「第3波はGoToが元凶」説の危うさ:世論に着せられた濡れ衣を3つの観点から検証

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新型コロナウイルス(以下、コロナ)のダメージからV字回復するための経済施策「GoToキャンペーン」に赤信号がともりました。11月21日、菅首相はいわゆる「第3波」をうけて「GoToトラベルキャンペーン」および「GoToイート」の運用見直しに踏み切りました。

人の移動を促進させることから「コロナ感染拡大の元凶なのでは?」と常に批判の的になり続けた「GoTo」ですが、実際のところ「GoToが感染拡大の原因である」というエビデンスはない、というのが事実です。

この記事では、「GoTo」と「コロナ」の関係について、3つの観点から考察していきたいと思います。

1. コロナ第3波は「GoTo」が原因なのか?→そのようなエビデンスはない

菅首相のGoTo見直しに先立ち、日本医師会の中川会長は11月18日の会見で「(GoToトラベルが第3波の)きっかけになったことは間違いない」との見解を示したことが話題となりました。

しかし、この発言には「GoToトラベル自体から感染者が急増したというエビデンス根拠はなかなかはっきりしないが」という前置きがあり、かつ「きっかけになったことは間違いないと私は思っている。感染者が増えたタイミングを考えると関与は十分しているだろう」と続いており、発言した中川会長自らエビデンス(根拠)が無い推測であることを認めています。

では、実際のところGoToはどれほどコロナ感染拡大に影響をあたえたのでしょうか。データを元にして考察してみます。

2020年1月16日から11月25日 新型コロナ感染者数推移グラフ
▲2020年1月16日から11月25日までの新型コロナ感染者数推移:口コミラボ調べ

さてこのグラフは日次のPCR検査陽性者数(新規感染者数)の推移を1月16日から11月25日までまとめたグラフです。ここに、重傷者数、死亡者数の推移を重ねてみると以下の通りになります。

2020年1月16日から11月25日 新型コロナ感染者数、重傷者数、死亡者数推移グラフ
▲2020年1月16日から11月25日までの新型コロナ感染者数、重傷者数、死亡者数推移:口コミラボ調べ

新規感染者数のピークにすこし遅れて重傷者数が増加する傾向にあるのが見えます。いわゆる第3波のピークアウトが現状見えていないので、重傷者数については注視が必要ですが、死亡者数がほぼ横ばいで推移していることがわかります。

では、ここに「GoTo」の開始時期を重ねてみましょう。

新型コロナ感染者数、重傷者数、死亡者数推移とGoToトラベル、GoToイートの関係 グラフ
▲新型コロナ感染者数、重傷者数、死亡者数推移とGoToトラベル、GoToイートの関係:口コミラボ調べ

「GoToトラベル」は7月22日からスタートし、10月1日から東京発着も解禁となりました。また時を同じくして「GoToイート」も10月1日からスタートしています。確かに10月1日以降感染者数が増加しているようですが、

  1. 10月下旬まではほぼ横ばい
  2. 潜伏期間〜検査判明までの「2週間」を考慮するとGoToイート開始もしくはGoToトラベル東京解禁が直接の原因なら、もう少し急角度で感染拡大するのでは
  3. なにより、GoToトラベルが7月22日に始まってから第2波が訪れ、そして収束している

以上のことから、「GoToが第3波の元凶だ」と言い切ってしまうのは少々説得力に欠ける印象があります。

さらに、政府の発表によれば11月26日時点では延べ4,000万人泊超の「GoToトラベル」利用があったのに対し、「GoToトラベル」きっかけの旅行者の感染数は202人、「GoToトラベル」参加施設の従業員の感染数が177人とのこと。

GoToトラベル開始時から11月26日までの合計感染者数は約11万人であるのも考慮すると、そのインパクトは大きくないように思われます。

GoToトラベルきっかけの感染者数 GoTo以外 GoToきっかけ 旅行者 従業員
▲GoToトラベル開始以降のGoToトラベルきっかけの感染者数分類:口コミラボ調べ

さて、実は他の国でも「GoTo」のような観光需要を喚起させるような支援策(この記事ではわかりやすく観光支援策をすべてGoToと表記します)がとられています。それらの国での感染状況はどうなっているのでしょうか。

2. 海外版「GoTo」では感染拡大した?→明らかな影響は見られず

まずは10月末に2日間連続で新規感染者0となり、コロナ収束ムードが見られるオーストラリアです。まずは感染者数の推移を見ていきましょう。

オーストラリアの新型コロナ感染者数推移グラフ
▲オーストラリアの新型コロナ感染者数推移:worldometer

オーストラリアは世界的な感染拡大があった3月に第1波が、そして冬の8月(南半休なので季節が逆転します)に第2波を迎えます。

さて、オーストラリア版GoToはどのようなものかでいうと、

  • 期間:2020年7月1日〜(ラウンド1)、2020年11月2日〜(ラウンド2)、2020年2月1日〜(ラウンド3)
  • 対象:ノーザンテリトリー州に居住する18歳以上の市民
  • 支援額など:対象の施設やサイトで旅行を予約すると、200豪州ドル(約1.5万円)を上限に支払い額と同額のクーポンを受け取るれるる(居住地から400キロ以上離れていると更に200豪州ドルうわのせ)※ラウンド2の情報

