話題のASMRとは|「音」の効果を活用した企業・観光業によるマーケティングの事例も紹介

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ASMRとは、視覚や聴覚などの刺激によって体験できる心地よい感覚を指します。近年、日本でも多くASMR動画がYouTubeなどに投稿され、人気を集めています。

本記事では、咀嚼(そしゃく)音などの生活音が癒しを与えるコンテンツとして消費される時代において、企業や観光地はどのようにASMR動画を活用していくべきかを紹介します。

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ASMR(エーエスエムアール)とは

ASMRとは、「Autonomous Sensory Meridian Response=自律感覚絶頂反応」の頭文字を取った言葉です。この造語は、2010年2月にニューヨーク州在住のジェニファー・アレン(Jennifer Allen)という女性が名付けたとされています。

本来は視覚や聴覚の刺激による心地よい感覚もASMRですが、Web上のASMRは聴覚の刺激による心地よさを指す場合が多いです。一般的には表記通り、そのまま「エーエスエムアール」と読みます。Web上ではどのようなコンテンツがASMRと呼ばれ、人気となっているのか紹介します。

咀嚼音などさまざまな音を利用したASMR人気の現状

Web上でASMRコンテンツが多く配信されているツールとして、YouTubeが挙げられます。YouTubeでは再生回数100万回超えのコンテンツも多く、話題のASMR動画であれば1億回を超えるものもあります。

日本では、長崎バイオパークの「カバがスイカを食べる動画」は再生回数1億回を超え、カバがスイカを食べる様子と咀嚼音が心地よいと人気コンテンツになっています。

 カバがスイカを食べる動画長崎バイオパーク公式チャンネル
▲ カバがスイカを食べる動画:長崎バイオパーク公式チャンネル


<参照>カバのスイカまるごとタイム Hippo's watermelon ASMR - YouTube


Googleのキーワード検索トレンドを調べると、ASMRというワードは5年間で増加傾向にあります。

Google TrendsでみたASMRのキーワード検索トレンド推移
▲ ASMRのキーワードの検索トレンド推移:Google Trends



Googleによると、2018年頃からASMRなどストレス管理に関連する動画への関心も高まっており、YouTubeの関連動画の総再生時間は前年比で60%以上増加しています。

YouTubeの利用者増加、ASMRが人気な理由

ASMRが人気コンテンツとなった理由の一つには、YouTubeの利用者増加もあります。ニールセン デジタル株式会社の調査によると、近年はメインで利用されるデバイスがスマートフォンとなり、動画をスマホで手軽に見られるようになったため、全世代でYouTube利用者が増加傾向にあります。

さらにYouTubeは、2020年の日本におけるスマホアプリのアクティブリーチ第2位で、コロナ禍による利用の加速も見られます。その中で、仕事終わりの帰路や寝る前に試聴する動画として、癒し効果のあるASMR動画が人気となったと考えられます。

音楽心理学を専門とする金沢工業大学の山田真司教授は2020年に受けた取材で、オンラインでのコミュニケーションの増加や、ストーリーを追うコンテンツ視聴への疲労がASMRへの関心の高まりや視聴につながっている可能性を指摘しています。

<参照>脳をゾワゾワさせる音 ASMR人気 企業も参入 鉄道、バーナー・・・:東京新聞 TOKYO Web

ASMR関連企業の業績は向上

ASMRコンテンツが人気となると同時に、ASMRと相性の良い商品開発によって売上が伸びたという事例もあります。

一つは、ピュレグミなどの商品で知られるカンロ株式会社の直営キャンディショップ「ヒトツブカンロ」が出した商品「グミッツェル」です。グミッツェルを食べる咀嚼音ASMR動画が一般人やインフルエンサーYouTuber投稿され、中には200万回再生を超えるコンテンツも登場しました。

外側のパリッとした音が快感だと人気となり、グミッツェルの咀嚼音ASMR動画が投稿された2019年9月以降に売上が急増し、2012年の発売以来累計約600万枚を販売しています。

コミック、ゲーム、ボイス・ASMR作品等を取り扱う二次元総合ECプラットフォーム「DLsite」やASMRアプリ「ZOWA」を運営する株式会社エイシスも業績が向上した例です。2020年度で売上高を23年連続で更新し、昨対比155%成長の250億円の売上高となったと発表しています。

ASMRをPRに利用した事例、観光業を中心に紹介

ASMRはさまざまなPRに利用可能です。ここでは、音の心地よさなどを通じて、観光地などの魅力を発信した事例を紹介します。

事例1. 日本各地の郷土料理をASMRと映像で紹介「LOCAL FOOD ASMR」

LINE株式会社が運営するLINE NEWS内の動画プロジェクト「VISION」で実施されたグルメ動画企画「LOCAL FOOD ASMR」は、ASMR動画で日本のローカルフードを取り上げる企画です。

<参照>
クセになるASMR(咀嚼音)と映像で日本各地に根付く郷土料理を紹介!耳と目で楽しむ新感覚グルメ動画シリーズ『LOCAL FOOD ASMR』 LINE NEWS「VISION」で配信|ワンメディア株式会社のプレスリリース
耳と目で味わう日本の郷土食シリーズ『LOCAL FOOD ASMR』 (LOCAL FOOD ASMR)

