消費者の購買意欲をより高め、また潜在的な意欲を引き出すために、企業では多彩なマーケティング施策を活用しています。
心理効果を活用したマーケティングは、消費者により影響を与えやすいとされています。
「保有効果」もしくは「維持バイアス」と呼ばれる心理効果を活用した方法は、特に活用されています。
この記事では、保有効果の概要および保有効果を活用したマーケティングにはどのような方法があるか紹介します。
保有効果とは
保有効果(現状維持バイアス)は、1970年代に経済学者であるリチャード・H・セイラーによって提唱されました。簡潔に示すと、今所持している物や、今いる環境を手放すことに強い抵抗を感じる心理効果を指します。所有していない場合と比較して、所有している物などの価値が高いと感じることが原因であるとされています。
保有効果を示す実験
行動学者であるダニエル・カーネマンは、保有効果を示すため実験しました。学生を2つのグループに分け、片方を「売り手グループ」とし、大学で販売されているマグカップをプレゼントしました。もう一方は「買い手グループ」とし、マグカップはプレゼントされませんでした。
売り手グループと買い手グループそれぞれに「いくらならマグカップを売る、もしくは買うか。」と質問した結果、売り手グループがつけた値段は、買い手グループの2倍以上にもなりました。
このように、一度でも自分の物となった物品は手に入れていない状態と比較すると、感じる価値は2倍以上となり、手放しにくい心理効果が生まれます。
この保有効果は手に入れたものよりも失うものの方を重視するというプロスペクト理論のひとつです。
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保有効果が生まれる理由その1. ザイオンス効果
保有効果が生まれる要因として、「自分が所持している物に愛着を感じる」ことが考えられます。たとえば、長年愛用している万年筆があったとします。見た目は古くなってしまったとしても、一生懸命に働いてやっと手に入れた物であり、多くの思い出もつまっているでしょう。
もし、この万年筆を同じ新品と交換できるとしても、恐らく多くの人が万年筆に対して特別な感情を抱き簡単には手放せないと考えられます。
このように、何度も同じ物に接することで愛着がわくことを「ザイオンス効果」と呼び、保有効果が生まれる原因であると考えられています。
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保有効果が生まれる理由その2. フォールス・コンセンサス効果
無意識に人は「他人と自分は同じ考えをするものである」と思ってしまいます。これを「フォール・コンセンサス効果」と呼びます。先程の例をとって考えると、万年筆についた傷は他人にとってマイナスの価値でしかありません。
しかし、「自分の話を聞くことで、相手に万年筆の価値を理解してもらえる」と思ってしまいます。こういった考えになった場合、傷が付いているにもかかわらず、万年筆を購入した当時と同じかあるいはそれ以上の価値を付けてしまう場合があります。
このように自分の価値観が相手にも伝わるという思いから、保有効果が生まれると考えられています。
保有効果が生まれる理由その3. 現状維持バイアス
保有効果は現状維持バイアスとも呼ばれ、現状維持バイアスを考える際に「授かり効果」がポイントとなります。「授かり効果」とは、得る物への期待よりも、すでに得ている物を損失することに対する恐怖が勝ってしまう心理効果を指します。
所持している物に高い価値を与えたために損失をより恐れてしまうこと、つまり現状を維持し続けたいという心理効果が、保有効果が生まれる要因となると考えられています。
特に現状維持バイアスは、保有効果が生まれる要因として最も大きな理由であるとされています。
保有効果を活用したマーケティング方法
保有効果をふまえて、商品の魅力をアピールしたり、販売条件を工夫することで、消費者の購買意欲をよりかき立てることができます。
この項では、いくつかの保有効果を活用した販売手法やについて、例を交えながら紹介します。
1. 無料お試し期間/手に取る機会をつくる(1)
保有効果を活用するために、無料お試し期間を設け、購入前から所持している感覚を消費者に抱かせることが効果的です。消費者に所持している物を手放すことが惜しいと思わせることで、その後の購入や継続的な利用につながりやすくなります。
例として車の試乗を1週間無料にし、日常の中で車を使用させます。こうすることで自分の物になったかのような感覚を与えられ、手放し難い心理効果を作り出せます。
さらに、無料お試し期間はレシプロシティ効果にも期待できます。この効果は良い行いを自身が受けたときに、お返しをしなくてはならないといった感情を抱くことを指します。これらの心理効果によって、無料期間から購入などの切り替えが促進されることが期待できます。