となっています。この開始時期と感染者数推移のグラフを重ね合わせてみましょう。

オーストラリア新型コロナ感染者数推移グラフGoToの関係
▲オーストラリアの感染者数推移と「GoTo」の関係:口コミラボ調べ

さきほど述べた通り、GoTo開始後に第2波が訪れますが、GoToが直接の原因であれば8月、9月以降にかけてさらに感染拡大してもよいのでは、とも見られます。

次はイタリアを見てみます。

イタリアの新型コロナ感染者数推移グラフ
▲イタリアの新型コロナ感染者数推移:worldometer

こちらも3月に感染拡大した後、夏のシーズンは落ち着きを見せます。しかし10月から11月にかけてかなり大きな感染拡大が発生しています。

イタリア版GoToの概要は、

  • 期間:2020年7月1日から12月31日まで
  • 対象:所得制限有り
  • 支援額など:国内宿泊に対して最大500ユーロの支援

となっています。感染者数の推移と重ね合わせると、

イタリアの新型コロナ感染者数推移グラフとGoToの関係
▲イタリアの新型コロナ感染者数推移と「GoTo」の関係:口コミラボ調べ

このようになり、やはり開始時期から急増しているようには見えません。

他の国の場合でも「GoTo」と感染拡大が一致する例は調査時にはみられず、先にあげた2例を見るのみでは、「GoTo」に喚起された人の移動よりも、冬の到来のほうが感染拡大のリスクが大きいのでは、というようにも見えます。

3. 「GoTo」で潤うのは観光だけ?→「観光業界」はかなり広い

最後の観点は「GoTo」で支援されるのは誰なのか?という視点です。

「GoTo」関連の批判でよく聞かれるのが「GoToで潤うのは一部の業界(観光業)のみではないか(なのになぜ政府はそんなに続けたがるのか)」といったものです。

実は「日本標準産業分類」において「観光業」というものは存在しません。しかし、2007年から「観光立国」を政策として掲げているのもあり、統計上不都合でもあることから、観光庁は国際基準にのっとり、サテライト勘定を作成していわゆる「観光業界」の全体像を取りまとめています。

これをみると「観光業」としてイメージしやすい旅行業(旅行代理店など)や旅館業はもちろんのこと、飲食業や運輸業(鉄道、バス、タクシー、船舶、航空など)、スポーツ娯楽業、農林水産業まで含まれており、「観光業」とはかなり包括的な業界だということがわかります。

2018年の日本国内の内部観光消費は27.4兆円
▲2018年の日本国内の内部観光消費は27.4兆円:観光庁より

例えば2018年の観光消費は27.4兆円ですが、生産波及効果(直接効果を含む)は55.4兆円、このうちの付加価値効果は28.2兆円、そして441万人の雇用効果を生んでいます。それぞれ日本の産出額の5.3%、GDPの5.2%、就業者総数の6.4%に相当しています。

2018年の観光業の経済効果は55.4兆円 GoTo推進の理由
▲2018年の観光業の経済効果は55.4兆円:観光庁より

よって本章冒頭であった「GoToで潤うのは一部の業界(観光業)のみではないか(なのになぜ政府はそんなに続けたがるのか)」という批判については「『観光業』とはかなり幅広く、旅行需要を促進すると間接的に多面的な経済活動の喚起になるため『GoTo』が促進されているのです」という回答になります。

まとめ:この先待ち構えるのは医療崩壊か経済崩壊か

コロナ関連の言説においては、わかっていないことが多いこと、様々な人が不安に思っていることから「なんとなく確からしい犯人探し」がおこりがちです。例えば、今回検証した「GoTo」もそうですし、映画「鬼滅の刃」の大ヒットが原因だという言説もあります。

一方、今コロナの感染拡大に関してわかっていることと言えば、

  • 感染してからの潜伏期間を考慮すると、感染者数は「2週間前」の結果
  • いわゆる三密の環境でクラスターが発生しやすい

というところでしょう。

重要なのは「まずはコロナを完全になくしてから経済活動を再開すればいい」や「コロナはただの風邪なのだから全く気にする必要はない」という「ゼロかイチか」的な考え方ではなく、バランス感をもつことでしょう。

最終的には結果が出てからの答え合わせになります。そのため、よく言われる「医療崩壊」の定義とはなんなのか、どこまで感染拡大しても大丈夫なのか、経済活動はどこまで縮小させても大丈夫なのか、といった考慮すべき点についてデータをもとにして冷静に判断していく必要があります。

<参考>

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    口コミラボ編集部

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