2020年10月20日、アメリカ司法省はGoogleを反トラスト法(独占禁止法)違反として、ワシントンD.C.連邦地方裁判所に提訴しました。
司法省では昨年から1年以上にわたり、Googleをはじめとする大手IT企業に対し不正に市場競争を妨げた疑いを捜査していました。
その結果、Googleの行為が反トラスト法違反を構成する証拠、つまり「独占の事実」が見つかったとして今回の提訴に踏み切りました。
本記事では、Googleはなぜ反トラスト法(独占禁止法)違反で提訴されたのか、米司法省とGoogleの主張から争点をまとめていきます。
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アメリカ司法省、Googleを反トラスト法違反で提訴
アメリカ司法省では昨年より、インターネット検索、SNS、小売業向けオンラインマーケティングの3業種において、一部の企業が市場を支配し競争を阻害しており、技術革新や消費者の利益を侵害しているという見立てをもとに、大手IT企業に対する捜査を進めていました。
司法省は具体的な企業名こそ述べていないものの、GAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)などの企業が捜査対象となっていることを日本貿易振興機構(JETRO)をはじめとする多くの団体や専門機関が予測していました。
結果として司法省がGoogleに対する訴訟に踏み切ったことにより、当初の予測は外れていなかったことが示されました。
そもそも、反トラスト法とは?
今回、Googleが違反したと司法省が指摘する「反トラスト法(Antitrust Act)」は、別名独占禁止法とも呼ばれている法律です。
反トラスト法はトラスト(独占的企業結合)を防ぐために制定された法律で、不当に市場を独占したり競争を阻害する企業を生み出さないために制定されました。
反トラスト法はシャーマン法、クレイトン法、そして連邦取引委員会法の3つの法律により構成されています。
19世紀後半、当時のアメリカでは鉄道、原油、製糖などの分野で市場を独占する企業が現れており、これらの企業による市場支配を規制すべく最初の反トラスト法となる「シャーマン法(Sherman Antitrust Act)」が1890年に制定されました。
シャーマン法は当時の世界において画期的な法律ではあったものの、表現が抽象的であることから思うような効果を発揮しませんでした。
そこで、1914年には「クレイトン法(Clayton Antitrust Act)」が新たに制定され、シャーマン法で抽象的に記されていた対象や行為がより明確に示されました。
同年にはこれら2つの法律を企業に遵守させる機関として連邦取引委員会(Federal Trade Commission, FTC)が設けられました。
そして、連邦取引委員会の活動を定める法律として「連邦取引委員会法(Federal Trade Commission Act)」が制定されました。
これら3つの反トラスト法はアメリカ全土で適用されるほか、州によっては更に独自の反トラスト法を制定している州もあります。
また、同様の法律は世界各国で制定されており、日本には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」、ヨーロッパ連合(EU)には「欧州連合競争法(European Union Competition Law)」が存在します。
なぜGoogleは提訴された?司法省とGoogleそれぞれの主張
司法省は今回Googleを反トラスト法違反で提訴した理由について、「検索」「広告」「アプリケーション」の分野でそれぞれ独占の事実があったとしています。
一方、Googleは司法省の主張を否定しており、消費者がこれらの分野においてGoogleを選んだ結果として市場の獲得に至ったと反論しています。
それぞれの主張と反論について、以下で詳しく解説します。
司法省:「検索」「広告」「アプリケーション」で独占の事実
司法省は、「検索」「広告」「アプリケーション」の分野においてGoogleが市場の独占状態を創り出しているとしています。
まず検索の分野について、司法省はGoogleがスマートフォンなどを製造しているAppleやWebブラウザーを製作しているMozillaやOperaなどの企業と契約を結び、既定のインターネット検索サービスをGoogleに設定する見返りとして報酬を支払っていることが独占を生み出していることを主張しています。
次に広告の分野について、司法省はGoogleが検索結果に競合他社の広告サービスより自社製品の広告や自社のローカルSEO(MEO)を優先して表示させており、競合他社の広告サービスが収益を得ることを阻んでいると主張しています。
最後にアプリケーションの分野について、司法省はGoogleがAndroidに関するほぼ全権限を握っており、世界中で出荷されている多くのAndroid搭載デバイスにGoogle 検索やGoogle マップなどのGoogle製アプリケーションを最初から搭載させていることで、競合他社の市場参入を侵害していると主張しています。
Google:独占ではなく消費者に選ばれた結果
これらの主張に関して、Googleは全てを否定しています。
まず検索の分野について、Googleは自社の検索エンジンが検索市場の多くを占めているのは消費者に選ばれた結果であると主張しており、多くのデバイスやWebブラウザーにおいてGoogleが既定のインターネット検索サービスとして設定されていることについても、簡単な操作で競合他社の検索エンジンに切り替えられることから独占には当たらないとしています。