2. 返品・返金保証/手に取る機会をつくる(2)
保有効果を活用するために、まず消費者に商品を手に取ってもらうことが大切です。手に取ってもらいやすくするために「返品・返金保証」を設けて購入リスクを下げ、自社の商品やサービスを購入するハードルを下げることが効果的です。
例として、健康食品の販売やサービスを展開している企業ではダイエット効果が出なければ全額返金保証のサービスを付与する、羽毛布団や家電なども商品に満足できなければ返品・返金が保証されている企業も多く存在しています。
返品・返金のリスクがあると考えられますが、実際には保有効果や返報性の原理に加えて、そもそも返品・返金の手続きが手間であることから、よほどのことがない限り返品・返金の申請はありません。そのため、こういった保証サービスはマーケティング手法としてよく用いられています。
3. コピーライティングやセールスレターの文面/手に取った自分を想像してもらう
保有効果は、消費者があるものを完全に手に入れていない状態でも現れます。コピーライティングやセールスレターの文面を通じて、消費者に、ある商品を保有する自分をイメージしてもらうことを狙うことも、保有効果を利用したマーケティング施策の一例です。
消費者の想像を通じて、商品を簡単に手放せないような感覚を呼び起こすことが期待できます。
たとえば、次のような文面があったとします。
「この自動掃除ロボットを使っているところを想像してみてください。届いてすぐ使えるように充電してあるため、床に置いてスイッチを入れるだけで使用できます。後はのんびりとソファに座り、淹れたてのコーヒーを飲みながらくつろいでいるだけで、部屋がきれいになります。」
このコピーライティングの具体的な描写を通じて、状況をイメージした消費者は多くの場合、その商品を手放したくない(入手したい)と考えるようになります。
4. クーポン券を配布する/「割引を受ける権利」を与える
クーポン券を配布することも、保有効果を活用したマーケティング方法といえます。クーポン券を得ることで、割引を受ける権利を得たという感覚を消費者に与えられます。この方法は、ショッピングサイトでよく活用されています。
例として、ZOZOTOWNでは顧客に送信するメッセージが特徴的であり「本日限定の割引クーポン券が発行されました」といった内容のメッセージを顧客に送信しています。
「本日割引しています」といった文面ではなくこのような表記によって、一度手に入れたお得に買い物できる権利を失いたくないといった保有効果がはたらきます。これにより、クーポンを利用したい多くの消費者が買い物するようになることが期待されます。
5. 商品の購入とセットで下取りを行う/「下取りの対価という価値」を与える
商品を購入してもらう際に下取りを同時に行うことも、保有効果を活用したマーケティングとなります。この方法は、客観的な価値よりも高い価値を自分が持っている物に見積もる心理を活用しています。たとえば電化製品を買い替える際に、現在使用している家電を下取りし、買い取ってもらえるとします。
本来であれば、古くなった家電の価値は実質0円であると理解していますが、自分の持ち物には価値があると思いたいといった心理がはたらきます。
そこで下取りサービスとして古くなった家電に5万円の価値を店側が付けることで、「5万円の価値」を今ここで使用しなかった場合、その家電はまた無価値なものとなってしまうことを消費者は恐れます。そのため、新しく家電を購入しようとする動きがより出やすくなります。
保有効果を意識した消費者や自社顧客へのアプローチ
保有効果が生まれる要因として、自分が所持している物に愛着がわくことで価値を見出してしまうことや、他人も自分と同じ価値観をもつと考え、さらにすでに得ている物に対して特に高い価値をつけてしまうことが挙げられます。このような状態を作り出すことで、消費者の購買意欲をさらに高められます。
たとえば無料お試し期間や、返品・返金制度を設けることで実際に商品を手にしてもらう方法や、コピーライティングを通して疑似的に手にしてもらったときの感覚を消費者に与えることで、保有効果が生まれやすくなります。
このほかにも、クーポン券など「権利」の配布も効果的でしょう。このように、さまざまなアプローチから保有効果を活用したマーケティングが可能であることがわかります。そのため、どのような企業でもマーケティングに保有効果を取り入れることは、比較的容易であると考えられます。
それぞれの企業にあった活用方法を見出すことで、より効果的なマーケティングができるでしょう。
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