サンクコスト(Sunk Cost、埋没費用)とは、既に投資している事柄のうち、その事柄から撤退、中止をしたとしても回収できない資金や労力のことを指します。
回収できない労力や資金を惜しみ、「今さら引き返せない」「元をとらなければならない」「損をしたくない」という心理が働くことをサンクコスト効果とも呼びます。
サンクコストはビジネスシーンだけではなく、私たちの日常生活のあらゆる場面で発生し、意思決定に大きな影響を与えます。
本記事ではサンクコストについての解説と、マーケティング現場でつかわれる具体的な事例を併せて紹介します。
サンクコストとは
サンクコストは回収できなくなった投資費用を意味し、その損失を考慮したとき、時に人々に合理的でない誤った判断をさせることがあります。
まずはサンクコストの意味やその及ぼす影響について、具体的に紹介します。
一度払うと取り返せない投資費用
たとえば新規のカフェをオープンしたとしましょう。開店資金として1,000万円を投資したのに、すぐ近くに話題のチェーン系カフェが開店してしまい、客足は伸びないどころか減少の一途という状況になったとします。
こうした状況のとき、すぐに閉店してしまっては当然開店資金1,000万円は回収できません。その一方で黒字化が見込めないまま営業を継続したとしても赤字がかさみ、損失は拡大してしまいます。
この例のように、「すでに投資した事業のうち、回収できない費用」がサンクコストです。
サンクコスト効果
上記のカフェの例のように、すでに投資した事業のうち回収が見込めないコストを考慮した時、誤った判断を引き起こすことがあります。
こうした投資したお金、労力、時間などを惜しむ気持ちが、これからの意思決定に非合理的な影響を及ぼすことを「サンクコスト効果」と呼びます。
先ほどのカフェの事例の場合、「せっかく1,000万円も投資したのに」といった意識に支配され、冷静な判断が下せなくなり、損失を取り返そうとして無理に事業を継続しようとしてしまうこともサンクコスト効果の一つです。
類語:コンコルド効果(コンコルドの誤謬)
サンクコスト効果は、「コンコルド効果」(または、コンコルドの誤謬)と呼ぶこともあります。
これはかつてイギリスとフランスが共同で開発し、世界で初めて「音速を超える飛行機」として名を馳せた「コンコルド」という飛行機にまつわる逸話に由来します。
この飛行機には巨額の開発費用がかけられていましたが、「離着陸できる空港の条件が限られる」「定員数が少ない」といった理由から採算が取れないことを理由に発注のキャンセルが相次ぎます。
その結果、採算ラインとされた250機より大幅に少ない製造数に留まってしまいました。そのため最終的に数兆円の赤字が発生し、結局は飛行機事故をきっかけにプロジェクトは放棄されました。
実のところ、コンコルドはその開発途中の段階で黒字化が望めないことがわかっていましたが、それまでの投資を無駄にしたくないと開発が続行され(サンクコスト効果)、結果として損失額がより巨大化してしまいました。
こうした事例から、サンクコスト効果をコンコルド効果と呼ぶこともあります。
サンクコストの事例
ここではサンクコストに対する理解を深めるために、日常生活の中で誰もが遭遇しうるサンクコストの事例について紹介します。
事例1. 順番待ちの途中で抜けられない
人気の行列店に並んで順番を待っている時、待ち時間30分といわれたのに45分経っても入店できる気配がないと、「他の店に行く」という選択肢が浮かびます。
ところが並んだ時間が長ければ長いほど、「ここまで並んだのだからあと少しだけ並んでみよう」と思い直し、さらに我慢して順番を待ってしまいます。
この場合、「それまでに並んだ時間」がサンクコストになります。このまま並ぶかすぐに入店できる他店へ移動するのかを決断する場合、「過去に並んだ時間」というサンクコストを排除して判断しないと、合理性な結論が得られません。
事例2. ギャンブルでの課金をやめられない
サンクコスト効果の影響が深刻になる事例が、ギャンブルです。
たとえばパチンコやスロットをして、5万円を投入しても全く当たりが出なかったとします。「すでに5万円損失している」のが事実です。こうした場合、これ以上損失を広げないためには「今日はツキがない」とでも思って店を後にするのが合理的な判断となります。