 LOCAL FOOD ASMR、VISIONのプレスリリース
▲ LOCAL FOOD ASMR:VISIONのプレスリリースより

日本各地の郷土料理という伝統をトレンドコンテンツであるASMRを用いて発信することは、これまでにない「聴覚」という観点でローカルフードの魅力を際立たせます。

また、ローカルフードに興味を抱かせることが、その地域を知ってもらうことにもつながります。

事例2. 地域の「音」ASMRで発信/動画サービス「ZOWA」のプロジェクト「EMOCAL」

ASMR好きのための動画サービス「ZOWA」では、各地域の魅力的な音を全国へ発信する地域応援プロジェクト「EMOCAL」を実施しています。

これまで、第一弾には群馬県渋川市の伊香保温泉にある「石段街」で聞こえる音、第二弾では石川県能登町にある松波酒造の「和釜で米を蒸す音」、第三弾では新潟県佐渡島の天然記念物である佐渡小木海岸の「万畳敷(まんじょうじき)」の音の風景を発信してきました。

視覚で各地域の自然や風景に癒されながら、聴覚でその土地ならではの心地よい音を楽しめます。

<参照>EMOCAL

EMOCALトップページ
▲ EMOCALトップページ:EMOCAL特設サイト

事例3. 香港政府観光局/香港の街の片隅で聞こえる環境音をYouTubeで

ASMRを使った観光PRコンテンツは日本だけではありません。香港政府観光局は、香港を紹介する動画「360香港モーメント」というシリーズの中で、夏の香港を音と映像で楽しめる動画を公開しています。

香港で聞こえる音と映像を融合させた動画で、まるでその場にいるかのような臨場感と癒しを感じられます。

<参照>[360 Hong Kong Moments] ASMR in Hong Kong Outdoors - YouTube

香港政府観光局公式YouTubeチャンネル 香港の夏の映像と音が楽しめる動画:
▲ 香港の夏の映像と音が楽しめる動画:香港政府観光局公式YouTubeチャンネル

ASMRを取り入れた企業のマーケティング事例

最後に、企業がどのようにASMRを取り入れてマーケティングを行っているのか、その事例を紹介します。

事例1. ビールのシュワシュワ音をASMRで演出「ミケロブ・ウルトラ」のCM

アメリカで開催されたアメリカンフットボールイベント「スーパーボウル2019」では、ビール会社の「ミケロブ・ウルトラ」のCMが放映され話題となりました。

女優のゾーイ・クラヴィッツが、静寂の大自然の中でマイクの前でビールを飲むというシンプルなCMです。しかし自然という視覚的な癒しと、マイクが拾ったビールを飲む音が聴覚を刺激した宣伝効果のあるASMR動画といえます。

事例2. 湖池屋「スコーン」/咀嚼音の「スコ音(スコオン)」を公開

湖池屋は、自社のスナック「スコーン」の咀嚼音を楽しむコンテンツとして、「スコ音(スコオン)」を発表しました。

2019年3月にYouTubeで動画を公開したほか、ユーザー参加型のキャンペーンも同時に実施しました。当時展開されたキャンペーンは、スコーンの音を当てるクイズに回答すると音が楽しいスナック菓子のセットをプレゼントするというもので、音を楽しみながら自社商品のアピールに成功しています。

また、ユーザー参加型のキャンペーンの実施により、トレンドのASMRがもたらす影響など、ユーザーの反響も知ることができます。

事例3. 三井化学/運行を終えた「炭鉱電車」の音を公開

電車が線路を走る音も、ASMRの人気コンテンツです。

三井化学は、福岡の三池炭鉱の鉄道として活躍した「三井化学専用線」を走る炭鉱電車の音を公開しました。支線を含む総延長約18.5kmの三井化学専用線は旅客輸送も担っており、親しみを感じていた住民も多い鉄道でした。炭鉱の閉山とともに多くは廃線となりましたが、100年以上も続いた運行を終えた炭鉱電車の価値を音として残すため、Web上で公開されました。

音は、匂いなどと同様に人々の思い出やイメージを想起させるため、ノスタルジーを感じられる鉄道の音は地元住民や鉄道マニアに支持されると考えられます。

<参照>三井化学SOUNDS GOOD|三池鉄道

事例4. ニッピコラーゲン化粧品/化粧品のASMR動画

化粧品のテクスチャーなどを伝えるコンテンツとしても、ASMRは有効です。

美容家の岡本静香さんが出演する「ニッピジェル」のASMR動画は、文字だけでは伝わらない化粧品の情報を伝えています。

二層タイプのオイルウォーターや、美容液ファンデーション、ライトなローション、クリームなど、動画にすることで、テクスチャーなどの詳細情報を視聴者に届けられます。

今後、美容業界においては、音でユーザーに癒しを与えると同時に、テクスチャーなど商品情報を伝えるコンテンツとしてもASMR動画の存在が欠かせないものとなると予想されます。

ASMRは人の聴覚を刺激し心地よさを提供、音を活かしたマーケティングも可能

現代において、ASMRはユーザーに癒しを与える手軽なコンテンツです。YouTubeなど誰でも動画が配信できるサービスやアプリを通して、咀嚼音などの生活の中で癒しを感じられる音を見つけ、楽しむ人が増えています。

企業や観光地も同様に、ASMRを使った動画で自社商品や観光地の魅力を発信しています。「音を活かす」という新しい手法のマーケティングは、今後さらに発展していくでしょう。

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