旅館を予約する際、予約サイトの表示で「◯%オフ」「◯円引き」といった割引額や、「会員限定割引」「早割」などの限定特典の表記が見られます。こうした表記は消費者にお得感を与えるため、集客力やサービス満足度の向上につながります。そして「アンカリング効果」と呼ばれる心理学用語を活かしたもので、塾の運営にも活かせます。
この記事では、アンカリング効果の概要やマーケティングへの応用、応用の際のポイントについて解説します。
アンカリング効果とは
アンカリング効果は、世の中で広く使われている心理学用語です。マーケティングに活用すれば、消費者にお得感を感じさせられます。
以下では、アンカリング効果の意味や語源、マーケティングへの活用について解説します。
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アンカリング効果とは
最初の情報や数値が価値判断の基準となる心理学的現象
アンカリング効果は、はじめに提示された情報が基準になり、その後の判断に影響するといった心理を表す用語です。アンカリング効果は、マーケティングへの活用などを通じて、私たちの身の回りにも多く表れています。
アンカリング効果の語源
アンカリング効果は、英語で「Anchoring effect」といいます。アンカーとは、船が停泊するとき、海底に降ろして船の位置を固定しておく錨のことです。アンカーを下ろすことで、船は固定された地点から離れられなくなります。
アンカリング効果は、この船におけるアンカーと同じように、最初に提示した情報が意識の中で固定され、その後の行動に影響を与えることを示しています。
ノーベル経済学賞も受賞した行動経済学者のダニエル・カーネマン氏が1974年に学術誌のサイエンスに寄稿した論文で解説し、その後世界に知られる用語となりました。
アンカリング効果を示す実験
アンカリング効果を示す実験として、ある2つのグループに対し、国連におけるアフリカの加盟国の割合を尋ねるものがあります。2つのグループには10%と65%というルーレットで出ただけの根拠のない数字をそれぞれ提示しながら質問します。このとき、回答者は数字に根拠がないことを理解したうえで質問に応じます。
Aグループに対しては、まず「国連でアフリカ諸国が占める割合は65%より高いか?」を問い、次に「国連でアフリカ諸国が占める割合は何パーセントか?」を問いかけました。すると、2問目について具体的な数字を聞いたとき、平均は45%でした。
Bグループに対しては、まず「国連でアフリカ諸国が占める割合は10%よりも高いか?」と、Aグループよりも低い数字を持ち出して問いかけました。次に、Aグループと同様に「国連でアフリカ諸国が占める割合は何パーセントか?」を問いかけました。すると、2問目について具体的な数字を聞いたとき、Bグループの平均は、Aグループよりも低い25%となりました。
この実験からは、質問内の数字が正解と無関係でありながらも、無意識に答えがその数字に引っ張られていることがわかります。
アンカリング効果の塾での活用方法
アンカリング効果は、マーケティングや日常生活など、身近でも使われる心理学用語です。塾の運営においても、価格表示や点数表示などでアンカリング効果を活用できます。
以下では、塾におけるアンカリング効果の活用方法について解説します。
1. 費用は高額なものから提示
最初に伝えた数値は基準(アンカー)となり、後に伝える数字の比較対象となります。そのため、はじめに一般的な塾の指導料金や他店の相場などを伝えて、それよりも自分の塾の指導料金が安いことを示すのが有効です。入塾を検討している保護者に対し、他の店舗と比べてのお得感を与えることができます。
2. 合格者実績などは小さい数字から提示
強調したい数値の前に、それよりも小さい数値を示すとそれが基準(アンカー)となるため、後の数値を大きく感じさせられます。たとえば最新の合格実績数が去年よりも増えている場合には、去年の数字を示したりすると、前年度の実績をより多く見せられるといえます。
生徒の成績が向上した例を示す場合も、定期テストや模試が何点から何点に伸びたのか、前の小さい数値を示すとよいでしょう。
3. 他の法則と組み合わせる:プロスペクト理論
アンカリング効果をより有効にするものとしては、「プロスペクト理論」を組み合わせることが挙げられます。プロスペクト理論は、人間は目の前に提示されたものの損失度合いを想像し、意思決定を変化させるということを示す理論です。
具体的には、「先着限定」「期間限定」などのキャッチを使い、消費者に「この機会を逃してはいけない」という感情を与えることが挙げられます。
「先着」「限定」という言葉を利用し、値引き前の価格と同時に掲載することにより、アンカリング効果の効果的な誘発につながります。
4. 他の法則と組み合わせる:松竹梅の法則(ゴルディロックス効果)
