1990年代後半より、インターネットコンテンツの発達と台頭などによって出版不況といわれ、書籍や雑誌など紙媒体の市場は2020年まで16年連続で減少し続けています。
しかし、そんな状況の中にあって、TSUTAYAを擁する株式会社蔦屋書店(以下、TSUTAYA)では2020年の年間販売額が1,427億円と、過去最高を記録しました。
本記事では、TSUTAYAが過去最高額の販売額を達成できたその背景や戦略について解説していきます。
書籍事業が好調:2020年、書籍・雑誌販売額過去最高の1,427億円に
TSUTAYAなどを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社は、20年間でその販売額を約4倍まで成長させ、今や書店最大手といわれるまでになっています。そうした中、2021年1月21日にTSUTAYAは、2020年1月から12月までの国内書籍と雑誌の販売額が過去最高の1,427億円となったことを発表しました。
過去最高の販売額を実現できた背景としては、2020年期間に国内に34の新規加盟店がオープンしたことや「六本木 蔦屋書店」のリニューアルオープン、既存店の書籍と雑誌全体での前年比販売額が110%と書籍販売が好調だったことなどが挙げられます。
前年比販売額:書籍ジャンル(105%)、えほん・児童書のジャンル(108%)、コミックジャンル(138%)※「鬼滅の刃」を除いた場合(115.8%)
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TSUTAYAの独自戦略とは?
人々の生活に欠かせない「カルチュア インフラ」を提供するTSUTAYAでは、カフェやイベントスペースなどを複合させた「蔦屋書店」や、「TSUTAYAコミック大賞」「TSUTAYAえほん大賞」といった独自企画での書籍の売り出しなど、さまざまな戦略を巧みに展開しています。
1. 独自企画による商品の売り出しを実施
TSUTAYAでは2016年から「みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」を実施しており、それによって選出されたコミック作品はイチオシコミックとして全国のTSUTAYA店舗で大々的に売り出されます。その結果、2020年に大賞に選出された「SPY FAMILY(作者:遠藤達也、出版社:集英社)」は、受賞発表前後比のTSUTAYAでの売上が147.5%と大きく伸びを見せました。
また、2020年には初となる「TSUTAYAえほん大賞」が実施され、直近1年の間に新しく出版された絵本の中から対象作品が選定されました。
今回大賞を受賞した「パンどろぼう(作者:柴田ケイコ、出版社:KADOKAWA)」をはじめとした入賞11作品のTSUTAYAでの累計売上数は、受賞発表後2か月で約9.5万部となっています。昔からよく読まれているロングセラー作品が好まれるジャンルの中にあっても、新たな絵本作品として好評を博しています。
2. 街ごとのニーズに合わせた店舗づくり
TSUTAYAのCDや書籍の販売、レンタルに加えて、イベントスペースやカフェ、旅行代理店カウンターなどが複合された「蔦屋書店」は現在国内に19店舗展開されています。代官山の人の流れを変えたと言われる1号店の「代官山 蔦屋書店」や、「アートのある暮らし」をテーマにした「銀座 蔦屋書店」など、蔦屋書店はその立地や街のニーズに合わせて店舗が作られています。
2013年に開業した「函館 蔦屋書店」では、まず函館 蔦屋書店を物を売る場ではなく「人が集まる場」として育てる「地域密着&コミュニティー形成」という手法が取られ、自然な形で人が集まれるスペースや子どもが遊ぶキッズパーク、音響と大画面のモニターを備えたステージなどが店舗内に設けられました。
開催されるイベントの例として、子育て中のパパママのコミュニティー活動「マミノワ」を主催するタカハシマミ氏は、以前より子どもの性の話や子育ての悩み、育児法を共有しながら子育て中の親同士をつなぐための活動を函館 蔦屋書店で展開しています。
コロナ禍で一度休止となったものの、2021年4月より函館 蔦屋書店と共催する「ツタノワ」として活動を再開し、毎月4~6回のイベントを店内のキッズパークで開催しています。また、子育て以外にも旅行や英会話、料理などといった趣味に関するコミュニティー活動は月に80~90回ほど開催されています。
店舗で開催されているイベントについては、函館 蔦屋書店がそのイベント内容に注文を付けたり、会場代を徴収することはないとのことです。
3. リアル店舗×オンラインで掛け合わせたイベントの開催
TSUTAYAでは、以前に月に500回程度書籍の著者を店頭に招いたイベントが開催されていましたが、コロナ禍でいったんそういったイベントの開催は休止されていました。しかし、2020年6月より、代官山 蔦屋書店での店頭イベントをオンライン配信する形でイベントを再開させています。
その後、TSUTAYAのイベントはこの形に加えて「店内イベントを複数の店に配信するサテライト開催」や「オンライン配信のみ」、「サテライト開催にオンライン配信を加える方式」で展開されています。
2020年6月の再開から2021年5月までの1年間で約9,000回もイベントが開催され、そのイベントへの累計参加人数は、店頭とオンライン両方の参加者を合わせると約12万人にもなりました。
オンラインと書店を融合させて新しいイベント参加の方法を組み込んだことにより、多くの消費者に「蔦屋書店」の存在を知ってもらうことができて収益拡大の機会も得られたとのことです。
コロナ禍でも成長を続ける蔦屋書店、オンラインや地域密着がカギに
小売業回全体にも新型コロナウイルス感染拡大による厳しい影響が続いているなかで、TSUTAYAは過去最高の販売額を達成しました。その背景には、休止となっていた著者イベントなどを店舗とオンラインを融合させた形で再開させたり、TSUTAYA独自の「賞」を創設して大賞作品をイチオシとして売り出すことで販売の強化を行なったりなどの取り組みが見られます。
さらに、2020年には国内に34店舗を新規にオープンさせた出店強化の成長路線も要因のひとつといえるでしょう。
特に、書籍やCDなどの販売だけでなく、カフェやイベントスペース、さらには旅行代理店のカウンターなども複合させた「蔦屋書店」のブランド力は強みとなっています。
それに加えて、蔦屋書店は出店地域に合わせたテーマやコンセプトを設定した店舗作りを行なっており、函館 蔦屋書店では地域のコミュニティ活動の拠点として使用してもらうことで店舗に人を集め、収益につなげています。
こうした、地域のニーズに合わせた店舗を展開する「地域密着」の戦略も成長のカギとなっているようです。
<参照>
カルチュア・コンビニエンス・クラブ公式サイト:TSUTAYA書籍・雑誌 2020年年間販売総額1427億円 過去最高を更新
東洋経済ONLINE:代官山とは違う!函館の巨大な「蔦屋書店」の全貌
日経クロストレンド:書店ゼロの街をなくす リアル店舗の雄・蔦屋書店の地域密着戦略
マミノワ:公式サイト