次に広告の分野について、Googleの上層責任者であるドン・ハリソン(Don Harrison)氏は反トラスト法に関する公聴会において「広告市場ではGoogleのほかにもFacebookやSnapchatなどの競合他社が活動しており、Googleが広告市場を独占している訳ではない」と発言し、司法省に反論しました。
最後にアプリケーションの分野について、Googleは確かに多くのAndroid搭載デバイスにはGoogle製アプリケーションが最初から搭載されているが、一方で多くのAndroid搭載デバイスにはGoogleの競合であるFacebookなどのSNSアプリケーション、Outlookなどの電子メールアプリケーション、GalaxyブラウザなどのWebブラウザーアプリケーションが同じく最初から搭載されており、これも独占には当たらないとしています。
反トラスト法は時代遅れ?Googleが強気な理由
そもそも反トラスト法は100年以上前に制定された法律であり、当時はGoogleのように主要サービスを無料で提供する企業の存在は考えられていませんでした。
また、アメリカでは有史以来において市場競争が好まれ、競争の結果として市場を独占することになった企業に対しては寛容な文化がありました。
更に、現在反トラスト法違反の疑いを向けられているGAFAなどの大手IT企業はほぼ全てアメリカ企業であり、これらの企業を無闇に規制することは市場の健全化よりアメリカの国益を害することに繋がるという議論もあったことから、司法省や連邦取引委員会などもIT企業に対する反トラスト法を盾にした訴訟には消極的だったという過去があります。
このように、一部では反トラスト法そのものを見直す必要性も強調されていますが、Googleが今回の訴訟に対して強気で臨んでいることには更なる理由があります。
過去にはMicrosoftも提訴されたが…
IT企業と反トラスト法といえば、思い出されるのがMicrosoftの反トラスト法違反です。
1998年、司法省はMicrosoftがOS市場において独占的な立場を得ているとして反トラスト法違反の疑いで連邦地方裁判所に提訴しました。
これを皮切りにMicrosoftはEUや韓国などでも同様の提訴を起こされ、WindowsとInternet ExplorerやWindows Media Playerの分離などを命じられたものの、多くの訴訟は最終的には和解に至りました。
Microsoftの訴訟とGoogleの訴訟の間にある決定的な違い
Microsoftの訴訟とGoogleの訴訟は、両者ともIT企業による反トラスト法違反に関する訴訟という点では共通しています。
しかし、両者の置かれた状況は大きく異なっており、Microsoftがたどった道をGoogleも同じようにたどるとは考えにくいとされています。
まず、Microsoftは製造各社に対してライセンス料を課し、Windowsを販売していました。しかしGoogleは製造各社に対してライセンス料は課さず、Androidを無償で提供しています。
また、Microsoftの訴訟があった1990年代後半はパソコンに搭載されている記憶装置の容量も少なく、競合他社のソフトウェアを手に入れる過程も現在より複雑であったことから、WindowsとInternet Explorer, Windows Media PlayerといったMicrosoftのアプリケーションから競合他社のアプリケーションに乗り換えることは今ほど容易ではありませんでした。
一方、現在では記憶装置の容量も発達しており、Googleのアプリケーションから競合他社のアプリケーションに乗り換えることも容易になりました。
このように、当時と現在ではIT業界を取り巻く状況が大きく異なっており、現在の消費者は当時より簡単に競合他社に乗り換えられます。
このことから、Googleは自社製品が市場において大きなシェアを持っているのは独占ではなく消費者に選ばれた結果としており、今回の訴訟も不当なものであるとする態度を見せています。
Googleが敗訴したらどうなる?
しかし、訴訟となった以上はGoogleが敗訴する可能性も完全に捨て去ることはできません。
Microsoftは訴訟の結果、WindowsとInternet ExplorerやWindows Media Playerを切り離すことを命じられました。
もしGoogleにも同じような命令が下れば、AndroidとGoogle 検索やGoogle マップなどを切り離すことになるでしょう。
具体的には、初めてAndroid搭載デバイスを起動した際にGoogle 検索を使うか競合他社の検索サービスを使うか、Google マップを使うか競合他社の地図サービスを使うか、などを選ぶ形になることが予想されます。
しかし、Google 検索は2020年時点で全世界の検索サービスのうち約70%前後のシェアを抱えており、Google マップは2020年2月時点で10億人以上の月間アクティブユーザー(Monthly Active User, MAU)を抱えています。
たとえGoogleのサービスと競合他社のサービスが選択できるようになったとしても、これだけ多くのユーザーがすぐにGoogleを離れるとはあまり考えられません。
万が一Googleが今回の訴訟に敗訴したとしても、Google 検索やGoogle マップなどのGoogle系サービスの存在を根本から揺るがすほどのユーザーの移転は起こらないだろう、という見方が有力です。
<参照資料>
日本貿易振興機構:米司法省、反トラスト法違反を理由にグーグルを提訴
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