アンカリング効果は、「ゴルディロックス効果」とも組み合わせが可能です。日本では「松竹梅の法則」とも呼ばれています。
ゴルディロックス効果とは、商品に関する情報が少なく、価格帯の選択肢が3つあるとき、顧客が出費をおさえたい、安かろう悪かろうを避けたいという気持ちから、真ん中の価格の商品を選びやすくなる現象です。
アンカリング効果とゴルディロックス効果を一緒に組み合わせて使う場合には、高価な商品、安価な商品、本当に売りたい商品の順番に選択肢を提示するのが効果的とされています。
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アンカリング効果の具体例
アンカリング効果はマーケティングに活用されます。特に、バーゲンセールのような変動した価格を表示することで商品やサービスを安く見せ、消費者の購買意欲を強化したい場面において用いられることが多いといえます。
ほかにも日常生活では、遅刻した際の時間の伝え方においてもアンカリング効果を活用できます。
以下では、マーケティングや日常生活におけるアンカリング効果の具体例を解説します。
マーケティングでの活用事例
マーケティングにおけるアンカリング効果は、価格表示でもっともよく使われます。
たとえば、宿泊サイトの価格表示で、ホテル1室の通常価格が30,000円であったものとすると、期間限定50%オフで今だけ15,000円とします。通常価格50,000円が20周年記念で35,000円といった表記も有効です。
このように表記することで、最初に提示した金額が基準(アンカー)となり、割引後の価格が魅力的に見えることになります。
日常生活での活用事例
アンカリング効果は、予定から遅れる際の時間の伝え方でも活用できます。
たとえば、待ち合わせに遅れそうな場合、相手に連絡し「1時間遅れてしまう」と伝えます。この場合、どれだけ急いで支度し、1時間で待ち合わせ場所に着いたとしても、相手には「1時間も遅れてきた」という印象を与えてしまいます。
しかし、待ち合わせ時間を伝える連絡で「1時間半遅れる」と言い、1時間で到着した場合、相手からは「遅刻したが、急いで来てくれた」という印象が残るでしょう。
事業者がサービスを提供するのが遅れてしまいそうな場合、あまりに多く見積もるのは適切ではありませんが、想定よりも少し余裕をもって伝えるべきだといえます。
アンカリング効果の注意点:二重価格表示による法律違反
アンカリング効果をマーケティングに応用する際に注意すべきことは、二重価格表示にならないようにすることです。二重価格表示とは、商品やサービスの提供において、実際よりも著しく有利であるかのように誤認させる表示のことです。二重価格表示は不当景品類および不当表示防止法(景品表示法)の違反となり、措置命令や課徴金納付命令が下されることもあります。
たとえば「通常価格18,000円、割引率30%OFF、販売価格12,600円」と表記して商品を販売している場合、以前に同じ商品を18,000円で販売した実績があることが必要です。もし販売実績がない場合、自社旧価格は根拠のないものとみなされ「実際のものよりも著しく有利な取引条件であると誤認させる表示」となるため、二重価格表示となります。
なお、過去の販売価格を表示するときには、「セール開始時点からさかのぼる8週間(商品が発売されていた期間が8週間未満のときは、その期間)において、比較対照価格で販売されていた期間がその商品が販売されていた期間の半分を超える」条件を必ず満たす必要があります。これに加えて、「比較対照価格で販売されていた期間が通算して2週間以上ある」、もしくは「比較対照価格で販売された最後の日から2週間を経過していない」という条件のどちらかを満たす必要があります。
これらの条件を満たしていれば、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」であるとみなされ、二重価格表示だと判断される心配はなくなります。
アンカリング効果を用いる際には、二重表示にならないよう消費者庁のガイドラインの内容を確認するとよいでしょう。
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アンカリング効果を塾の集客に活用
アンカリング効果は、はじめに提示された数字が基準となり、のちの判断に影響する心理現象です。
塾においては、価格や合格者実績の表示を工夫することでアンカリング効果が活用できます。点数アップ前の点数とアップ後の点数を並んで記したり、他の塾の価格を表記したりすることで、消費者に魅力を伝えられます。
しかし、アンカリング効果を活用する際には、二重価格表示にならないよう注意する必要があります。表記における注意点を守りながらアンカリング効果を活用していくことで、塾の集客につながるでしょう。
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