ところがここでサンクコスト効果の影響を受けると、「5万円も投入したのだから少しでも回収したい」「あと1万円投入すれば当たりが出て5万円も回収できる」と考え、そのままギャンブルを続けてしまうことがあります。そうした行為は、結果としてさらに負けを大きくしてしまう可能性につながってしまいます。
事例3. つまらない映画鑑賞を途中でやめられない
サンクコストは、映画鑑賞にも当てはまります。
1,900円で2時間の上映時間のある映画のチケットを購入し、鑑賞するとします。ところが10分ほど鑑賞してみたら、あまり面白さを感じませんでした。
この場合、合理的な判断をするのであれば「つまらない映画を見続けるのは時間の無駄」と決断して映画の鑑賞をやめ、残りの1時間50分を有効につかうのも手です。
ところが「1,900円も払ってチケットを買ったのに」というサンクコスト効果がはたらくと、いずれにしろ回収できないチケット費用1,900円のために、つまらない映画を見続けてしまう判断になりかねません。
サンクコストのマーケティングへの活用事例
ここまではサンクコスト効果がもたらす意思決定へのネガティブな影響について紹介しましたが、扱い方次第ではマーケティングへの活用も可能です。
ここでは、サンクコスト効果をビジネス利用した3つの事例について紹介します。
1. 定期購読の雑誌を継続購入することで完成する付録
テレビCMなどでもよく目にする出版物に、「パートワーク(分冊百科)」があります。
これは1年程度毎月雑誌を購入し、付録のパーツを組み立てることで1つのプラモデルなどを完成させるスタイルのもので、通常創刊号だけが破格の値段設定になっています。
安さに惹かれて創刊号を購入した読者は、途中でプラモデル作りに飽きてしまっても、それまでに払った購入代金が惜しくて毎月雑誌を買い続けてしまうことがあります。
これはサンクコスト効果をマーケティング活用した好例といえます。
2. 携帯ゲームのガチャ
サンクコスト効果を活用したマーケティング戦略が、間接的に社会問題にまで発展した事例が携帯ゲームです。
ゲームは無料でプレイできますが、レアアイテムや自分の欲しいキャラクターを獲得するためには、「ガチャ」などと呼ばれる課金サービスを利用すると有利になります。
その中に、特定のアイテムを全て揃えなければ目的のアイテムを獲得できない「コンプリートガチャ」と呼ばれる仕組みがあります。
これは「ここまで揃ったのだから」「3,000円も使ったのだから」というサンクコスト効果を使い、目的のアイテムを獲得するまで課金を続けてしまう流れを生み出しました。
ビジネスの視点では利益につながりますが、親のクレジットカードを無断で利用するなどして高額な課金をするケースが目立つようになり、社会問題として注視されるまでになりました。
3. 会員ランクやポイントの発行
通販の会員サイトで「今月はシルバーランクです」のように、購入金額に応じてランク付けをしているサイトも少なくありません。これもサンクコスト効果を利用したマーケティング戦略の一環です。
「あと1万円でゴールド会員になれる」「ゴールドになれば送料が無料になる」といった情報に紐付けられると、「あと数百円でランクアップするなら、一緒に予備用も買っておくか」「ゴールド会員の権利が維持できるから、買い物はこのサイトに限定しよう」といった気持ちを抱きやすくなります。
特に期限付きのポイント制などの場合、「20日までに買い物しないと、これまでのポイントが失効になります!」といったメールが届くと、サンクコスト効果がはたらき、ポイントを失効させないための購買活動につながります。
サンクコストについて正しい理解と判断を
これまで紹介してきたように、「もったいない」と思ってしまう人間にとって、サンクコスト効果は日常のいたるところで影響を及ぼします。
投資したお金がもったいない、費やした時間がもったいないといった気持ちは誰にでも起きるものであるからこそ、ビジネスシーンではそれを逆手にとり、応用される事例もあります。
マーケティング戦略の一環として活用するためには、ユーザーの「もったいない」という心理を刺激し、サンクコスト効果を喚起させることが成功のポイントになります。
店舗の売上を向上させるためには、定期購読の付録の例やポイント制の導入などを参考に、サンクコスト効果をビジネスの中に取り込んで、消費行動に影響を与えることが重要です。
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