人が複数の選択肢から一つを選ぶ際の判断には、数字や条件といった客観的要素だけではなく、それらから受ける印象や感情といった主観的指標の影響を受けています。
ある事象の起こる確率について数字で示された場合、それに対する主観的な印象が判断に影響を与えることを特に「確実性効果」といいます。
確実性効果はマーケティング施策にも取り入れられています。
本記事では確実性効果について、そして関連する理論や実際の事例について解説します。
確実性効果とは
ある事象がどの程度の確率で起こるかという客観的な確率を情報として理解したとしても、主観的な印象に基づいて判断をすることや、その結果として合理的でない選択をするという現象があります。
この主観的な印象や、それに基づく判断が、確実性効果です。
確実性効果と呼ばれる心の動きと、条件がどのように心理に影響するかを説明します。
0%や100%を基準に「主観的な確率」を感じとること
ある人が確率について認識する際、過小評価や過大評価をすることは珍しくありません。
人間の感覚では、絶対に発生する100%や絶対に発生しない0%を起点として、客観的な確率よりももっと高いもののように感じたり、逆にもっと低いことのように感じたりすることがあります。これが確実性の効果です。
たとえば、アイドルコンサートのチケットの抽選のように、ある人がそのようになってほしいと考える出来事の起こる確率について考えます。
この場合、出来事の起こる可能性が80%から85%になる場合よりも、5%だったものが10%になる場合の方が、より良いことのように感じるといわれています。
確率が高いほど、より確実に得られるものを選ぶ
「20万円を確実に入手できる」「80%の確率で30万円を入手できるが、20%の確率で0円になる」という2つの選択肢が与えられたとします。
選択肢から一つを選んでもらう際に、多くの人が確実に20万円を入手できる前者を選ぶとされています。これは、人にはより確実なものを選ぶという心理があるからです。
この場合においては、「80%の確率で30万円を入手できるが、20%の確率で0円になる」では、30万円を手に入れられない可能性があることに対し、「20万円を確実に入手できる」確率が100%です。
そのために多くの人が前者を選ぶとされています。前者を選べば損をせずに利益を得られることになります。
確率が低い場合、大きな利益を得られるものを選ぶ
一方で「4%の確率で20万円を入手できる」「3%の確率で30万円を入手できる」という2つの選択肢から1つを選ぶ場合においては逆の現象が起こります。
この2つの選択肢では、多くの人が「3%の確率で30万円を入手できる」という選択肢を選ぶからです。
この場合には、4%と3%という少しの差であれば、より多くの額を手に入れたいという心理がはたらいています。
2つの選択肢の確率が両者とも低い際には、人はより多くの額を手に入れられる確率を過大評価する傾向にあるため、後者を選択する人が多いです。この確率を過大評価することが、先に解説したように主観的に確立が認識されている例です。
確実性効果と関連する理論
確実性効果だけでなく、人の心理的特徴についてはほかにもさまざまな理論が存在します。
こうした特徴が相互に作用しあうなかで、消費者の意思決定はなされています。
確実性効果をマーケティングに活用する際には、そのほかの理論にも焦点を当てる必要があります。
可能性効果
一つが可能性効果です。
確実性効果は、不確実だとされていた事象が、確実な事象になることで生じる心理変化を指します。
一方で可能性効果は、可能性が全くなかった事象に対して数%でも可能性がうまれると生じる心理的な変化です。
たとえば当選金額が1,000万円の宝くじを購入したとします。購入した宝くじの当選確率が50%から55%になるよりも、0%であった当選確率が5%になるほうが、確率そのものは低いにもかかわらず嬉しく感じます。これを可能性効果といいます。
プロスペクト理論
プロスペクト理論は、あらかじめ予想される確率によって、人が下す意思決定がどのように変化するのかをモデル化したものです。確実性効果や可能性効果は、プロスペクト理論に含まれています。
ここまで解説したように、人が下す意思決定は様々な条件を加味した合理的なものではありません。意思決定には数字から受ける感覚や感情からなる非合理性を持っているとされています。
顧客の不安を取り除き購入を促す「リスクリバーサル」や、同じ事象について表現を変えることで情報の受け取り手の印象が変わる「フレーミング効果」などが実際のビジネス現場で活用されています。
損失回避
人が利益よりも損失を重く評価するということが分かっています。つまり人は、「10万円得すること」を嬉しく思うよりも、「10万円損すること」を悲しく思う方が感情の振れ幅が大きいということです。
たとえば株取引において、現在10万円分の損失を抱えている人が、「このまま株を保有していれば損失が埋まるかもしれない」と株の損切りができなず、最終的にさらに損失を広げてしまう例がこの損失回避です。
企業においても、数千億円を投資した事業が無駄にならないためにさらに投資を続け、最終的に損失がその何倍にまで膨らんだという超音速旅客機コンコルドの例などがあります。このような例は「コンコルド効果」や「サンクコストバイアス」とも呼ばれています。
マーケティングにおける確実性効果の活用事例
確実性効果はマーケティングにおいて活用されています。その例が「100人に1人購入額が無料になる」といったキャンペーンです。
実際の確率は1%であるにもかかわらず、無料になるのは自分かもしれないという思考が生まれることで、その利益を得るために商品を購入しようとします。
商品を購入しなければ購入額が無料になる確率は0%ですが、商品を購入することでその確率が1%になることで、1%という確率を過大に評価する確実性効果の心理変化を利用した事例です。
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確実性効果とは、人が複数の選択肢から一つを選ぶ際に、より確実な結果をもたらす方を好んで選ぶことです。人の選択は数字や条件によって合理的に決められるものではなく、感覚や感情などの非合理性を持っています。
この非合理性は、確実性効果以外にも可能性効果や損失回避などの理論によっても生じており、これらの非合理性を利用したマーケティングも取り入れられてます。たとえば「100人に1人購入金額無料」というキャンペーンは、確実性効果を活用した事例の一つです。
あらゆる理論を理解し取り入れることで、より多面的にマーケティング施策をうつことができ、より良い結果も期待できるでしょう。
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