者は治療をやめることで被るかもしれない「損失」を回避したいと考えているため、医療従事者はその気持ちを理解し、共感を示しながら可能な限り時間をかけて説得の方向へ進んでいく必要があります。

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3. ピークエンドの法則

ピークエンドの法則とは、物事における最大の印象(ピーク)と最後の印象(エンド)が全体的な印象に影響を与えることをいいます。

医療シーンにおけるピークエンドの法則の一例として、看護師の包帯の外し方のエピソードがあります。あるクリニックの看護師たちは、やけどをした患者に巻かれた包帯を一気に剥ぎ取る方式を採用していました。こちらのほうが痛みを感じる時間が総じて短いため適切な処置と思われていたからです。

しかしながら、その処置を受けた患者の意見は違いました。患者は、たとえ長く持続する痛みがあるとしても、まずはゆっくりと古い包帯を外してもらう方が苦痛は小さかったと述べています

患者はピークエンドの法則にのっとり、最も痛みを感じた瞬間や最後の包帯を剥ぎ取る瞬間の痛みが強く印象に残り、前者の方がより痛く苦痛な出来事だと記憶されたことが予想できます。

上記では痛みから来るネガティブな経験を例としましたが、ポジティブな経験にもピークエンドの法則は適用されます。治療や処置に対する患者の苦しみを軽減させるだけでなく、ピークとエンドを意識して診察や患者とのコミュニケーションを行うことで、クリニックの評判を上げることにもつながります。

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クリニックで活かせる行動経済学【院内編】

行動経済学の活用場面は診察の際だけでなく、院内でのその他のシーンも考えられます。ここでは、行動経済学の中からクリニックの院内で活かせる理論を紹介します。

1. ナッジ理論

ナッジ理論とは、小さなアプローチで人の行動を変えることをいいます。名前の由来は英語のnudgeにあり、ひじでそっと突く様を表します。

ナッジ理論を提唱したのは、シカゴ大学の行動経済学者であるリチャード・セイラー教授です。2017年にノーベル経済学賞を受賞し、セイラー教授の理論は世間にも広く知られることになりました。

今では英語圏であるアメリカやイギリスのみならず、世界中でナッジ理論の導入の検討が進んでいます。また、英米においてはすでに公共政策レベルで取り入れられており、実務面での効果も立証済みです。

ナッジ理論の好例としては、お店やレジなどの待ち列で使われる足跡の形をしたマークが挙げられます。人間は足跡のマークがあると、それに合わせて立つべきと感じ、そのガイドに沿った位置に立ちます。

店舗や施設、クリニックなど人が多く集まる場所で、大勢に対し言葉で行動を促すことはしばしば困難を伴います。行動経済学は、言葉以外にも人に働きかける方法があることを気づかせてくれます。

2. カリギュラ理論

対照的に、上記の例で列に並ぶように強い語調で制したとしても、うまくいくとは限りません。人間には、他人にダメだと禁止されたり、絶対こうして下さいと言われると反発したくなるというカリギュラ効果と呼ばれる心理傾向があるためです。

医療行為ではこのような説明は避けられないことも珍しくありませんが、クリニックのスタッフの間では、表現の際に注意することができるでしょう。

また、マーケティングにしばしば用いられるテクニックでもあり、自費診療の領域や検診のオプションを薦める場合にも活用できるでしょう。

カリギュラ効果とは?マーケティングへの活用例を紹介|顧客の意欲を引き出す効果

カリギュラ効果とは、「禁止されると余計にやってみたくなってしまう」という心理的な効果を指します。たとえば、「閲覧禁止」と書かれた本やブログを見たくなってしまったり、ダイエット中に「食べてはいけない」と思えば思うほど食べたくなってしまうという経験がある方もいるでしょう。ビジネスの場では、このカリギュラ効果をマーケティングに利用することができます。カリギュラ効果について、語源や、現象が引き起こされる理由、集客に活用する具体例や注意点などを紹介します。目次カリギュラ効果とは?「カリギュラ」の語源...


クリニックが行動経済学に関連して認識しておくべきこと

行動経済学は、クリニックを含む多くのサービス提供の場において活用できる学問です。

一方で、活用にあたっては注意すべき点があります。とりわけ、心身の健康面で深刻な悩みを抱えた患者が集まるクリニックにとっては、事前に認識しておくことで避けられる問題もあるでしょう。

医療従事者にも認知バイアスはある

患者は痛みや苦しみといった現実に直面し、非合理的な決断を下すことがあります。加えて、決断のみならず、クリニックに抱く印象についても、理性で考えられるものとは違った内容になることもあります。

これらを行動経済学の観点から各理論に照らして説明してきましたが、医療従事者もまた人であるため、非合理的なバイアス、いわゆる無意識的な思考の影響に左右される可能性があります。

上記で紹介したような行動経済学の理論は、すべて医療従事者の認知にもあてはまります。

認知バイアスとは?9種類を紹介・先入観から逃れるコツ

認知バイアスは、物事を認識、判断、思考する際に、これまでの経験や固定観念にしたがい合理的でない結論にたどり着くことや、その合理的でない考えを指します。バイアスは「偏り」を意味する単語です。心理学において認知バイアスは多種多様な効果が知られており、その効果の多くは、日々の生活においてしばしば発生しています。マーケティングにおいても例外ではなく、顧客のみならず企業側にも認知バイアスが発生し、誤って判断してしまったためにマーケティングで失敗してしまうという例もあります。この記事では、認知バイアス...


患者の合理性を損なう要因に向き合う

患者が常に合理的な判断をするはずだと考えてしまうと、患者の不合理な選択やコミュニケーションの意味が読み解けず、医師や看護師もストレスを感じてしまいます。こうした問題を防ぐためには「合理的な患者というのは多くない」と認識を修正することが重要です。

そして、認識の修正に伴い、患者へのアプローチも変更することが求められます。たとえば、多くの有益な情報や多数の選択肢を患者に与えることは、かえって患者の混乱を招き、合理的な選択を損なう可能性があるため、必ずしも正しいとは言えません。

患者は医療従事者と違い、置かれている状況も知識や経験の量も違います。症状に関係しないことであっても、医療機関をかかるにあたって何か不安があるか尋ねるなど、患者の判断を不合理な方向に推し進めている要因を特定することができれば、より良質なサービスの提供に近づくでしょう。

行動経済学の理解がクリニックの評判にもつながる

行動経済学の活用は、患者との良好な関係の構築や、サービス提供の際に双方に生じうるストレスの軽減にもつながります。結果として、クリニックの評判を上げることに役立つといえます。

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<参照>

みずほ証券 ファイナンス用語集:フレーミング効果

医学会新聞:損失回避 治療をやめる意思決定は難しい(平井啓)

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